2003.1.1〜2003.1.8 Version 1.3

(3)イラク侵略の真の理由

青山貞一 Teiichi Aoyama
全体内容目次

その1  その2  その4  その5  本ホームページの無断転載を禁じます。 リンク歓迎です!
key word 正当性なき米国のイラク攻撃(3) No Justification for US Attack on Iraq(3)

米国がイラクを攻撃する根拠とその信憑性

 アフガン戦争終結後の2002年1月29日、ブッシュ大統領が行った上下両院合同議会での一般教書演説の骨子は次の通りである。

 @対テロ戦争の拡大、A本土防衛の強化、B経済回復について触れ、とりわけ対テロ戦争の拡大を強調している。さらに教書のなかでブッシュ大統領はイラク、イラン、北朝鮮の3国を「悪の枢軸」と呼びその後、執拗にイラクを標的にすることになる。

 ブッシュ大統領から「悪の枢軸」の筆頭として名指しされたのはイラクだ。確かにサダム・フセインに寄せられる極悪非道、怪物などといった形容はさして不当なものとも思えない。サダム・フセインに率いられたバース党が1988年にクルド族に化学兵器を使って起こした一大虐殺行為や1990年に行なった隣国クウェートへの侵略、これらはけっして許容されるものではないからだ。 しかし、米国が攻撃の対象としているイラクには、世界各国の識者が指摘するように、アルカイダやビンラディンとの関係を示す証拠はない。米国が執拗にこだわるイラクによる大量破壊兵器の開発や使用についても、1991年の湾岸戦争以降、国連や米英両国による徹底した監視のなか、イラクが化学、生物、弾道ミサイル、核兵器などの大量破壊兵器を開発、使用できる環境にはなかった、と言うのが大方の専門家の意見である。

 実際、ブッシュ政権の言い分を除けば、1月上旬までの国連査察団の230カ所に及ぶイラク国内の査察では、国連1441決議に著しく違反する施設は見つかっていない。きわめつけは国連イラク国連大量破壊兵器廃棄特別委員会の一員として米国から参加した後述するスコット・リッター氏の一連の証言だ。過去10年におけるイラクの大量破壊兵器の実情に実務レベルで最も詳しいそのリッター氏でさえ、現時点でイラクが1991年以降、大量破壊兵器を開発、所有している明白な証拠はないと言明している。リッター氏はもともと共和党の愛国者、ブッシュ大統領を支持していた軍関係者である。


 にもかかわらず、米国は問答無用でイラク攻撃をしようとしている。ヘレンさんが指摘するように、米国は「イラクが大量破壊兵器の開発問題で、どう対応しようと関係ない。米国はすでに戦争することを決めている」としか思いようもないのだ。 ちなみに、以下にイラク政府がこの間宣言した施設位置及び米国政府が軍事衛星や偵察機などで探知したとされる関連施設の位置図を示す。

【関連情報URL】
CIA Map: Iraq's Declared Nuclear Facilities - October 2002
CIA Map: Iraq's Chemical Weapons Related Production Facilities and Declared Sites of Deployed Alcohol Filled or Chemical Agent-Filled Munitions During Gulf War - October 2002
CIA Map: Iraq's Declared Biological Weapons - October 2002
CIA Map: Iraq's Ballistic Missiles - October 2002
CIA Map: Iraq's Ballistic Missile Related Sites - October 2002
  米国CIAが作成したイラク国内の核、化学兵器、生物化学兵器等の関連施設位置図

 イラクが大量破壊兵器を開発、使用する可能性について、世界で一番詳しい人物。、しかも米国人、それはスコット・リッター氏である。

 スコット・リッター氏は、元海兵隊の情報担当将校で、国連イラク国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)で査察の実務を7年間、52回もこなし、1998年8月クリントン政権によるイラク空爆に抗議し、査察官を辞任したひとである。リッター氏はブッシュ政権のイラク攻撃に反対し、「In the Shifting Sand」と言うドキュメント映画を制作している。

 そのリッター氏は、現在、米国のマスコミでイラクからの亡命者などで連日ひっぱりだこになっている核開発設計の責任者と自称するディル・ハムザ氏、フセイン大統領の娘婿フセイン・カミル氏、さらに元UNSCOM委員長、元オーストラリアIAEA代表、リチャード・バトラー氏の3名について厳しい批判を展開している。ハムザ、カミル、バトラーの3氏は、全米テレビ局のキャスターからの質問に対応し、イラクが核兵器を開発していることなどについて証言をしてきたひとたちだ。たとえば、2003年1月5日夜のTBS報道特集でも田丸キャスターもインタビューを敢行している。

