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嘉田由紀子滋賀県知事は、着任後、滋賀県における永年の課題である栗東市の産廃処分場問題を解決するため、RD産廃処分場対策委員会を立ち上げた。 以下は委員会の委員名簿である。任期は平成18年12月から平成20年3月まで、その間、都合15回の委員会が開催された。 出典:滋賀県 実は、この委員会の設置に関連し、私は嘉田知事から相談を受けた。 嘉田知事は、当選間もない頃、東京都港区にある赤坂プリンスで当選に至るさまざまな裏話しをされたが、同時に栗東産廃処分場問題の解決に向け委員を推薦して欲しい旨の協力を依頼した。 周知のように、産廃問題は法制度、技術の知識とともに、現場を数多くこなし、実務に通じている者でないと、委員として役にたたない。結果的に役人の思うつぼになってしまう。 そこで、私は梶山正三弁護士と池田こみち環境総合研究所副所長を委員として嘉田知事に推薦した。 ◆はじめから頓挫、役所主導の委員会 最終的に15回開催された委員会だが、入り口から役人との闘いとなった。 どの自治体の委員会でも委員長を誰するかが問題となる。というのも、役所側があらかじめ根回しし、ある委員を委員長とするように仕掛けるからだ。 案の定、役所側はデキレースを仕掛けてきた。 しかし、早川滋賀大学教授が自ら委員長に立候補したことで、委員長に就任予定の大学教授とそれを仕掛けた役所側は狼狽する。デキレースがうまくゆかなかったからだ。 15回の委員会はことのはじめからこのように荒れ模様となった。というより、日本の行政関連委員会の常、すなわち役所のシナリオで委員が誘導される方式はこの委員会ではまったく通用しなかった。 産廃問題がデッドロックに乗り上げる理由には、廃棄物処理法のデキが悪い致命的な問題があるものの、現実には県の廃棄物部署が本来するべきことをしない、していないことが大きな理由である。 いくら住民が役所に苦情、文句を言っても役所はまともに動かない、形だけの勧告を出すものの、産廃業者はそんな勧告などへのカッパであることが圧倒的である。法にある立ち入り検査も、デキレース、つまりあらかじめ役所が業者に連絡を入れることで業者側にとっては怖くない。業者と役所がツーカーとなっていることも多い。 そもそも私が特別地方公務員でいた長野県の場合、廃棄物行政のトップである生活部長が退職すると、そのまま長野県の産廃業界でつくる協会の事務局長に就任していた。関連課長の多くも産廃業界に天下っていた。 推定するに、栗東の産廃問題の最大の原因も、業者以外の原因の大部分は県の廃棄物行政、環境行政自身にあると思える。 ◆結論をねじ曲げた知事の取り巻き 委員会は当然のこととして紆余曲折する。 人選段階から役所側の強い意向が働いていた委員会であったが、委員会の議論でもこれは強い影を落とした。 その理由の多くは、滋賀県の廃棄物関連部署と役人だと思える。彼らは知事にあれこれ情報操作による誘導を行ってきた。問題は、それら役人からの情報や誘導策動を遮断し、知事自ら産廃問題解決を判断するという強い決意、意思が委員や県民に伝わらなかったことだ。 委員会議論の核心は、永年、安定型最終処分場に不法投棄されてきた汚染まみれのゴミをどうするかにあった。その中心は有害物質を含む汚染された廃棄物の実態をどう把握するかにあった。 そうこうしているうちに、委員会としてのひとつの解決案が出されるに至った。 解決案は、複数の案として出された。多くの委員(8人)の賛同を得たのは、A−2案であった。だが、最終案が出そろう時点では、すでに嘉田知事は完全に滋賀県の役人達に取り囲まれていたと言える。 知事はA−2案ではなく、D案を採用する。もう少し詳しく経過を述べれば以下の通りとなる。 委員会では、RD最終処分場問題を解決するための具体的対策として、7つの対策工案について議論を重ね、平成20年4月、対策委員会として案が嘉田知事に答申された。 対策委員会の推奨意見として出されたA−2案は、8人の委員が賛成した廃棄物を「全量撤去する」という案であり、最も費用がかかるA案をもとに費用の削減案を含め提案されたものだった。 その他、7人の委員が賛成する「水を遮る壁をつくり、土で覆って有害物を掘削除去する」D案なども併記された。 