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アフガン戦争終結後の2002年1月29日、ブッシュ大統領が行った上下両院合同議会での一般教書演説の骨子は次の通りである。 実際、ブッシュ政権の言い分を除けば、1月上旬までの国連査察団の230カ所に及ぶイラク国内の査察では、国連1441決議に著しく違反する施設は見つかっていない。きわめつけは国連イラク国連大量破壊兵器廃棄特別委員会の一員として米国から参加した後述するスコット・リッター氏の一連の証言だ。過去10年におけるイラクの大量破壊兵器の実情に実務レベルで最も詳しいそのリッター氏でさえ、現時点でイラクが1991年以降、大量破壊兵器を開発、所有している明白な証拠はないと言明している。リッター氏はもともと共和党の愛国者、ブッシュ大統領を支持していた軍関係者である。
イラクが大量破壊兵器を開発、使用する可能性について、世界で一番詳しい人物。、しかも米国人、それはスコット・リッター氏である。 スコット・リッター氏は、元海兵隊の情報担当将校で、国連イラク国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)で査察の実務を7年間、52回もこなし、1998年8月クリントン政権によるイラク空爆に抗議し、査察官を辞任したひとである。リッター氏はブッシュ政権のイラク攻撃に反対し、「In the Shifting Sand」と言うドキュメント映画を制作している。 そのリッター氏は、現在、米国のマスコミでイラクからの亡命者などで連日ひっぱりだこになっている核開発設計の責任者と自称するディル・ハムザ氏、フセイン大統領の娘婿フセイン・カミル氏、さらに元UNSCOM委員長、元オーストラリアIAEA代表、リチャード・バトラー氏の3名について厳しい批判を展開している。ハムザ、カミル、バトラーの3氏は、全米テレビ局のキャスターからの質問に対応し、イラクが核兵器を開発していることなどについて証言をしてきたひとたちだ。たとえば、2003年1月5日夜のTBS報道特集でも田丸キャスターもインタビューを敢行している。 スコット・リッター氏は自分の近著「イラク戦争」(War on Iraq)※の中で、彼らがマスコミに対し話していることの多くが事実ではないことを彼の7年に及ぶイラクでの査察活動で得た証拠をもとに非難している。たとえば核開発設計全体の中心にいたと証言しているハムザ氏については次のように述べている。 「ハムザは核兵器の設計などしていない。....ハムザは結局クビになり、1994年国外に亡命したが、CIAを含め米国のすべての諜報関係機関は彼を相手にしなかった。自称するような人物ではないことがわかっていたからだ」、「わたくしはこれまで何度となくハムザ氏に公開討論を申し入れてきた。しかし彼は公の場での討論を拒否している。こちらに彼のウソを暴く材料があることを知っておりおそれているのだ」(邦訳版の79頁〜82頁)。 またリチャード・バトラー氏についても、「私には自分の発言を裏付ける文書があるけれど、彼には文書的な裏付けが何もない。と言うより彼が査察団長のときに何をやったかについて、ウソをつきつづけてきた赤裸々な記録がでてくる。イラク問題に関し彼の発言には何の信憑性もない。マスコミがいまだに彼に発言の機会を与えているのは残念だ」、「私はこれまで、リチャードバトラーにテレビカメラと聴衆の前で討論をしようと、繰り返し申し入れてきた。しかし彼はそれに応じない。私が出るテレビ番組には出てこない。2人そろってカナダの国会で発言する機会を与えられたこともあったが、バトラーは姿を現さなかった。おそらく米国でも私が招かれる上院証人喚問には絶対でないと通告している。本来、彼こそが進んで参加しなければならないはずの討論から逃げ回っている」(邦訳版の83頁〜91頁)。 ※スコット・リッター著、星川淳訳、「イラク戦争」、合同出版、2003年1月 ところで「イラク戦争」のなかに次のような一節がある。それは「ボストンの虐殺」事件裁判で、その昔、ジョン・アダムスがイギリス軍兵士を弁護し明言したものだ。 ※ 青山貞一、「エネルギー権益から見たアフガン戦争」、岩波書店「世界」、2002年9月号