 スコット・リッター氏は自分の近著「イラク戦争」(War on Iraq)の中で、彼らがマスコミに対し話していることの多くが事実ではないことを彼の7年に及ぶイラクでの査察活動で得た証拠をもとに非難している。たとえば核開発設計全体の中心にいたと証言しているハムザ氏については次のように述べている。

 「ハムザは核兵器の設計などしていない。....ハムザは結局クビになり、1994年国外に亡命したが、CIAを含め米国のすべての諜報関係機関は彼を相手にしなかった。自称するような人物ではないことがわかっていたからだ」、「わたくしはこれまで何度となくハムザ氏に公開討論を申し入れてきた。しかし彼は公の場での討論を拒否している。こちらに彼のウソを暴く材料があることを知っておりおそれているのだ」(邦訳版の79頁〜82頁)

 
またリチャード・バトラー氏についても、「私には自分の発言を裏付ける文書があるけれど、彼には文書的な裏付けが何もない。と言うより彼が査察団長のときに何をやったかについて、ウソをつきつづけてきた赤裸々な記録がでてくる。イラク問題に関し彼の発言には何の信憑性もない。マスコミがいまだに彼に発言の機会を与えているのは残念だ」、「私はこれまで、リチャードバトラーにテレビカメラと聴衆の前で討論をしようと、繰り返し申し入れてきた。しかし彼はそれに応じない。私が出るテレビ番組には出てこない。2人そろってカナダの国会で発言する機会を与えられたこともあったが、バトラーは姿を現さなかった。おそらく米国でも私が招かれる上院証人喚問には絶対でないと通告している。本来、彼こそが進んで参加しなければならないはずの討論から逃げ回っている」(邦訳版の83頁〜91頁)

 スコット・リッター著、星川淳訳、「イラク戦争」、合同出版、2003年1月

 ところで「イラク戦争」のなかに次のような一節がある。それは「ボストンの虐殺」事件裁判で、その昔、ジョン・アダムスがイギリス軍兵士を弁護し明言したものだ。 

 「たとえだれかを心の底から忌み嫌い、怖れていたとしても、その怖れや憎しみをはっきりと裏づける事実がないかぎり、また相手に対してとろうとする行動が事実によって裏づけられないかぎり、われわれは恐れの原因をほかに求めるべきである。と同時に、そうした乎ごわい事実をじっくり見つめ、それらが世界の現実(本言壮語や美辞麗句ではなく)をどう構成しているかを理解すべきである」(邦訳版の10頁)。 

 まさに、これはブッシュ大統領やラムズフェルド国防長官に向けられるべき言葉である。国連兵器査察団による7年に及ぶ徹底した結果でさえ、いまだサダム・フセインが生物・化学・弾道ミサイル、核兵器を湾岸戦争後、開発、保有そして使用している明確な証拠はないからである。

 2001年の9.11以降の米国によるアフガン戦争は、途方もないテロを根拠としていたと言うことで、ドイツなどEU各国もやむなしに傾いた。もちろん、わたくしが検証したように、米国主導のアフガン戦争はその正当性には大きな疑義がある。なぜなら唐突に起ったと思われる9.11の同時多発テロは調べれば調べるほど、起るべくして起きたのではないかと思えるからだ。それを裏付けるに足る「状況証拠」やオニールFBI副長官(故人)らの「証言」が続々でてきている。たとえばブッシュの特使は2001年8月、つまり9.11の1ヶ月前までアフガン国内のパイプライン敷設に関連した権益でタリバン側特使とベルリンで交渉していたとフランスのテレビ局が特別番組を放映している。数度に及ぶこの交渉は最終的に決裂、米国側特使は、宣戦布告に近い捨てぜりふをタリバン側の特使に吐き捨てていたと言う証言さえある

 ※ 青山貞一、「エネルギー権益から見たアフガン戦争」、岩波書店「世界」、2002年9月号


 米国のイラク攻撃については、湾岸戦争のときやアフガン戦争のときのように戦争を正当化する口実はないと思える。にもかかわらず、ブッシュ政権は、イラクを耐え難い悪者と決めつけ、アフガン国民を圧政のフセイン政権から解放するとして軍事攻撃を開始しようとしている。ブッシュ政権の前に国連1411決議も実質的に無力となっている。なぜなら、米国は10万人に及ぶ軍隊と軍備をペルシャ湾や地中海周辺地域に配置し、明日にも攻撃を始めようとしているからだ。


