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宮城/岩手仮設焼却実態調査調査
M全体的課題

池田こみち・青山貞一
環境総合研究所顧問
掲載月日:2012年12月8日
 独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁
被災地仮設焼却実態調査報告
現地視察予定(宮城) 現地視察予定(岩手) 現地視察速報
@気仙沼ブロック(小泉)   E石巻ブロック   J仙台ブロック(若林区荒浜)
A気仙沼ブロック(階上) F亘理・名取ブロック(亘理) K仙台ブロック(若林区井土)
B岩手ブロック(釜石) G亘理・名取ブロック(山元) L仙台ブロック(宮城野区蒲生)
C岩手ブロック(宮古) H亘理・名取ブロック(岩沼) M全体的課題
D気仙沼ブロック(南三陸) I亘理・名取ブロック(名取) 現地視察動画
宮城/岩手復旧・復興実態調査はこちから

仮設焼却施設を巡る全体的課題

 がれき焼却施設において使用されている仮設の焼却施設(ストーカー炉、溶融炉、灰溶融炉、キルン炉など)の種類、基数、能力、またバグフィルター、電気集塵機などの環境保全装置、さらに稼働開始時期などについては別途報告している。

 以下は、仮設焼却施設を巡る全体的課題である(青山貞一執筆分)。 

◆大気汚染

 今回現地調査してきた仮設焼却炉は、岩手県釜石市以外は、すべて煙突高(実煙突高)が、おおむね15〜30mと低い。また釜石市の溶融炉は煙突が存在せず、直接溶融炉の建築物の屋上近くから排ガスがでている。


産廃用仮設焼却炉の煙突は低く、構造物と同じ高さのものが多い
宮城県石巻ブロックの5つの焼却施設
撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-25


産廃用仮設焼却炉の煙突は低く、構造物と同じ高さのものが多い
宮城県亘理・名取ブロックの山元施設
撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-25


産廃用仮設焼却炉の煙突は低く、構造物と同じ高さのものが多い
宮城県亘理・名取ブロックの亘理施設(5炉)
撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-25


産廃用仮設焼却炉の煙突は低く、構造物と同じ高さのものが多い
宮城県仙台市荒浜の施設
撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-25

 その結果、焼却設備、建物、構造物などの影響を受けダウンドラフト現象が起きているものが多かった。ダウンドラフトにより排ガスは、施設周辺数近くに落ちやすくなり、おそらく100mの範囲を高度に汚染している可能性が高い。

  たとえば、宮城県石巻ブロック(潮見町)の焼却炉は日処理量が1500トンと巨大だが、やはり産業廃棄物用の焼却炉は煙突が低く、周辺で激しいダウンドラフトが生じていた。実際、私達が施設の周辺で刺激臭の強い臭いを感じるとともに、青山貞一の気道が著しく狭くなっていた。下の写真を参照のこと。

 この刺激臭は、石巻ブロック(潮見町)地域一帯で感じられていた。


宮城県石巻ブロック(潮見町)の焼却炉を背景にした青山貞一
ここでは非常に刺激臭の強い臭いがし気道が著しく狭くなった
撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-24


宮城県亘理ブロック(亘理町)がれき焼却炉前の青山貞一 
撮影:池田こみち、Nikon Coolpix S10 2012-11-25

 もとより、原子力規制委員会の原発事故時シミュレーション同様、環境アセスメント(生活環境影響調査)では、汚染物質の煙突からの拡散シミュレーション(調査書)は、まったく周辺の地形、建築物、構造物を勘案していないことが分かっている。

 今回の現地調査で分かったこととして、仮設焼却炉の立地域には、気仙沼ブロックの小泉地区、南三陸地区、岩手県の釜石地区、宮古地区などが、山間地など地形が複雑な地域に立地されている。


宮城県気仙沼ブロック小泉処理区の仮設焼却施設(建設工事中)
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-23


岩手県釜石市清掃工場:釜石市栗林
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-23


岩手県宮古地区小山田仮設焼却炉
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-23


宮城県南三陸の仮設焼却炉
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-24

 大気拡散シミュレーションで地形や構造物を考慮しなければ、汚染の拡散は現実とまるで違ったものとなってしまう。

 その意味では、環境省主導のシミュレーションは、原子力防災計画策定時だけでなく、この種の環境アセスメントにおいてもまったく実際の汚染の拡散と異なる非現実的なものとなっている可能性が高い。

◆水質汚濁・自然環境など

 一方、焼却施設に関連する排水の処理については、多くの焼却施設が臨海部に立地しており、未処理の排水が海にそのまま捨てられている可能性がある。また山間地などに立地された焼却施設に関連する排水は、地下水を汚染する可能性が高いが、環境省の生活環境影響評価では地下水汚染の項目すら存在していない。また仙台地域には江戸時代に造成されたいわゆる貞山堀もある。


焼却施設のすぐ近傍に江戸時代からつづくいわゆる貞山堀
の水路がつづく。宮城県仙台市にて
撮影:青山貞一、Nikon Coolpix S8  2012-11-25


焼却施設のすぐ近傍に江戸時代からつづくいわゆる貞山堀
の水路がつづく。宮城県仙台市にて
撮影:青山貞一、Nikon Coolpix S8  2012-11-25

◆生活環境調査の項目

 事実、今回の仮設焼却炉建設に伴う環境アセスメント(生活環境影響調査)では、アセス項目が大気汚染、騒音、振動の3つに限定されており、地下水汚染、自然環境などはない。しかも、肝心な大気汚染は上記のように地形、構造物などを考慮していないので、何のための生活環境影響調査か分からない。

