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敢然と東九州道
の路線変更に挑む農園主A
〜民営化で益々進む政官業利権!?〜

青山貞一
東京都市大学名誉教授

掲載日:2008年1月16日、18日拡充

独立系メディア E-wave Tokyo
転載禁

青山貞一:敢然と東九州道の路線変更に挑む農園主
@道路局は現代の「関東軍」か H土地を売らないの仮処分を提起
A民営化で進む高速道 I現地住民集会開催
B地場産業と環境を破壊する高速道 J行訴第10準備書面
C代替ルートの政策提案 Kルート変更求め集会
D総事業費の比較 東九州道、事業認定事前差止訴訟提起
E岡本氏と櫻井よし子氏 L事業認定差止訴状
F国会で大いに議論を! M第一準備書面全文
G欺瞞に満ちた道路特定財源案 N国土交通省ヒヤリング
H土地を売らないの仮処分を提起 O国土交通省との直接交渉

 ところで、道路公団の民営化は、採算性、必要性の観点から、現在の整備計画を見直すことからスタートしたはずである。だが政府・与党協議では、9,342キロという整備計画の全線建設を前提としたものとなった。

<データで見る高速道路の状況>
●道路公団の長期債務27兆円(首都、阪神、本四で債務12兆円。本州四国連絡橋公団は3.8兆円)
●道路公団が民営化後に支払う固定資産税は年間3000億円
●第2東名・第2名神(456q、10.6兆円の建設費。第2東名建設完了時には現在の料金の約3倍でないと採算ならず)
●高速道路の未整備区間=2,383q
●高速道路の整備計画=9,342q
●未供用区間の全体事業費 19兆4,690億円
●東京湾アクアライン(計画交通量:33,000台/日⇒実績:13,000台/日
   99年の料金収入144億円。99年の支出431億円 計280億円の赤字)
●建設費の償還終えた路線
   ・東名:+2兆7991億円
   ・中央、名神:1兆3793億円
   ・中央道富士吉田線:2262億円
   ・東関道水戸路線:834億円
   ・近畿自動車名古屋大阪線(名阪):413億円
●日本道路公団の無料化した64路線のうち、建設費が完済出来なかった39路線の合計額は869億円
出典:高速道路、何が問題なのか

 また、現在の道路特定財源の見直しとの関連で政府・与党は、ガソリン税などに上乗せされた暫定税率を10年間延長したうえで、道路建設を続けるために巨額な税収を温存し、10年間で59兆円を道路だけに使い切ると国土交通省が言い出し冬柴大臣がそれを追認した。

 さらに国土交通省は、高速道路建設の総延長を整備計画+未整備計画の11000kmとすると言いだし、高規格道路建設の総延長を14000kmと委員会などで言い出している。

 国会無視の既成事実の積み上げがつづき、内閣はそれを追認し続けてきたのである。

 全国紙ではほとんど報じられていないが、小泉政権時代にまがりなりに止まっていた国土幹線自動車道などの残された幹線道路の整備路線が動き出している。 
そのひとつに東九州自動車道がある。

 当該地域には一般国道10号線やそのバイパス、さらにその前後には高規格の有料道路がすでに建設、供用されている。それらを利用すれば将来ともに、敢えて巨額を投入し、幹線自動車道路を建設する必要は誰の目にも明らかであろう。

 東九州自動車道路は福岡県の北九州市から大分県、宮崎県を通り、鹿児島県に向かう国土幹線自動車道路である。このところにわかに事業化が進められ出したのは、福岡県の椎田南ICから大分県の宇佐ICの間の区間である。

 今回問題となっている路線は、福岡県椎田南ICから豊前市を通過し、大分県中津市に入り宇佐ICまでの区間である。これらの区間は小泉政権時代、整備が中断されていたが、この一年にわかに民営化された西日本高速道路株式会社が用地買収交渉などに入っている。


図10  対象となる東九州自動車道の路線区間
出典:西日本高速道路株式会社

.....