【関連情報URL】
1441決議全文 http://usinfo.state.gov/topical/pol/terror/02110803.htm
1441決議のキーポイント http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/2412837.stm
国連安保理決議1441について

 これこそ、「ローマ帝国」や「オスマントルコ」に比肩する帝国化した米国の素顔ではないだろうか。日本の一部の評論家は、米国の中東外交政策との関連でイラク攻撃を正当化しようとしている。たとえばイラクを民主化、親米化することにより、中東の安定に貢献すると言っている。だが、このような口実がいかにきれい事であるかが分かる。それは、後述するように米国が過去中南米、カリブ諸国でしてきたこと、またイスラエルへの膨大な経済、軍事援助の実態を見れば米国のしてきたこと言っていることがダブルスタンダードなものであるかが容易に理解できる。

 ここで百歩譲っても、ブッシュ政権の言い分は、あくまでも自分たちの独善的な価値観を、歴史、民族、宗教、政治制度が異なる地域に軍事力を背景に押しつけるものである。それは中東や中南米国家のみならずどの主権国家においても到底、容認できるものではないはずだ。ブッシュ政権から一方的に「テロ支援国家」、「大量破壊兵器開発、保有国家」さらに「非民主国家」、「非人道国家」、「非人権国家」などと決めつけられれば、反対尋問のない主尋問だけの裁判よろしく、一方的に先制軍事攻撃を受ける可能性を示唆するものである。国際法上からも首肯されない。そもそもブッシュはゴアとの大統領選にみられるように、米国大統領としての正当性について疑義がある。50票程度の僅差、しかも数々の開票疑惑があるなかで誕生した経緯があるからだ。しかし、ひとたびジョージ W. ブッシュが大統領に就任するや、世界中が戦争のリスクに巻き込まれ、今後、グローバル化された世界にあって政治、経済はもとより、エネルギー供給も大混乱に陥る可能性が大きくなっている。

【関連情報URL】
 http://www.cia.gov/cia/publications/factbook/geos/iz.html
イラクについての一般情報

池田こみちさんにドイツの知人から送られてきたブッシュ大統領の写真?

イラク攻撃の理由としての石油、資源エネルギーの妥当性

 米国が執拗にイラク攻撃にこだわる理由はほかでもない、イラクに埋蔵される石油であると思われる。これについてわたくしは、「米国のテロ報復戦争の愚」「エネルギー権益から見たアフガン戦争」でも繰り返し言及してきた。

 まず知るべきは、図5に示すように、世界人口のわずか4%にすぎない米国が世界のエネルギーの約4分の1を消費している厳然とした事実だ。

 地球温暖化など地球環境問題の観点からも、この米国のエネルギー乱費は看過できない問題である。その米国の石油エネルギー供給を見ると、中東石油への依存は表6と表7にあるようにサウジの14.3%を中心に最大でも25%に過ぎないことが分る。何とイラクからも日量で78万バレル輸入している。これについて一部の識者は、米国にとって中東、なかんづくイラクへの攻撃として石油権益を想定するのはおかしいと言う。しかし、事情は全く逆である。

表6 OECD主要国のエネルギー状況
(1998年、%、▲は輸出)
日本 米国 英国 ドイツ フランス
石油依存度 51 40 36 41 36
石油輸入の依存度 100 56 ▲67 97 98
原油輸入の中東依存度 85 25 4 13 41
出典:日経新聞、経済用語解説より

表7 2001年における
米国のエネルギー輸入国・輸入量・輸入割合
輸入先国名 日単位輸入量 割合(%)
カナダ 179万バレル/日 15.4
サウジアラビア 166万バレル/日 14.3
ベネズエラ 166万バレル/日 14.3
メキシコ 142万バレル/日 12.2
ナイジェリア 85万バレル/日 7.3
イラク 78万バレル/日 6.7
ノルウェー 33万バレル/日 2.8
その他 313万バレル/日 26.9
全輸入量 1162万バレル/日 100.0
     ※:輸入量のうち、OPEC加盟国から545万バレル/日、
        非OPEC国から617万バレル/日となっている。
出典:日経新聞、2003年1月10日朝刊

