「731部隊」今までの記録(5) ・細菌爆弾の効果測定 ・性病実験と女性マルタ 青山貞一 Teiichi Aoyama 池田こみち Komichi Ikeda 2017年9月30日公開 独立系メディア E-Wave Tokyo 無断転載禁 |
◆細菌爆弾の効果測定 常石によれば、マルタを使用した安達実験場での爆弾実験は、新型爆弾の開発が追い込みにかかる1943年末以降に活発化した[53]。炭疽菌爆弾の場合、マルタは榴流弾の弾子で負傷し、血だらけとなる。マルタは担架で部隊に運ばれ、どのような傷であれば感染が起こるか、何日間で発病するか、そしてどのように死んでいくかが観察された。多くの場合、全員が感染し、数週間以内に死亡している。最後には内臓のどの部分が最もダメージを受けたかを明らかにするために、解剖された[54]。 731部隊の女性隊員郡司陽子は、同じく731部隊の隊員であった弟から、安達実験場での細菌爆弾の効果測定にマルタが使用されていたことを示す次のような証言を聞き出している[55]。 「やがて特別出入口から、その日の「演習」に使用される「丸太」たちが、特別班の看守に護衛されて出てきた。一列に数珠つなぎにされている。だいたい、1回に2、30人だった。中国人、ロシア人、ときおり女性の「丸太」も混じっていた。服装は私服のままだった。(中略) 覆面トラックから降ろされた「丸太」たちは、いましめを解かれ、一人ひとりベニヤ板を背に立たせられた。後ろ手に縛られ、ベニヤ板にさらに縛りつけられる。足は鎖で繋がれていたように思う。胸にはられた番号と位置とが確認されていく。「丸太」たちの表情はまったく動かず、抵抗もなかった。なかには、目隠しを拒否する「丸太」もいた。 毅然と胸を張ってベニヤ板を背に立っている「丸太」の水色の中国服の色が、いまだに瞼にやきついている。(中略)「標的」と化した一団の「丸太」たちを、幾人かが双眼鏡を目にあてて観察している。まもなく鈍い爆音とともに黒点があらわれ、みるみるうちに大きくなってきた。 低空で近づいてくる双発の九九式軽爆撃機だ。爆撃機は「標的」の中心の棒をめがけて、20キロ爆弾、30キロ爆弾を投下した。「ドカーン」という爆発音が、黒煙を追いかけるように、自分たちの耳にひびいてきた。爆撃機が飛び去り、黒煙が収まると、すぐに現場にかけつける。防毒衣、防毒マスクで完全に防護された自分たちが見た現場は、むごたらしいものだった。 そこは、「丸太」の地獄だった。「丸太」は、例外なく吹きとばされていた。爆撃で即死した者、片腕をとばされた者、顔といわず身体のあちこちからおびただしい血を流している者‐あたりは、苦痛のうめき声と生臭い血の匂いとで、気分が悪くなるほどだった。 そんななかで、記録班は冷静に写真や映画を撮り続けていた。爆弾の破片の分布や爆風の強度、土壌の情態を調べている隊員もいた。自分たちもまた、てきぱきと「丸太」を収容した。あとかたづけは、実験内容の痕跡を残さないように、ていねいに行われた。「丸太」は死んだ者もまだ生きている者も一緒にトラックに積みこまれた」 ◆性病実験と女性マルタ 731部隊では、性病実験も頻繁に行われた。戦時中の性病治療法は極めて限られており、主な方法は注射しかなかったが、性病の蔓延は陸軍内部で深刻なほど拡大していた。例えばシベリアでは多くの日本兵が現地のロシア人女性を強姦したために性病が蔓延し、1個師団相当の兵力が失われたとされ、軍紀が乱れる大きな原因となった。司令部は、731部隊がこの問題を解決するよう期待したのである。 当初、731部隊では注射で女性マルタに梅毒を感染させていたが、現実に即した実験結果が得られなかったため、マルタを強制して性行為を行わせることで梅毒を感染させ、梅毒にかかった男女を小部屋に入れて再び性行為を強制した。 性行為に立ち会ったという元隊員は、西野瑠美子とのインタビューの中で、「目の所だけが開いている白い袋のような帽子を、頭からすっぽりかぶり、白衣を着て、まわりに立っておった。4、5人が見ている前で、セックスをさせたんですよ。拒否することはできない。モーゼル拳銃を構えているわけですからね。」と語っている。 また、元隊員の上田弥太郎の証言記録によれば、1942年4月に行われたマルタを使った毒ガス演習で、小林という隊員が「それはもったいないことをした。俺の子供まで殺しちゃった。」と言っていることから、隊員による女性マルタの強姦もあったものと西野瑠美子は推測している[57]。 マルタが性病に感染すると、その経過を丹念に観察して、1週間後、3週間後、1ヶ月後における病気の進行状態を確認した。研究者は性器の状態など外部的兆候を観察するだけでなく、生体実験を行って様々な内部器官の病気がどの段階に達しているかを検査した[58]。 