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釜石市の堤防と言えば、三陸地方沿岸で相次ぐ津波災害に対処するため、1978年より津波防波堤の建設に着手し2008年に完成した知る人ぞ知る釜石港湾口防波堤がある。 調査対象となった三陸海岸 作成:青山貞一 3.11が起きた後、八ッ場ダム事業問題を徹底取材してきた高杉晋吾氏とこの釜石の巨大堤防について議論したことがある。 残念だが、今回の現地調査で釜石には行ったものの、巨大堤防の現場に物理的に行くことはできなかった。 釜石大観音から見えるはずだったが、あいにくの霧と雲で下の写真のように見えなかった。 釜石大観音から釜石巨大堤防方向を写した写真。残念ながらこの日はものすごい霧と雲があり肉眼では見えなかった。位置としては左上である。 撮影:青山貞一 2011.8.23 この日は、釜石大観音も霧で以下のようにぼんやりしか見えなかった! 霧でぼんやりの釜石大観音 撮影:青山貞一 2011.8.23 下は釜石大観音にあった日本の海図第1号。 撮影:青山貞一 2011.8.23 日本における海図第1号 撮影:青山貞一 2011.8.23 この巨大堤防は、下のグーグルマップで分かるように、2つあり、北堤は990m、それに南堤が670mの2本から構成されている。 破壊されるまえの釜石大堤防 出典:国土交通省、釜石港湾事務所 湾口防波堤は、最大水深63mの海底からケーソン工法により立ち上げたもので、2010年には「世界最大水深の防波堤(Deepest breakwater)」としてギネスブックによる世界記録として認定されていた。 写真1 無惨に破壊された釜石市湾口スーパー堤防 (写真中右の湾口部にある白い破線と線) 出典:Google Map しかし、2011年3月11日の東日本大震災に伴う津波によりケーソンが決壊、破損し、水面にとどまるのは上の写真でも分かるように、実に北堤でわずか2割、南堤でも半分という状況になった。 写真2 無惨に破壊された釜石市湾口スーパー堤防 出典:Google Map 写真3 無惨に破壊された釜石市湾口スーパー堤防 出典:Google Earth 写真4 無惨に破壊された釜石市湾口スーパー堤防 出典:Google Earth 写真5 無惨に破壊された釜石市湾口スーパー堤防 出典:Google Map 写真6 無惨に破壊された釜石市湾口スーパー堤防 出典:Google Earth この巨大公共事業には、総工費で1,200億円という巨費が投じられていた。国土交通省の付置独立行政法人である港湾空港技術研究所によれば、この湾口巨大堤防は、市街地での浸水を6分遅らせ、沿岸部の津波高を推定で13mから実測7-9mに低減させたという効果を試算しているが、事業当事者に近い同研究所の試算でもあり、その真意は??である。 第三者、とくに海外の専門家らによる事後評価が待たれるところである。 というのも、今回の東日本大震災・津波による破壊で、今後さらに巨額をかけ国土交通省が巨大堤防を構築する可能性が否定できないからである。 実際、今回、釜石市の市民に対して行ったインタビューの一環として巨大堤防について聞いてみた。すると、市民から「あの巨大堤防が無かったらもっと被害が大きくなった」という回答が返ってきたのである。 しっかりとした第三者による検証がないまま、行政担当者や当該堤防の事業者側がその種の評価情報を釜石市民らに流布しているとすれば、大きな問題である。 下は2011年4月2日の読売新聞記事であり、市民らは以下のような記事を根拠に「もし、あの巨大堤防が無かったもっと被害が大きくなった」と思いこんでいるのだろうが、仮に津波浸水を6分遅らせる効果があったとして、それだけで1200億円もの巨費を投入したB/Cを含む費用対便益があっただろうか? というのも、今回の場合、市民の防災意識は、1200億円かけた巨大堤防があるから逃げなくても平気、問題ないという心理になりがちであり、それが被害を大きくしていたかも知れないからである。 津波浸水を6分遅らせたとするのは、事業者側の苦し紛れの言い訳に過ぎず、何の言い訳にもならないと考える。
筆者(青山貞一)らは、別の疑義を感じている。まだ3次元流体津波シミュレーションをしていないので、定量的に明確に述べることは出来ないが、湾口に設けられた当該巨大堤防は、写真1に見られるように、北側、南側に設置されており、それらは湾口のすべてを塞いでいるわけではない。また南側の堤防のさらに南側も塞がれていない。 となると、塞がれていない湾口部分に押し寄せる初期段階の津波は、堤防部分に押し寄せた津波より、流速が増し、重力加速度が増えたのではないかと仮説的に考えられるのではないか? 津波の初期段階では当然、湾口の巨大堤防はそれなりの効果があったとしても、逆に押し寄せる津波の流速は、 津波の流速Sは、S= で決まる。 ただし、 dは水深(単位はm)、Sは速度で秒速 (m/sec) 、gは重力加速度、Hは水面上の波高である(単位はm) となると、巨大堤防が存在しない部分は、ある部分と水深dは変わらなくても、Hが大きくなり、 結果的にSが大きくなると思える。 また、津波による沿岸域での流体力 F(流体力)は F=1/2 ρCS^2・A で計算される。 ただし、ρ:海水の比重、 C:抗力係数、 S:津波の速さ、A:湾奥ないでの堤防面積 とすると、湾奥の沿岸域で受けるFは巨大堤防がない場合に比べ、部分的にではあれSが早くなる分、大きな力となったのではないかと推測する。 以下は、その昔、長崎県諫早湾干拓事業に関連し、私たち環境総合研究所が実施した水門開放に伴う3次元の潮流シミュレーション結果の一部である。使用したモデルは環境総合研究所大阪の大西行雄氏が京都大学防災研究所時代に開発した多層位潮流数値計算モデルである。 |
諌早湾の潮流 ケース3−3:水門3つ開放(中潮 満潮)
出典:諌早湾閉め切り開放に伴う潮流の予測・評価に関する自主調査研究
(中間報告:フェーズ3:シミュレーション結果)
環境総合研究所(東京都品川区)
上のシミュレーションが意味するところは、堤防がない開口部(上では3つの水門部)では、その流速が大きくなり結果的に、湾奥に到達する波がもつ速度は高まり、流体の力も増すことになることにあろう。 もちろん、上記のシミュレーションは津波の影響予測のために行ったのではなく、水門を開けた場合、潮流がどう復活するかについてのシミュレーションであるので、あくまで参考の域を出ないが、1200億円と巨額を掛けながら、中途半端な巨大堤防をつくったことで、市民心理的にだけでなく、物理的にも被害を大きくした可能性がないとは言えないのである。 「1200億円かけて作った釜石港湾口防波堤をも無にした津波と今後の防災」というブログ(日本経済をボロボロにする人々)で以下のような記述があったが、これは至言だと思う。 これは何も堤防だけでなく多くのダム事業についても妥当するだろう。ためにする公共事業の多くの末路である!
つづく |