 このいわば国策幹線道路、東九州自動車道の建設に敢然と叛旗をひるがえしている男がいる。

 中津市に住み、豊前市に12ヘクタールに及ぶ広大なみかん農園をもつ岡本榮一氏である。岡本氏が所有し経営するその広大な岡本農園は、数年前まで日本一の規模を誇っていたそうだ。


岡本農園。陸橋は一般国道10号線。その向こうに豊前火力が見える。
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix


豊前火力。現在は止まっている
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 「豊前」といえば豊前火力を、豊前火力と言えば、知る人ぞ知る「暗闇の思想」で全国的に著名な松下竜一氏が居住した町である。

 松下竜一氏が火力発電所の建設に徹底反対したあの豊前である。岡本氏はその松下竜一氏の運動にも参加し、松下氏から大きな影響を受けているという。

 岡本氏が東九州自動車道建設に反対した直接的な理由は、全国的規模の優良なみかん農園のど真ん中に東九州自動車道の路線が選定されたことにある。

 道路用地として70mを超す幅で数100m道路が農園の中を通過すれば、40年以上続けてきたみかん農園が破壊されるからだ。


東九州自動車道の路線(赤線)と岡本農園の位置を説明する岡本氏
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 当初、みかん農園が建設省が引いた線によって破壊されることに大きな義憤を感じた岡本氏だが、利権に満ちた国土幹線自動車道の実態を調べてゆくうちに多くの疑問、疑義を感ずるに至った。


岡本氏の農園でつくられるみかんは除草剤無使用
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 たとえば過去、国土幹線自動車道の建設費は1km当たり約77億円と巨大なものである。ほとんど誰も、この建設原価をまともに調べていない。岡本氏は、これを徹底的に調べ上げたのだ。

 東九州自動車道の場合も、事業者が選定した路線における土地取得費を含む工事費は、ほぼ同じ額であった。

 しかし、岡本氏が事業者から得た国土幹線自動車道の工事積算資料を、その昔、事業者側が地元住民に示した路線に対応させ入念かつ徹底的にチェックしたら重大な事実が判明したのである。

 .....

 岡本氏の東九州自動車道への反対運動は、「建設反対」ではないところに大きな特徴がある。一見、弱気のように見える。しかし、その実、岡本氏の運動は事業者側にとって何でも反対の運動よりはるかに怖い存在となっているはずだ。

 岡本氏の運動では、事業者側の路線選定が明らかに間違っていることを、用地取得費、工事費、環境影響、地域産業などあらゆる面から実証的に検証するだけでなく、総費用で1/2〜1/3、環境影響が少なく、地場産業への影響もほとんど無い路線を「代替路線」として提案している。しかも、その代替路線は、経済面だけでなく、技術面でも合理的で妥当性がある。

 
事業者路線と提案している代替路線の建設コスト比較を
土木工事の箇所別、構造別に説明する岡本氏

撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 具体的に言えば、事業者が示した路線は、豊前市で岡本農園のど真ん中を貫通するのだが、これをもう少し山側に路線を移し、その後も山側に移すことで、用地買収費は大幅に削減され、ほとんど集落、民家を通過することがなくなり、さらに優良農地や宅地の用地を買収する必要が無くなるという。

 当然、民家や集落を通らないから、大気汚染、騒音の影響や被害が激減する。さらに景観上も問題が減るなど、一気に問題が減る。もちろん、山側となるといってもトンネルはほとんどない。70数mに及ぶ盛土構造の道路が大幅に減るから用地買収面積が大幅に減り、工事費も減る。

 その結果、岡本氏の詳細にわたる積算結果によれば、総工費は事業者側の予算の1/2〜1/3で十分に道路が建設できるというのである。事業者側の計画によれば1km当たりの建設費は70億前後であるのに対し、岡本氏が提案する代替路線の場合には、1km当たり20数億円で建設が可能となるという。

.....