これこそ、「ローマ帝国」や「オスマントルコ」に比肩する帝国化した米国の素顔ではないだろうか。日本の一部の評論家は、米国の中東外交政策との関連でイラク攻撃を正当化しようとしている。たとえばイラクを民主化、親米化することにより、中東の安定に貢献すると言っている。だが、このような口実がいかにきれい事であるかが分かる。それは、後述するように米国が過去中南米、カリブ諸国でしてきたこと、またイスラエルへの膨大な経済、軍事援助の実態を見れば米国のしてきたこと言っていることがダブルスタンダードなものであるかが容易に理解できる。 ここで百歩譲っても、ブッシュ政権の言い分は、あくまでも自分たちの独善的な価値観を、歴史、民族、宗教、政治制度が異なる地域に軍事力を背景に押しつけるものである。それは中東や中南米国家のみならずどの主権国家においても到底、容認できるものではないはずだ。ブッシュ政権から一方的に「テロ支援国家」、「大量破壊兵器開発、保有国家」さらに「非民主国家」、「非人道国家」、「非人権国家」などと決めつけられれば、反対尋問のない主尋問だけの裁判よろしく、一方的に先制軍事攻撃を受ける可能性を示唆するものである。国際法上からも首肯されない。そもそもブッシュはゴアとの大統領選にみられるように、米国大統領としての正当性について疑義がある。50票程度の僅差、しかも数々の開票疑惑があるなかで誕生した経緯があるからだ。しかし、ひとたびジョージ W. ブッシュが大統領に就任するや、世界中が戦争のリスクに巻き込まれ、今後、グローバル化された世界にあって政治、経済はもとより、エネルギー供給も大混乱に陥る可能性が大きくなっている。
米国が執拗にイラク攻撃にこだわる理由はほかでもない、イラクに埋蔵される石油であると思われる。これについてわたくしは、「米国のテロ報復戦争の愚」と「エネルギー権益から見たアフガン戦争」でも繰り返し言及してきた。
米国の石油供給はアラスカを含む米国内以外に、表6にもあるようにカナダ、サウジ、ウクェートなどの中東、ベネズエラ、メキシコなどの中南米、ナイジェリアなどアフリカ西海岸諸国、中央アジア、東南アジアなど実に多岐にわたっている。米国内の供給を見た場合、可採埋蔵量を同年の生産量で割った可採年数はわずか6〜7年と逼迫している。さらに中南米、アフリカ、東南アジア、中央アジア諸国はいずれも政情が不安定、いつなんどき米国系の国際石油資本(メジャー)が接収され、国有化される可能性もある。したがって、一国で世界第二位の埋蔵量、そして可採年数をもつイラク(主に石油)やイラン(主に天然ガス)は、米国にとって喉からよだれがでるほど欲しいの国となる。大量破壊兵器の恐怖からの解放とか単なる中東地域における政治的安定だけを米国のイラク攻撃の主たる理由とすることはありえない。また同時多発テロの実行部隊がサウジアラビアから多く出たことを理由に米国が中東依存を減らし違っているというのも、イラク攻撃にかかわる米国の石油権益説を隠すことになるものと思われる。
悪の枢軸に名指しされたイランとエネルギーとの関係も見ておこう。
ところで全世界の36%と圧倒的に多くの天然ガスをもつのは、中央アジアのカスピ海やアラル海沿岸諸国など旧ソ連関連諸国である。統計には表れていないが、図9に示すアフガニスタン北部地域のマザリシャリフ周辺に膨大な天然ガス埋蔵があるという報告もある。これら中央アジアの天然ガスを米国が入手する上で歴史的に大きな障害となっていたのが、他ならぬアフガニスタンであった。 米国は永年にわたり、旧ソ連諸国の天然ガスや石油をアフガンを縦断するパイプラインを敷設してアラビア海あるいはインド洋に搬送する計画を練っていた。その主たる理由は、旧ソ連やイランを経由せずカスピ海やアラル海沿岸諸国の天然ガスをアラビア海側に搬出するためである。CISやイランとの関係が悪化すればパイプラインが接収される可能性もある。 中央アジアガス会社(CentGas)はまさにそのエージェントであり、その中心人物が他ならぬ現在アフガンの大統領におさまっているカルザイ氏であった。中央アジアにおける米国の永年の権益を実現したのはブッシュ大統領であり、そのきっかけは9.11以降の対テロ戦争の名目で行なわれたアフガン戦争である。事実、アフガン戦争終結後、ブッシュ政権の強力な後押しでアフガン暫定議会議長そして最終的にアフガンの大統領に就任したのはルザイ氏であった。 そのカルザイ氏は米国の巨大石油資本(メジャー)、ユノカル社の最高顧問を歴任し米国滞在もながい。CIAやブッシュ(父)などとも多様な交流、交友関係がある。カルザイ氏が大統領就任後、米国にとって懸案だったアフガン縦断天然ガス、石油のパイプラインの起工式が行なわれている。米軍駐留のもとでパイプラインが敷設され、維持管理されることになる。まさに、アフガン戦争は、米国にとってまたブッシュ政権にとって、さらにテキサスの石油産業、企業出身のブッシュ一族にとって一石二鳥、、一石三鳥の戦争であったことがよく分かる。 アフガン会議でそのカルザイ氏が来日した際、日本のマスコミはカルザイ氏をして流ちょうな英語を話すベストドレッサーなどと持ち上げていた。カルザイ氏がアフガンパシュトウーン人の顔をした「米国人」であることを知る者にとって、日本のマスコミのノーテンキさにはあきれかえったものである。 ※ これらの経緯については、「エネルギー権益から見たアフガン戦争」を参照のこと。