 米国の石油供給はアラスカを含む米国内以外に、表6にもあるようにカナダ、サウジ、ウクェートなどの中東、ベネズエラ、メキシコなどの中南米、ナイジェリアなどアフリカ西海岸諸国、中央アジア、東南アジアなど実に多岐にわたっている。米国内の供給を見た場合、可採埋蔵量を同年の生産量で割った可採年数はわずか6〜7年と逼迫している。さらに中南米、アフリカ、東南アジア、中央アジア諸国はいずれも政情が不安定、いつなんどき米国系の国際石油資本(メジャー)が接収され、国有化される可能性もある。したがって、一国で世界第二位の埋蔵量、そして可採年数をもつイラク(主に石油)やイラン(主に天然ガス)は、米国にとって喉からよだれがでるほど欲しいの国となる。大量破壊兵器の恐怖からの解放とか単なる中東地域における政治的安定だけを米国のイラク攻撃の主たる理由とすることはありえない。また同時多発テロの実行部隊がサウジアラビアから多く出たことを理由に米国が中東依存を減らし違っているというのも、イラク攻撃にかかわる米国の石油権益説を隠すことになるものと思われる。
  

図6  世界の地域別のエネルギー消費割合 出典:BP統計 グラフ作成:環境総合研究所


 次に世界の石油、天然ガス統計からイラク、イランを取り巻く地政学的な意味合いをみてみる。
 石油生産量は全世界で1日6,534万バーレルである。そのうちOPEC加盟国が2,781万バーレル、42.6%を占めている。国別ではサウジが12.7%で一位、旧ソ連諸国10.9%、米国9.6%、イラン5.7%、中国とベネズエラが4.9%、メキシコ4.7%、ノルウェー4.5%、英国3.8%、UAE3.5%、イラク3.3%、クウェイト3.1%と続く。

【関連情報URL】
OPEC:1960年9月に、イラク、イラン、サウジ、クウェート、ベネズエラの中東及び南米の石油生産国が創設。その後11カ国に増えた。加盟国の埋蔵量は全世界の約80%を占める。最盛期には世界の原油生産の80%を占めていた。現在は43%程度に減少している。OPEC公式サイト http://www.opec.org/homepage/frame.htm

イラクの石油について:http://www.globalpolicy.org/security/oil/irqindx.htm
OPEC・イラク石油情報


 問題は現在の生産量より採掘可能原油量であり可採年数である。
 図7は1998年末の採掘可能原油量(石油埋蔵量)である。図をみると、サウジが全世界の25%、イラクが11%、UAE、クウェイト、イランが9%、ベネズエラ7%、旧ソ連とメキシコが5%、その他が18%で米国はわずか2%にすぎない。採掘可能原油量は中東5カ国で世界全体の実に63%、イラクとイランで20%を占めている。可採埋蔵量を同年の生産量で割った可採年数は、1998年末でイラクが世界最大で140年強、クウェイト130年弱、UAE120年弱、サウジ85年、イラン70年弱と、ここでもイラク、イランと中東諸国が圧倒的に多いことが分かる。世界の平均可採年数は44年、米国はさきに述べたように、わずか残り7年である。

 サウジなどイラク、イラン以外の中東諸国が湾岸戦争以来米国の軍門に下っている状況から見れば、国内生産が底をつきつつあり、世界の多様な途上国に石油資源を依存する世界最大の石油輸入国米国が、イラク、イランの採掘可能原油量に目を付けることは容易に理解できることだ。ちなみにイラクには、調査済みの油井73のうち、開発されているのは24カ所にすぎず、現在は経済制裁下のため生産量は日量200万バレルを割っている。そのうち何と78万バレルを米国に輸出している。しかし、米欧の主力メジャーが本格参入すれば、日量700万バレルになるという推定もある。すなわち、米国の石油供給の中東依存が現在15%程度であればこそ、今後、イラクに親米傀儡政権を樹立し、米国系国際石油資本を米軍駐留のもとにイラク内に設立し、米国に安定供給する、さらに原油価におけるOPECの影響力を弱め、米国主導とするという戦略は、ブッシュ一族の石油権益を除外しても容易に察知できることと言えるのである。