 この正月、2008年1月の5日と6日、岡本氏の案内で事業者側と岡本氏がそれぞれが提案している路線の周辺地域をじっくりと実査してみた。同時に、民家の世帯にも立ち寄り意見を伺った。


事業者側が引いた路線の主な地点を案内する岡本氏
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 その結果わかったことは多々あったが、とくに問題なのは、事業者側が選定した路線の多くは優良な農地であり、集落がある場所、また民家がある場所であった。敢えてそれらの地域を選んで高速道路を通そうとしている、といっても過言ではないようだ。

 きわめつけは、インターチェンジが立地される場所である。予定地には、多くの住宅が最近になって建設されていたのである。読者はこれらが意味することが分かるであろう。


優良農地の上に打たれた杭。70mほど先にも杭がある。
その間に道路ができることになる。

撮影:青山貞一 Nikon Coolpix

 簡単に言えば、まず、この国土幹線自動車道路としての東九州自動車道は、日本中どこにでもある「公共工事のための公共事業である」ことだ。国道10号線やそのバイパスで十分交通は捌けているにもかかわらず、この期に及んで1kmで70億円もかける自動車専用道路を建設する理由は明らかである。

 と同時に事業者が引いた路線は政治家、土建業者、不動産業者らの利害、さらに利権との関連で選定されているのではないかと思われても仕方ないものが多い。露骨なものも多々ある。これにははっきり言って驚いた。

 事業者が最終的に引いた路線は、集落や民家が多く、農業振興地域の農村整備計画地域、すなわち優良農地が多いのである。インターチェンジ予定地には、最近になって建てられたと思える住宅がたくさんある。これだけを見ても、この道路が誰のためにあるのかが分かるだろう。

 2008年1月18日の日刊ゲンダイに、友人のフリージャーナリスト、横田一氏が興味深い記事を掲載していた。

 それは東九州自動車道の兄弟分、西九州自動車道に関するものだ。

 要約すれば、通常ならせいぜい1km当たり30〜50億円の公共工事費ですむはずの西九州自動車道の佐世保道路部分を、あえて市街地を貫通させ、しかも通常なら不要なインターチェンジを設置することで、1km当たりの工事費を何と200億円につりあげていたといいう。さらに、工事を高額で落札した複数の業者から地元選出のK元防衛大臣が政治献金を受けていたというのである。さらに、この疑惑は防衛利権がかみの路線選定でもあるようだ。何をかいわんやである。



日刊ゲンダイ 2008年1月18日

 通常なら高速道路は市街地を避けて建設されるが、最近は敢えて市街地やその周辺に路線を選定することで、用地補償費や工事費をつり上げる方法がまかり通っているようだ。それによって潤うのは地元業者とそこから表、裏を通じて献金を受ける政治家ではなかろうか? 

 まさに政権与党の政治家が公共工事を言いように食い物にしていると言ってよい。結局、この種の高額の土木系公共工事は、地元業者、政治家双方にとって打ち出の小槌、持ちつ持たれつのオイシイ事業なのだ。

 
かくして「官」の仲立ちで、「政」「官」「業」の利権的癒着が以前にも増して進むことになる。

 ........

 上の例は、東九州道ではなく西九州道の話しであるが、一方、東九州道が山すそではなく農地や集落を敢えて貫通するこの地は、自民党の大物代議士が目白押しだ。

 道路調査会長を歴任し、現在自民党の選挙対策本部長を務める古賀誠衆議院議員、総理候補に何度もなっている麻生太郎衆議院議員、何かとスキャンダルで新聞をにぎわす山崎拓衆議院議員、いずれも政権与党の重鎮が、東九州自動車道の路線近くに選挙区を持っている。さらに、路線が通過する福岡県行橋市出身の自民党の山本幸三衆議院議員、日本青年会議所会頭あがりの松山政司参議院議員もいる。

 地元を歩くと、東九州自動車道をめぐりいろいろなウワサを聞かされる。


中津市の一般道路脇に設置された<つながります東九州道>の標識
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix
 
つづく