以下は、8人の委員が賛同したA2案。 出典:滋賀県 以下は、7人の委員が賛同したD案。 出典:滋賀県 滋賀県RD最終処分場問題対策委員会の開催風景。 出典:滋賀県 その他、E案などもあったが、上記の2案が全体の大勢を占めた。 永年被害を受けてきた最終処分場周辺の住民は、当然のこととして地元から選出された委員が入り賛成した「全量撤去する」(通称Aー2)案を嘉田知事が採択するものと思われた。 だが、嘉田知事は、なぜか対策委員会で推奨案として出された全量撤去のAー2案を廃棄物を運搬する車両の騒音や排気ガス、廃棄物を掘り起こす際の悪臭といった環境問題が起こる。また対策費用が240億円にのぼる、そのための財源の確保が困難なことを理由に、D案を基本として今後具体的に対応すると議会で説明したのである。 一票とはいえ、委員会で多数の委員が指示したA−2案を嘉田知事は、なぜ採用しなかったのか? そもそもこの最終処分場問題への対応では、嘉田知事は違法投棄の責任を問い、違法投棄物の除去命令を直ちに行うと言っていたはずだ。さら命令に従わない場合は、住民の健康を第一に考え、行政代執行を含めた強制的な除去処分を行うとも、公言していた。 そこには永年、まともに産廃事業者に対応してこなかった滋賀県の役人の思惑が見て取れる。各案への賛成状況を見ると、事務局、役人と委員との関係もきわめてよく見て取れる。 、しかも一番多くの委員が賛同したA−2案をけっぽり、圧倒的多くの周辺住民が拒否するD案を採用した背景には、滋賀県の廃棄物対策関連の役人がD案で問題を解決したフリをするだけで、永年問題解決を切望してきた地域住民にとっては何ら抜本的な解決とならない。 結果として嘉田知事が委員選定に問題があったにせよ、せっかく第三者委員会を設置し、15回も審議を重ね得られた解決案をけっぽり、役人に誘導された案を無節操に採用したことになる。 ◆D案を拒否する地元住民団体に担当部長が暴言、A−2案の共同提案者の梶山委員らを罵倒 その後、滋賀県知事はD案で地元住民、地元自治会への説明を重ねる。 しかし、圧倒的多くの自治会は、滋賀県の提案の受け入れを拒否する。そして委員会終了から1年6ヶ月経つ現在でも、圧倒的多くの自治会は、一貫して受け入れ拒否を貫いているのである。 そんな中、嘉田知事は、こともあろうか栗東産廃問題新たに第三者委員会を設置するという記事が流れた(以下参照) ◆青山貞一:嘉田知事、栗東産廃問題で頓挫〜また「第三者委設置」 これひとつとっても、嘉田知事がいかに主体性がなく、行き当たりばったりな政治家であるかが分かる。自分の都合でルールをことごとくねじ曲げている。 地元住民団体は、嘉田知事に対しこの間の事情、状況を説明すべきだと、またA−2案を提案した委員らにも経過を説明すべきであると申し入れた。 2008年6月27日、滋賀県、栗東市、 関係自治会会長ら合計13名による会議が開催された。 一年以上経った2009年9月にその会合の議事録が手元に来た。それを見てびっくり。 説明に経った担当部長の山仲氏(その後、部長職を解任され、辞職し野洲市長に立候補し首尾良く当選している)は、以下のようにまさに言いたい放題述べていたのである。 山仲部長は、「A−2案は絶対にあり得ないと思っている。ある段階で県はD案(現位位置での浄化対策)でいけると判断した」と述べているが、専門家でもなく委員でもない部長が、なぜこのような判断をしたのか? 山仲部長は「処分場敷地内の焼却炉を撤去することについて、支障の除去であるから撤去しなくても現状で洗浄すればよいと考えた」と発言している。 山仲部長は「私たちはA−2案はできないと思っている。(あなた方は)できると思うのか」と自治会長らに逆質問し、自治会長が「出来ると言っている人たちとやりとりしたのか」と言うと、山仲部長は「やりとりした。 しかし言ってることが分からない」と述べている。山仲部長はA−2案は技術的に不可能ということを指摘しているらしい。 嘉田知事に対しても山仲部長は、「答申が出る前から県はD案でいくつもりだった」とトンデモ発言をした。まさに、私たちが思っていた通りだ。 そして自治会長側が「住民は今はじめてA−2案はダメという話を聞いたと理解している」と述べると、部長は「委員会を作ったのは知事の失政である」とまで述べた。 