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国民投票の基礎知識
(1)手続の概要

青山貞一 Teiichi Aoyama
東京都市大学名誉教授(公共政策論)
掲載月日:2017年11月3日  
独立系メディア E−wave Tokyo


 @手続の概要  A一度あった原案提出  B改正案の落とし穴
 C同床異夢の2/3  D世論調査の行方  E脱原発条項を!
 F改憲・立憲トピックス

 第48回の衆議院議員総選挙では、はからずも民進党の分裂により、今まで進めてきた野党統一の動きが全国規模で破壊されることで、自民党でさえ思いもよらぬ自公だけで衆院議席の2/3(=310)を超える結果となった。


 実は、知っているようで、よく知らない、わかりづらいのが「憲法改正」である。

 ここでは、改憲、加憲、護憲の立場に関わりなく、国民投票、憲法改正の基礎知識と現在の状況、そしてポイント、課題について、順を追って紹介してみたい。


◆憲法改正の流れの概要

 
憲法改正の流れは法的には、通称、憲法改正手続法(WIkipedia)に規定されている。憲法改正手続法の全体は、日本国憲法の改正手続に関する法律にある。

 以下は、憲法改正の流れの概要である。ステップにそって概要を述べる。以下の図(
憲法改正の手続きの流れ)を同時に参照して欲しい。


・ステップ1 憲法改正の原案を国会に提出

 憲法改正の手続きの第1ステップは、憲法改正の原案を国会に提出することである。
この原案は衆院、参院のどちらから国会に提出してもよいことになっている。衆院の場合は、100人以上、参院の場合は50人以上の賛成が必要となる。

<参考>
 憲法改正原案については、過去、衆院で一度、一院制についての憲法改正原案が提案者、賛成者あわせて130名で提出されたが、この憲法改正原案は、会派・政党の正式な機関承認を得ていない」という理由で、衆議院(横路孝弘議長)に受理されなかった。


ステップ2 原案憲法審査会で審査、採決

 第2のステップは、国会に提出された
法改正の原案
憲法審査会で審査し、最終的に採決することになる。

 場合により衆参憲法審査会の合同審査会を開催し、改憲原案について勧告できる。

 本会議の採決は総議員の2/3の賛成で可決され、もうひとつの院の憲法審査会で審査・採決されることになる。この場合も、本会議の採決は総議員の2/3の賛成で可決される。

<参考>
 2017年の11月時点で、衆議院、参議院それぞれに憲法審査会が設置されているが、いわゆる憲法改正原案が提出されていないため、基礎的な知識や現行憲法や関連法制の研究、また参考人を審査会に呼び意見を聴くなどをしている。


・ステップ3  国会の憲法改正発議、
         国民投票の期日を議決・告示


 第3ステップは、国会の憲法改正発議として、国会で国民投票の期日を議決し告示する、この場合、
期間は国会の改正発議後60日から180日の範囲とし、国会に国民投票広報協議会を設置し、新聞、テレビなどでの広報とともに、政党や市民団体による広報活動が行われる。これを国民投票運動という。


・ステップ4 国民投票の実施

 第4ステップは、国民投票の実施である。投票権は18歳以上の日本国民である。

 憲法改正案は、内容において関連する条項ごとに提案され、それぞれの改正案ごとに一人一票を投じることとなる。もし、単独の条文として発議されている場合は、その条文のみに対して投票する事になる。

 国民投票における有効投票総数の過半数で改正が承認され、過半数に満たない場合は廃案となる。ただし、これは上記の憲法改正案によって異なる。

 すなわち、条項ごとに改正案が提案されている場合は、それぞれについて投票者は、賛成、反対を投票するが、単独の条文として発議されている場合は、その条文について賛成、反対を投票することとなる。

 第五ステップは、改正憲法の成立と公布である。


出典;日経BP 憲法改正は本当に可能か? 戦争放棄「9条」の行方は


◆憲法審査会とは

 憲法発議のもととなる憲法審査会は、日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査する機関である。

 本審査会は、第167回国会の召集の日(平成19年8月7日)から、国会法第102条の6の規定に基づき「(衆議院に)設ける」とされている。

 周知のように、憲法発議の方法は、国会議員(衆議院100人以上、参議院50人以上)の賛成により憲法改正案の原案が発議され、衆参各議院においてそれぞれ憲法審査会で審査されたのちに、本会議に付される。

 ところで、現在衆議院に設置されているこの憲法審査会のメンバーは、合計で50名、うち圧倒的多くが自民党議員である。自民党が31名、民進党議員も10名、公明党4名、共産党2名、維新2名、社民1名が参加している。

 ※ 従来の委員50名の氏名
    出典:衆議院

 この審査会の議事内容は、別途、議事要旨、議事内容をご覧頂くこととするが、審査会は過去190回行われているが、議論がどこまで進捗しているかという観点から見ると、到底、憲法改正原案ができ憲法改正発議が行えるような状態にないことは明らかである。

 
ただし、上記は第48回の衆議院選挙(2017年総選挙)以前のものであり、各政党の議席数、議員が替わっており、とりわけ民進党は、立憲民主党、希望の党、無所属などに分裂しているため衆議院の憲法審査会の現在委員は変更となる可能性がある
 