図7 世界の石油採掘可能原油割合(1998年末)  出典:BP統計  グラフ作成:環境総合研究所 

「悪の枢軸」のひとつに名指しされたイランについても見ておこう

 悪の枢軸に名指しされたイランとエネルギーとの関係も見ておこう。
 図8は天然ガスの埋蔵量を示している。図から1998年末の埋蔵量は、旧ソ連諸国が全世界の36%、イラン15%、アジア大洋州8%、アフリカ諸国、カタールが7%、中南米、その他欧州が5%、サウジとUAEが4%、カナダなど北米はわずか4%だ。天然ガスの埋蔵量は、旧ソ連諸国と中東諸国をあわせると70%と圧倒的に多い。しかも、中東では何とイランがダントツ多いことが分る。米国がイランを「悪の枢軸」と呼んでいるひとつの理由がこの辺にあるのかも知れない。以下のHenry-Madison Research及びNational Geographicが作成した中東地域の石油、天然ガス地図(賦存地域図)をみれば、イラク、イランが豊富なエネルギー資源の帯の中核に位置していることが分かる。イラクの副大統領アジズ氏が言うようにこれが米国がイラク、イランに執拗にこだわる主たる理由であると思える。

【関連情報URL】
以下の地図を見るとイラク、イランがOil & Gas Corridorの中心に位置しているかがよく分ります。   
 http://www.webcom.com/beacon/mapcorridor.html 
  Iraq & Iran Oil and Gas Corridor, Henry-Madison Research.

http://www.webcom.com/beacon/mapcorridorR.html
RussianOil and Gas Corridor, Henry-Madison Research.
  また以下は、有名なナショナルジオグラフィックの中東地域に資源エネルギー地図です。
http://www.nationalgeographic.com/iraq/map_midEastNR.html
  National Geographic Map: Middle East Natural Resources 
中東地域、中央アジア地域の石油、天然ガス埋蔵地図


図8 世界の天然ガス埋蔵量割合(1998年末)  出典:BP統計  グラフ作成:環境総合研究所

アフガン戦争についても復習しておこう

 ところで全世界の36%と圧倒的に多くの天然ガスをもつのは、中央アジアのカスピ海やアラル海沿岸諸国など旧ソ連関連諸国である。統計には表れていないが、図9に示すアフガニスタン北部地域のマザリシャリフ周辺に膨大な天然ガス埋蔵があるという報告もある。これら中央アジアの天然ガスを米国が入手する上で歴史的に大きな障害となっていたのが、他ならぬアフガニスタンであった。

 米国は永年にわたり、旧ソ連諸国の天然ガスや石油をアフガンを縦断するパイプラインを敷設してアラビア海あるいはインド洋に搬送する計画を練っていた。その主たる理由は、旧ソ連やイランを経由せずカスピ海やアラル海沿岸諸国の天然ガスをアラビア海側に搬出するためである。CISやイランとの関係が悪化すればパイプラインが接収される可能性もある。

 中央アジアガス会社(CentGas)はまさにそのエージェントであり、その中心人物が他ならぬ現在アフガンの大統領におさまっているカルザイ氏であった。中央アジアにおける米国の永年の権益を実現したのはブッシュ大統領であり、そのきっかけは9.11以降の対テロ戦争の名目で行なわれたアフガン戦争である。事実、アフガン戦争終結後、ブッシュ政権の強力な後押しでアフガン暫定議会議長そして最終的にアフガンの大統領に就任したのはルザイ氏であった。

 そのカルザイ氏は米国の巨大石油資本(メジャー)、ユノカル社の最高顧問を歴任し米国滞在もながい。CIAやブッシュ(父)などとも多様な交流、交友関係がある。カルザイ氏が大統領就任後、米国にとって懸案だったアフガン縦断天然ガス、石油のパイプラインの起工式が行なわれている。米軍駐留のもとでパイプラインが敷設され、維持管理されることになる。まさに、アフガン戦争は、米国にとってまたブッシュ政権にとって、さらにテキサスの石油産業、企業出身のブッシュ一族にとって一石二鳥、、一石三鳥の戦争であったことがよく分かる。

 アフガン会議でそのカルザイ氏が来日した際、日本のマスコミはカルザイ氏をして流ちょうな英語を話すベストドレッサーなどと持ち上げていた。カルザイ氏がアフガンパシュトウーン人の顔をした「米国人」であることを知る者にとって、日本のマスコミのノーテンキさにはあきれかえったものである。