さらに自治会長が「A−2案を推奨した3人の先生にそれがオミットされることを説明しなければ」と述べると、室長が「専門家の話もききながらきちんと説明したいと思う」と応えたが、部長は「あの人たちは出来るというと思う」と述べた。 山仲部長は「本当の専門家は樋口先生あたりだと思っているから、樋口先生なんかはできないとおっしゃっているのでそういうことになると思う」とも述べている。また部長は、「梶山先生の議論は、溶出試験でも含有試験でも環境省のやり方が悪いとかいうものばかりである」と批判した。 このように、山仲部長はA−2案の提案者である梶山正三委員らがいないところで、一方的にA−2案やそれを提案、支持する委員を一方的に罵倒し、名誉毀損する発言に終始していたのである。 ◆信じられない担当部長の独断と誹謗中傷行為 後にこの議事録を見た梶山弁護士は、次のように山仲氏に反論している。 私に対する批判、A2案に対する批判は、大いに結構ですが、本来の議論の場である対策委員会では、「ダンマリ」で、議論の場がなくなってから、批判しているのは「陰口」と同じで汚いやり方。とても「部長」という要職にある人間の言うこととは思えない。 私に対する批判の要点は、「環境省のやり方を何でも批判する」ということにあるようですが、問題は「環境省を批判することが正しいか否か」ではなく、「批判内容が正しいかどうか」にあるはず。山仲氏は論理的に物事を考える能力がない。 山仲氏は、技術のことや、法律のことは知らない。「お金」のことに関しても弥縫策は結局は大金の浪費だということを考えようとしない。その誤りは技術的評価をする能力がないためでもある。 梶山氏の言い分はもっともだ。 ちなみに重金属分析(溶出分析)に係わる環境省告示の方法は、国際標準からかけ離れており明らかに間違っている。 私が長野県環境保全研究所に大学と併任で所長として就任していたとき、研究所のその道の分析技術者に、同じ試料をもとに環境省告示のインチキ分析法と諸外国の分析法をもとに分析してもらい比較したところ、案の定、日本の分析方ではほとんど重金属が検出されなかった。 理論的にも日本の方法だと欧米諸国の方法に比べ、数倍から最大で100倍近く濃度が少なく出ることが分かっている。 ※環境省告示分析の問題点 つまり梶山弁護士が「環境省のやり方を何でも批判する」のは、環境省の分析方法や政策、法令が間違っているなり、問題があるからであって、上記のような一方的な罵倒、批判はあたらないと思う。 そもそも山仲氏が樋口氏だけを特に「専門家」と評価した理由は分からない。しかし、山仲氏の意向に沿う樋口を持ち上げて、その一方で、他の「専門家」を十把一絡げにして、貶すためだとしたら、確かにトンデモないことだ。なぜ、技術音痴の山仲氏が、「専門家」を評価できるのか?その点もおおいに不可解だが、これは役人なり役人的なひとによくあることだ。 以下は、そのトンデモ部長の公表されている経歴である。
上の経歴を見ると、平成20年10月に野洲市長に就任している。となると上記の2008年(平成20年)6月27日の言いたい放題は、解任を見越しての言いたい放題であると思える。 それにしてもこの山仲氏は、分野は違うがまるで航空自衛隊幕僚長の田母神氏のようなトンデモのひとだ。 嘉田知事もこんなトンデモ部長の情報操作による世論誘導にひっかかり、梶山氏、早川氏、池田氏など滋賀県や栗東の環境政策に手弁当で係わってきた大切な専門家や研究者を失ってしまった。その損失は計り知れない。 知事も知事なら部長も部長と言ったところだろうが、永年、産廃処分場問題で辛苦をなめてきた地元住民は浮かばれない。 <参考> ◆青山貞一:嘉田知事、栗東産廃問題で頓挫〜また「第三者委設置」 青山貞一:迷走する嘉田滋賀県知事@〜RD最終処分場問題 青山貞一:迷走する嘉田滋賀県知事A〜公開されない3つの議事録 青山貞一:迷走する嘉田滋賀県知事B〜メディアによる徹底追求 池田こみち:環境立県、滋賀県の産廃委員会事情(1) 池田こみち:環境立県、滋賀県の産廃委員会事情(2) 池田こみち:環境立県、滋賀県の産廃委員会事情(3) 池田こみち:環境立県、滋賀県の産廃委員会事情(5)〜地元住民集会 池田こみち:大詰めを迎える、滋賀県栗東のRD産廃処分場対策委員会 池田こみち:問われる市民派知事の判断・滋賀県産廃処分場対策 |