現地調査報告 Coastal Zone Management in San Diego,CA
Coastal Zone Management in San Diego, CA
サンディエゴ沿岸域管理

その法制度と理念・政策・計画
Policy, Program and Plan of Coastal Zone Management
in San Diego, California

青山貞一(Teiichi Aoyama)
Prpf. Tokyo City University
Environmental Research Institute
東京都市大学環境情報学部教授、
環境総合研究所長
2008.1.1

           

 2007年11月22日~11月26日、大学の新規講義「環境政策論」準備の一環として、米国カリフォルニア州サンディエゴに現地調査とヒヤリングででかけた。以下はその一部として行った「沿岸域管理」(Coastal Zone Management)についての概要報告である。

はじめに

 ここではカリフォルニア州南部の沿岸域での自然景観の保全、野生生物の保護など沿岸域の資源管理と環境配慮に関する政策に焦点をあてながら現地調査をもとに報告してみたい。

 カリフォルニア州南部の海岸線や沿岸域には秀逸な景観や環境面や自然保全から見て適切な土地利用あるいは資源管理がなされていることにおどろかされる。

 その背景には、自治体参加、市民参加による沿岸域管理計画の策定と環境配慮の存在があることを見逃すことはできない。

 ひと言で言えば、連邦政府、州政府、基礎自治体の有機的な連携によって海洋、海岸線、沿岸域にまたがる土地利用、資源管理がそれぞれの役割分担と市民参加により計画的に行われており、その背景には国家環境政策法(NEPA)や行政手続法、連邦情報自由法などが原理と手続がしっかりと整備されてきた歴史がある。

 日本ではその種の法的整備はなく、沿岸域は管轄と権益を巡り永年、建設省と運輸省が縄張り争いをおこなっており、米国の沿岸域管理法のような行政法はなく、一体的管理h行われていない。また1997年に制定された環境影響評価法の対象には港湾計画や公有水面埋立事業はあっても、沿岸域のような広域的な計画や土地利用・資源利用に係わる行為は含まれていない。

沿岸管理の理念と対象

 いうまでもなく資源は有限であり、一度、それらの資源を消費、搾取すると再生が不可能なものが多い。一度、破壊すると取り返しがつかない資源もある。沿岸管理の大きな目的は、沿岸域に賦存する希少な水資源、生物資源、景観資源、土地資源、天然資源、鉱物資源などを適正かつ適切に保全、保存そして利用することにある。

 以下は筆者(青山貞一)が「計画アセスメントと地域環境管理」(季刊環境研究、第34号)に執筆した沿岸域管理の概念図である。

 図1より分かるように、米国の沿岸域管理では、海岸線から海側に3マイル、陸側に5マイルが講義の意味で沿岸域管理の対象となっている。これは、通常の沿岸(Coast)に比べ3倍以上の範囲をさしている。
 

図1 沿岸域管理の概念図
出典:青山貞一:計画アセスメントと地域環境管理、季刊環境研究、第34号、1981

沿岸管理の政策と法制度

 上記の沿岸域管理の理念と目的を実現するため、米国では連邦政府レベル、具体的には連邦商務省(DOC)が中心となり、一体的な政策及び法制度の整備を行うとともに、具体的実務は商務省の国家海洋気象局(NOAA)が管轄してきた。

NOAA
図2 連邦商務省と国家海洋気象局の関係
出典:source: 国立環境研究所
http://www-cger.nies.go.jp/cger-j/db/info/org/noaa.htm

 筆者は1977年~79年に、環境庁企画調整局の委託業務の一環で行った「計画段階における環境影響評価技法の体系化に関する調査研究」で、ワシントンDCにある連邦政府機関や州政府、ニューヨーク市、サンフランシスコ市などの自治体に数度にわたりヒヤリングや文献資料収集で現地調査を行った。

 その現地ヒヤリングのなかで、米国では1972年に連邦議会が制定した沿岸域管理法(Coastal Zone Management Act)を根拠として沿岸域を有する州政府に沿岸域管理計画(プログラム)の策定と国家環境政策法(NEPA)による環境配慮、今日言うところの戦略的環境アセスメント(SEA)を実施していることを知らされた。実に1978~19799年、30年近く前のことである。

 具体的には、連邦情報自由法と連邦行政手続法をベースに、国家環境政策法の環境影響評価報告書策定手続を活用し、情報公開と市民参加により各州政府が沿岸域管理計画を策定していたのである。

 すなわち、1972年に制定された沿岸域管理法を根拠に図2に示す連邦商務省(DOC)のNOAAが中心となって、太平洋、大西洋、アラスカ、ハワイなどの沿岸域の各種資源と土地利用の管理のもととなる沿岸域管理計画の策定を義務づけたのである。具体的には沿岸域管理法を根拠に連邦政府の補助金行政計画として州政府が計画を策定した。それは沿岸を管理する州政府に連邦政府が財政支援プログラム(Federal Grant Program)を実行したのである。その場合、沿岸管理計画の策定主体及び具体的管理の実務は各州政府の管轄となる。

 以下は、1972年に制定された沿岸域管理法(CZMA)の概要である。
 
COASTAL ZONE MANAGEMENT ACT (CZMA) 1972
http://www4.law.cornell.edu/uscode/16/ch33.html
This Act establishes an extensive federal grant program within the Department of Commerce to encourage coastal states to develop and implement coastal zone management programs. Activities that affect coastal zones must be consistent with approved state programs. The Act also establishes a national estuarine reserve system.