また、731部隊の研究員だった吉村寿人(のちの京都府立医科大学の学長)が戦後に発表した論文には、乳児を氷水の中に漬けた際の温度変化が記録されていることから、実験中のレイプにより生まれた乳幼児、あるいは731部隊に捕えられる前から妊娠中だった女性マルタが出産した多くの乳幼児が凍傷実験に使用されたものと西野は考えている[59]。 元731部隊員の胡桃沢正邦は、証言ビデオの中で、生体解剖時の麻酔から目覚めた女性マルタの様子について次のように回想している[60]。 (インタビューワーの女性) 「眼は開いているの?」 (胡桃沢正邦) 「眼は開く場合もある。」 (インタビューワーの女性) 「叫んだりする人もいた?.....何と言ったの?」 (胡桃沢は力なく泣き始め) 「そのことは2度と思い出したくない!」 (胡桃沢は謝罪し、数秒後しゃくりあげながら答えた) 「『私は殺されてもよいが、子供の命だけは助けてください』と言った」 つづく 30. ^ a b c d e ハル・ゴールド、2002年、272頁 31. ^ 常石敬一 『七三一部隊 生物兵器犯罪の真実』 講談社現代新書 1995年、101頁 32. ^ 青木冨貴子 『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』 新潮社 2008年、352頁 33.^ 青木冨貴子 『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』 新潮社 2008年、352頁 ISBN 978-4101337517 34. ^ 郡司陽子『【証言】七三一石井部隊 今初めて明かす女子隊員の記録』(1983年8月31日初版、徳間書店) 35. ^ ハル・ゴールド「証言・731部隊の真相―生体実験の全貌と戦後謀略の軌跡」廣済堂出版、2002年、178頁 ISBN 978-4331653159 36. ^ ハル・ゴールド「証言・731部隊の真相―生体実験の全貌と戦後謀略の軌跡」廣済堂出版、2002年、271頁。 37. ^ 小俣和一郎「検証 人体実験 731部隊・ナチ医学」第三文明社、2003年、p.82。ISBN 4-476-03255-9 38. ^ 2007年4月8日大阪市で開かれた国際シンポジウム「戦争と医の倫理」での発言、2007年4月9日 読売新聞 39. ^ 秦(1999)、552頁。 40.^ 青木冨貴子 『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』 新潮社 2008年、132頁 41. ^ 「証言集会:元731部隊 人体実験の事実から学ぶ 証言者 元731部隊少年隊 篠塚良雄」2008年9月14日、撫順の奇蹟を受け継ぐ会岩手支部 42. ^ a b 篠塚良雄「アメリカ・カナダの入国を拒否されて」『中帰連』第7号、1998年12月。 43. ^ 篠塚良雄、高柳美知子『日本にも戦争があった 731部隊元少年隊員の告白』新日本出版社、2007年、80-84頁 44. ^ 篠塚良雄、高柳美知子『日本にも戦争があった 731部隊元少年隊員の告白』新日本出版社、2007年、80-84頁 45. ^ 篠塚良雄、高柳美知子『日本にも戦争があった 731部隊元少年隊員の告白』新日本出版社、2007年、90-95頁 46. ^ 田辺敏雄『検証 旧日本軍の「悪行」―歪められた歴史像を見直す』自由社 47. ^ 常石、1995年、155頁 48. ^ a b 越定男『日の丸は紅い泪に』教育資料出版会、1983年、83-86頁 49. ^ Williams P, Wallace D. Unit 731: Japan's Secret Biological Warfare in World War II. New York: The Free Press 1989. (西里扶甬子訳『七三一部隊の生物兵器とアメリカ−−バイオテロの系譜』かもがわ出版、2003) 50. ^ 2007年4月9日 読売新聞 51. ^ 群司陽子『【証言】七三一石井部隊 今初めて明かす女子隊員の記録』(1983年8月31日初版、徳間書店)ISBN 978-4195025864 52. ^ 常石敬一編訳『標的・イシイ』大月書店、1984、162頁 53. ^ 常石(1995年)、155頁 54. ^ 常石(1995年)、156頁 55. ^ 群司陽子『【証言】七三一石井部隊 今初めて明かす女子隊員の記録』(1983年8月31日初版、徳間書。94-97頁 56. ^ ハル・ゴールド、2002年、182頁 57. ^ a b 西野瑠美子「731部隊のはなし」明石書店、1994年、119頁。 58. ^ ハル・ゴールド、2002年、182-183頁 59. ^ ハル・ゴールド、2002年、184頁 60. ^ ハル・ゴールド「証言・731部隊の真相―生体実験の全貌と戦後謀略の軌跡」廣済堂出版、2002年、45-46頁 つづく |