   これらの経緯については、「エネルギー権益から見たアフガン戦争」を参照のこと。

図9 アフガン北部の石油・天然ガス・パイプライン敷設図
出典:テキサス大学オースチン校アフガン地図ライブラリーの地図より青山貞一作成
 
 アフガン戦争より10年前の1991年の湾岸戦争では、多国籍軍を率いた米国は戦争の結果、中東の大国、サウジアラビアへの軍事駐留と、メジャー(国際石油資本)の関与を通じ、軍事的かつ石油権益の大きな道を開いた。サウジの大富豪オサマ家(ウサマ家)の子息、オサマ・ビンラディンが反米感情を強くもつきっかけとなったのが、まさに米軍の中東駐留、なかんづくサウジへの駐留にあったとされている。この点から言えば、9.11の遠因は、米国自身にあったと言っても過言ではない。

  ※ Asahi.com(2001/09/25)
    ブッシュ大統領とビンラディン家、ビジネスでつながり

 要約すれば、米国は、中長期的にイラク、イランの原油や天然ガスを支配下におくことで、長期的に中東における石油権益を強固なものとすることができる、またそれによって今まで中東主導のOPECを弱体化させ、エネルギーコストを米国主導でコントロールするこも可能になると言う戦略も見え隠れしてくる。

現実味増す米国のイラク石油権益

 実際、2002年12月31日の毎日新聞朝刊の記事で、イラクの石油相は、米国のイラク攻撃のねらいをつぎのように述べている(以下記事概要)

 すなわち、「米国はOPECの弱体化をねらっている。OPECが自主的に動くのが嫌いなのだ」、さらに米国のイラク攻撃をはっきりと「石油のための戦争」と明言した上で、世界第二位の埋蔵量を誇るイラクに親米政権を樹立すれば、米国の石油権益は一気に拡大する。米国がOPECに代わって世界の石油供給を牛耳ることこそ、米国のねらいなのだ」と言い切っている。

 
さらに、2003年1月元旦の毎日新聞の米国のイラク攻撃特集記事(民主帝国、アメリカンパワー第一部)には、石油権益配分視野に、仏露中や企業も入り乱れ米国系メジャーがフセイン政権転覆後の原油の採掘、積み出しの青写真を練っている様子が子細に書かれている。 たとえば、米国のコンサルタント会社幹部は、「あるメジャーはイラクの油田を8等分し、米欧メジャーなどで分配する青写真を描いている。(フセイン後の)新政権とは最短3ヶ月で交渉に入れると見込んでいる」と。また2002年11月中旬には、ホワイトハウスでブッシュ、チェイニーとメジャー首脳の会合が開かれ、メジャー側が戦後の油田開発計画を説明。2003年1月にはアメリカ政府やメジャーの代表者らが一堂に会し、イラク攻撃に備えた「終盤情報」のすりあわせが行なわれたとされている。

 同じ毎日新聞の記事では、さらに国連制裁下でありながら、露、中国、フランスなど10数カ国の石油関連企業が制裁解除後をにらみ、フセイン政権と石油権益の契約や交渉を行なっていると報じている。そのなかには日本企業も含まれるという聞き捨てならない次のような話もある。ロシアは歴史的イラクと関係が深い。ロシアはルクオイルと言う石油会社を通じ、イラクに日量60万バーレルの油田の開発権を得ていた。米国のイラク攻撃の可能性が高まるなかで、ロシアはイラク国内の石油の既得権益の保証を米国側に求めてきたと言う。これに対し米政府側はロシアにフセイン排除を要請、米政界に強いコンサルタント(ユーラシア・グループ)の代表は、「米政府の権益保護の約束と引き替えに、ロシアがイラクを武装解除させる国連の新決議に賛成した」と説明している。このような権益と国連決議との関係は、ロシアのみならず中国やフランスについても似たり寄ったりの状況と思える。

 毎日新聞の特集では、最後に米国務省高官の話として、「イラクの新政権は疑いなく、米国と米企業に前向きな見方を示すであろう」と余裕を見せた、としている。以上をみるだけでもブッシュ政権がイラクを攻撃する大きな理由は、「正義」や「自由」のためと言うより、石油などの資源エネルギー利権のためと感じられよう。

 ※ 2003年1月1日、毎日新聞朝刊民主帝国、アメリカンパワー第一部 石油権益配分視野に
 
 その4に続く  その5に続く 全体内容目次