アフガン戦争より10年前の1991年の湾岸戦争では、多国籍軍を率いた米国は戦争の結果、中東の大国、サウジアラビアへの軍事駐留と、メジャー(国際石油資本)の関与を通じ、軍事的かつ石油権益の大きな道を開いた。サウジの大富豪オサマ家(ウサマ家)の子息、オサマ・ビンラディンが反米感情を強くもつきっかけとなったのが、まさに米軍の中東駐留、なかんづくサウジへの駐留にあったとされている。この点から言えば、9.11の遠因は、米国自身にあったと言っても過言ではない。 ※ Asahi.com(2001/09/25) ブッシュ大統領とビンラディン家、ビジネスでつながり 要約すれば、米国は、中長期的にイラク、イランの原油や天然ガスを支配下におくことで、長期的に中東における石油権益を強固なものとすることができる、またそれによって今まで中東主導のOPECを弱体化させ、エネルギーコストを米国主導でコントロールするこも可能になると言う戦略も見え隠れしてくる。
実際、2002年12月31日の毎日新聞朝刊の記事で、イラクの石油相は、米国のイラク攻撃のねらいをつぎのように述べている(以下記事概要)。 すなわち、「米国はOPECの弱体化をねらっている。OPECが自主的に動くのが嫌いなのだ」、さらに米国のイラク攻撃をはっきりと「石油のための戦争」と明言した上で、世界第二位の埋蔵量を誇るイラクに親米政権を樹立すれば、米国の石油権益は一気に拡大する。米国がOPECに代わって世界の石油供給を牛耳ることこそ、米国のねらいなのだ」と言い切っている。 さらに、2003年1月元旦の毎日新聞の米国のイラク攻撃特集記事(民主帝国、アメリカンパワー第一部)には、石油権益配分視野に、仏露中や企業も入り乱れ米国系メジャーがフセイン政権転覆後の原油の採掘、積み出しの青写真を練っている様子が子細に書かれている。 たとえば、米国のコンサルタント会社幹部は、「あるメジャーはイラクの油田を8等分し、米欧メジャーなどで分配する青写真を描いている。(フセイン後の)新政権とは最短3ヶ月で交渉に入れると見込んでいる」と。また2002年11月中旬には、ホワイトハウスでブッシュ、チェイニーとメジャー首脳の会合が開かれ、メジャー側が戦後の油田開発計画を説明。2003年1月にはアメリカ政府やメジャーの代表者らが一堂に会し、イラク攻撃に備えた「終盤情報」のすりあわせが行なわれたとされている。 同じ毎日新聞の記事では、さらに国連制裁下でありながら、露、中国、フランスなど10数カ国の石油関連企業が制裁解除後をにらみ、フセイン政権と石油権益の契約や交渉を行なっていると報じている。そのなかには日本企業も含まれるという聞き捨てならない次のような話もある。ロシアは歴史的イラクと関係が深い。ロシアはルクオイルと言う石油会社を通じ、イラクに日量60万バーレルの油田の開発権を得ていた。米国のイラク攻撃の可能性が高まるなかで、ロシアはイラク国内の石油の既得権益の保証を米国側に求めてきたと言う。これに対し米政府側はロシアにフセイン排除を要請、米政界に強いコンサルタント(ユーラシア・グループ)の代表は、「米政府の権益保護の約束と引き替えに、ロシアがイラクを武装解除させる国連の新決議に賛成した」と説明している。このような権益と国連決議との関係は、ロシアのみならず中国やフランスについても似たり寄ったりの状況と思える。 毎日新聞の特集では、最後に米国務省高官の話として、「イラクの新政権は疑いなく、米国と米企業に前向きな見方を示すであろう」と余裕を見せた、としている。以上をみるだけでもブッシュ政権がイラクを攻撃する大きな理由は、「正義」や「自由」のためと言うより、石油などの資源エネルギー利権のためと感じられよう。 ※ 2003年1月1日、毎日新聞朝刊、民主帝国、アメリカンパワー第一部 石油権益配分視野に その4に続く その5に続く 全体内容目次 |