 これは道路などでも同じだが、米国では連邦政府が州政府に補助金を出す前提として国家環境政策法(NEPA)の対象となる計画やプログラムの策定を義務づける。その結果、州政府は国家環境政策法の手続きを踏襲し、情報公開と市民参加をもとに沿岸域管理のための基本計画段階やプログラム、さらには広域計画の策定過程で環境アセスメントを実施するのである。

 これにより、米国では省庁、機関を超えて沿岸域の各種資源を一体的に管理する法的、政策・財政的な裏付けが整備されることとなった。

 残念ながら、わが国では米国の沿岸域管理法や沿岸域管理計画などに類する行政法、行政計画はなく、依然として沿岸域、海岸は省庁間での縄張り争いの場となっている。また日本では米国のように国庫補助(連邦から州政府への補助金)の前提として情報公開と市民参加を義務づけることは少ない。

カリフォルニア州の沿岸域管理計画

 カリフォルニア州では、カリフォルニア州沿岸域管理計画(California Coastal Plan)が州政府により策定された。図3に計画書の表紙を示す。この計画案をもとに、国家環境政策法(NEPA)によって環境影響評価準備書(DEIS:Draft Environmental Impact Statement)が作成された。

 これは基本計画そして広域計画を対象とした環境アセスメントであり、作成された環境影響評価準備書(DEIS)は、プログラムステートメント(Program Statement)と呼ばれた。正確には、カリフォルニア州沿岸域管理環境影響草稿報告書(California State Coastal Zone Management Draft Environmental Impact Statement)である。

 しかもカリフォルニア州政府により策定された沿岸域管理計画は、基本計画段階そして広域計画でありながら、市民参加の手続きが導入され、自治体、研究者だけでなく、アセスメントの家庭ではNPO、市民から多くの意見が寄せられ、それをもとに最終報告書(FEIS)が作成されている。


図3 カリフォルニア沿岸計画(California Coastal Plan)
1979年の現地調査で入手

 その後、 カリフォルニア州ではカリフォルニア州沿岸域管理計画と整合性を確保したカリフォルニア海洋・沿岸資源プログラムを策定した。そこでも沿岸域管理に係わる政策、施策の立案過程で関連市町村及び市民を対象とした情報公開、市民参加が行われている。

 沿岸域管理の関係業務はカリフォルニア州政府の場合、カリフォルニア州資源庁が管轄するカリフォルニア沿岸域保全委員会(California Coastal Zone Conervation Sommisions)が担当している。

 以下は、策定されたカリフォルニア海洋・沿岸資源プログラムの目次である。

California's Ocean and Coastal Resources Coastal Impact Assistance Program

I. INTRODUCTION
California's Ocean and Coastal Resources Coastal Impact Assistance Program
   カリフォルニア海洋・沿岸資源影響支援プログラム
Authorized Uses of CIAP Funds
   承認を得たCIAP資金の使用
Designated State Agency
   州の担当機関
Public Participation
   市民参加(公衆参加)
Consistency with California's Coastal Zone Management Program 
   カリフォルニア州沿岸域管理プログラムとの整合性の確保
Coordination with Federal Programs
   各種連邦プログラムとの調整
California Resources Agency Contact Information
   カリフォルニア資源庁の連絡先情報

II. IMPLEMENTATION OF THE CIAP PLAN
Mission and Goals 目的と目標
CIAP Implementation カリフォルニア海洋・沿岸資源影響支援プログラムの実施
Overview of Proposed State and County Project Proposals 計画されている州・郡事業

  • Coastal Access  沿岸への接近容易性
  • Coastal Habitat/Wetlands  沿岸における野生生物生息域確保・湿地保全
  • Economics 経済学的要素
  • Geographic Information Systems 地理情報システム(GIS)
  • Infrastructure 基盤整備
  • Marine Life/Fisheries 海洋生活・御蝶
  • Ocean and Coastal Planning/Management 海洋及び沿岸域計画・管理
  • Offshore Oil and Gas 海岸での石油・ガス発掘
  • Research 研究
  • Shoreline Erosion 海岸線浸食
  • Watersheds/Water Quality 水の流れ・水質
  • State CIAP Administration 関連行政
沿岸域管理の計画項目・事項

 以下は、筆者が「計画アセスメントと地域環境管理」において紹介したカリフォルニア州の沿岸域管理計画(California Coastal Plan)にみる管理の対象となる資源のリストである。表より分かるように、資源管理では、まず①海洋水域、②沿岸域に分けている。両方に共通なのは水質管理である。沿岸域にはいわゆる公共水域に加えて湿地、汽水域、海岸線なども含まれる。

 また実際の沿岸域環境管理の対象としては、沿岸の水質、潮流、河川、、生物生息域、農業、森林、土壌・鉱物資源、大気質、景観などが含まれる。他方、沿岸の開発では、天然資源開発、地域開発、危険地区対応、などが重視されている。また沿岸域でのエネルギー開発、交通運輸、水上交通、航空の管理がある。さらに、アクセス権が計画の中で明確にうたわれている。これは沿岸域や海岸線への市民のアクセス権利である。また沿岸域、海岸線などでのリクレーション(遊歩道、トレール、自然海浜公園など)も計画事項とされている。そして最後に、歴史的文化的資源の管理がある。 

表1 カリフォルニア州沿岸域計画にみる沿岸域の管理対象項目


出典:青山貞一:計画アセスメントと地域環境管理、季刊環境研究、第34号、1981

 以下参考のため、米国西部地域、カリフォルニア州、サンディエゴ郡の位置関係を示す。


図4 米国西部地域とカリフォルニア州、サンディエゴの位置


図5 カリフォルニア州におけるサンディエゴ郡の位置
    赤い部分がサンディエゴ郡

つづく