◆焼却物の分別状況

 一方、焼却施設周辺には各種がれき置き場が併設されていたが、分別状況は、地域により千差万別であった。これの中にはアスベストなど有害物質を含むものもあり得るが、多くの場合、露天で露出していた。ここから周辺地域に飛散、浮遊する可能性もあると思える。


宮城県南三陸町のがれき置場に立つ池田こみち
撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2012-11-24

◆ダイオキシン、重金属問題

 木質焼却物には、津波及びその遡上により海水をかぶった森林、樹木を伐採した木材があった。塩水をかぶったがれきや樹木を焼却すると、ダイオキシン類が非意図的に発生することが知られているが、今回使用されている各社の産廃用の仮設焼却炉のバグフィルターなどがダイオキシン類をどれだけ除去しているかについては不明だが、維持管理情報として宮城県が公表している情報を見ると、いずれも管理基準を下回る濃度となっている。しかし、測定がスポット的であるため、必ずしも実際の汚染の状況を反映しているとは言えない。

■宮城県:仮設焼却炉の維持管理状況(測定結果等)
http://www.pref.miyagi.jp/shinsaihaitai/monitoring/index.htm

 これは各種の重金属類についても同様である。過去、環境総合研究所が行った一般廃棄物焼却炉周辺の土壌に含まれるカドミ、水銀、鉛などの含有分析結果では、煙突が比較的高い場合でも、気象や地形、建築物、構造物の影響からか、煙突からみて風下となる時間が長い地域に、まだら状に高濃度の地域が存在していた。

◆放射線測定ポイント(ガンマ線、1m高)  11/22〜11/25

 上記の現地調査にあわせ岩手県、宮城県、仙台市の約200カ所でガンマ線の測定を行った。地上高は1mである。

 がれき焼却処理を行っている13施設の官民境界上での測定結果は、0.04-0.08μSv/hの範囲にあった。

 ただし、個別報告で述べているように、施設周辺とバックグランドで0.01−0.03μSv/h程度、施設周辺で高い処理区もあったことを付記する。

岩手県、宮城県の主要地点の空間放射線量(γ線)測定値  単位:μSv/h
2012年11月23日 2012年11月24日
宮城県古川駅前 0.07 宮城県古川駅前 0.08
宮城県気仙沼本吉 0.06 宮城県陸前横山 0.06
宮城県気仙沼階上 0.07 宮城県戸倉 0.08
岩手県陸前高田市街 0.05 宮城県南三陸市街 0.05
岩手県大船渡市R45 0.06 宮城県南三陸施設 0.05
岩手県釜石市唐丹小白浜 0.07 宮城県石巻市小室 0.07
岩手県釜石市栗林施設 0.07 宮城県石巻市雄勝 0.06
岩手県大槌町吉里吉里 0.08 宮城県雄勝庁舎前 0.04
岩手県山田町R45 0.08 宮城県石巻市コーナン前 0.05
岩手県山田町北 0.06 宮城県石巻市施設 0.05
岩手県宮古市R45 0.05
岩手県宮古市施設 0.06
岩手県盛岡市市街 0.04

2012年11月25日
宮城県古川駅前 0.06
宮城県常磐道上 0.06
宮城県名取市高速上 0.05
宮城県仙台空港 0.05
宮城県亘理町駅前 0.05
宮城県亘理町内 0.08
宮城県亘理町R6 0.06
宮城県山元町 0.06
宮城県亘理入口 0.07
宮城県岩沼市施設 0.05
宮城県名取市閖上 0.04
仙台市若林区荒浜施設 0.05
仙台市若林区井土 0.04
仙台市宮城野区蒲生 0.04
凡例:施設はがれき焼却施設の官民境界における測定値を意味する。
    上記の測定値は原則として一地域2回〜5回測定した平均値(四捨五入)

 測定は左下の米国製の測定器で行っている。


ロシア製(上)及び米国製(下)の携帯放射線量測定器と充電器(右)

◆池田コメント

 以下は池田執筆分のコメント。

 以上視察してきたとおり、現地の瓦礫専焼仮設焼却炉は一部を除き、津波で住宅が流された跡地の海沿いに設置されており、周辺に住宅地や商業業務地がないため、人の生活というよりは周辺の里山、田畑、水路、河川、海浜、海洋などへの影響が危惧された。

 しかし、風向きや風の強さによっては煙突が低いため、内陸に残る住宅地への影響も心配される。実際、一部の地域では、刺激臭や悪臭による被害を訴えている人もいるということなので、通常の焼却炉以上の十分な対策が求められる。

 一方、現在、災害廃棄物は、東京都内、北九州市内などの人口密集地で焼却処理されている。通常の一般廃棄物に10%混入するかたちでの処理である。行政の報告によればその影響はモニタリング数値からはほとんど明らかにはなっていないが、実際、23区内の焼却炉からはアスベストなども基準値以内とは言え、通常の10倍の数値が検出され、周辺住民にとって大きな不安材料となっている。

 筆者(池田)は、東京都内で開かれたがれき問題のシンポジウムに於いて、世界有数の人口密集地である東京都内で瓦礫の焼却処理を行うよりは、周辺にほとんど住宅地がない現地で効率的に処理を行うことが望ましいと主張したが、それに対し、「被災地での処理はよくて、都内での焼却は危険というのは差別である」との批判を受けた。

 しかし、現地に行って見ると、明らかに現地では焼却炉周辺に人は生活していない。焼却は、どこで行ってもさまざまな危険を伴うことは間違いない。過度な焼却依存となっている日本において、多様な有害物質を含む津波廃棄物や放射性物質を含む災害廃棄物まで、焼却処理することについては、やはり抜本的に考え直す必要があると感じた。被災地で行う場合でも、排ガスや排水の影響については十分な対策やモニタリングが行われるべきであり、第三者的な監視も必要である。