  ※衆議院憲法審査会   ※参議院憲法審査会

<憲法改正手続法の概略>

 本文:日本国憲法の改正手続に関する法律 抄
     (平成十九年法律第五十一号)
     施行日: 平成二十九年六月一日
     最終更新: 平成二十八年十二月二日公布
     (平成二十八年法律第九十四号)改正

 以下概要

 具体的な手続きに関しては「日本国憲法の改正手続に関する法律施行令」(平成22年政令第135号)及び「日本国憲法の改正手続に関する法律施行規則」(平成22年総務省令第61号)で規定している。

対象・投票権者
 国民投票の対象は憲法改正のみに限定(1条)。

 投票権者は18歳以上の日本国民(3条)。ただし、18歳以上の者が国政選挙で投票できるように公職選挙法の選挙権の年齢や民法の成年年齢(20歳以上)などの規定について検討し必要な法制上の措置を講じて、18歳以上の者が国政選挙で投票することができるように改正するまでは、国民投票の投票権者も20歳以上とする(制定時の附則3条)。なお、2018年6月20日までは、経過措置として20歳以上の者に限って投票権が与えられている(平成26年改正法附則2項)

 この附則に関連して2015年6月に改正公職選挙法が成立し選挙権年齢は20歳以上から18歳以上に引き下げられている。

 在外邦人にも投票権はあり(62条)、いわゆる公民権停止を受けた者も投票権者から除外されていない。

憲法改正原案
 各院に憲法審査会を設置し、憲法改正原案について審査を行うが、公布後3年間憲法改正原案の発議は凍結する(附則1条、同4条)。

 憲法改正原案は、衆議院100名以上、参議院50名以上の議員の賛成で国会に提出できる(国会法第68条の2)。

 憲法改正原案の発議は内容において関連する事項ごとに区分して行う(個別発議の原則、国会法第68条の3)。

憲法審査会
 審査会の設置に関する条項は2007年8月の臨時国会召集とともに発効。ただ、憲法審査会規程が衆議院では2009年6月に、参議院では2011年5月まで制定が遅れ、また両院とも委員の選任がされないなどの状態が続いたが、2011年10月21日に両院で憲法審査会が始動した。

投票方法
 国会発議後は、60-180日間ほどの期間を経た後に国民投票を行う(2条)。

 国民投票は、憲法改正案ごとに1人1票の投票を行う(47条)。

 投票用紙(縦書き)にあらかじめ印刷された「賛成」または「反対」の文字(いずれもルビ付き)のどちらかに○をつける方法で投票を実施(57条)。

 印刷されている「賛成」の文字を二重線を引く等して消した票は反対として扱い、「反対」の文字を二重線で引く等して消した票は賛成として扱う(81条)。

 点字投票の場合は、点字投票専用の用紙に「サンセイ」または「ハンタイ」と自書する(58条)。

投票の結果
 投票総数(賛成票と反対票の合計。白票等無効票を除く)の過半数の賛成で憲法改正案は成立(126条、98条2項)。

 最低投票率制度は設けない。

無効訴訟
 無効訴訟は国民投票の結果の告示から30日以内に東京高裁に投票人が提起することができる(127条)。

 訴訟を提起しても国民投票の効力は原則停止しない。
憲法改正が無効とされることで重大な支障を避けるため緊急の必要があるときは、本案について理由がないと認めるときを除き、憲法改正の効力を全部又は一部を判決確定まで停止することができる(133条)。

投票運動
 選管委員や職員及び国民投票広報協議会事務局員に限定して国民投票運動を禁止する(101条)。

 公務員や教育者の、地位を利用した投票運動を禁止(103条)。罰則は設けないが、公務員法上の懲戒処分の対象にはなる。

 公務員の国民投票運動及び意見表明に関する、国家公務員法及び地方公務員法上の政治的行為に対する規制については、賛否の勧誘が不当に制約されないよう法制上の検討を行う(附則11条)。 

 憲法改正の予備的国民投票については、その実施の有無及びその対象について検討を加える(附則12条)。

 テレビ・ラジオによるコマーシャルは投票日の2週間前から禁止(105条)。ただし、罰則を設けない。

 国会において設置される国民投票広報協議会(議席数に応じて会派ごとに割りあてて構成。衆参各院から10名ずつ選任される)が、改正案の要旨(その他、国会審議の経緯などを客観的に記した分かりやすい説明)、賛成意見、反対意見からなる国民投票公報、新聞広告、テレビラジオによる憲法改正案の広報のための放送(政見放送に類似したものでスポットCM等を想定したものではない)を行う(106条・107条)。この際、賛否については同一のサイズ及び時間を確保する(106条6項・107条5項)。

広報のための新聞広告、広報放送はいずれも国費で行われる。

施行期日
 国民投票の実施など主要な規定については公布の日から起算して3年を経過した日(2010年(平成22年)5月18日)から施行するが、憲法審査会に関する部分など一部の規定は公布後の次国会から施行する(附則1条)。

出典:Wikipedia、 日本国


つづく