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自衛隊、イラク撤退
の次に来るもの

B 既成事実
 
青山貞一

2006年7月22日


@各国撤退 A財政負担 B既成事実 C戦時派遣 D国際貢献

 もちろん、私はイラク戦争を財政負担の観点からだけ批判しているわけではない。いうまでもなく、イラク戦争にはまったく大義がない。

 自衛隊の派遣は何のためだったのか?

 おそらくそれは米国の意向であり、撤退も米国の意向である。では日本政府が自衛隊をイラクに派遣したのは米国の意向だけであったかといえば、けっしてそうではないだろう。

 それは、一口で言えば、日本を軍隊が海外派遣できるいわば「普通の国」になるためだ。しかし、実際は、それを名目に大義のない戦争に参加したものの、大義のない米英の侵略戦争に加担した国となっただけである。

 おそらく日本政府は、今まで同様、このイラクへの自衛隊派遣を、彼らの言う「普通の国」に一歩近づ貸せる上での「既成事実」に使うのだろう。 その上で、彼らにとって大きな登竜門となる憲法第9条の改正による集団的自衛権の獲得を目指すのである。

 私たちは、イラク戦争勃発以前から以下の3つの署名を行い日本政府や国会議員に申し入れてきた。

 その目的は、単なる非戦あるいは平和主義者としてではない。米国によるイラク戦争は、大義、正義がない先制攻撃的戦争であり、エネルギー利権を奪取する侵略戦争と思われても仕方ないものであるからである。

 その巻き添えとなって、兵士以外にまったく罪のない子供や病人、老人らがすでに4万人近く死んでいる。さらに米国の劣化ウラン弾の後遺症によって多くのイラク人や兵士の体が蝕まれてゆく可能性が高い。

●正当性なき米国のイラク攻撃への日本政府の実質的支持撤回の意見申し入れ 

●日本政府へのイラク戦後復興拠出の不支持の意見申し入れ

●自衛隊イラク派兵を勇気を持って断念させる意見申し入れ


◆既成事実の積み重ね

 
日本の国防費を「軍事費」でランキングした場合、日本はすでに世界で4位〜5位に位置している。これに象徴されるように、日本の自衛隊や防衛装備は、どこから見ても立派な陸海空の軍隊である。

 もちろん、GDPが世界第二位の日本はGDPに対比した軍事費では他国に比べそれほど大きくない。だが軍事力比較の主要指標となる正規軍数の人口比で見れば、日本はすでに中国に匹敵するものとなっている。さらに保有艦艇は142隻、総基準排水量は約40万トンで世界第五位である。

 これが為政者が戦後なし崩し的に勝手に憲法を解釈しつつ進めてきた日本の現実である。すくなくとも、軍事費、装備の質、正規軍数の面では日本はすでに十分「普通の国」となっている。まさに再軍事大国化、「大日本主義」への通である

 
その自衛隊だが、湾岸戦争が起こった1991年以来、海外になし崩し的に派遣され、まさに「既成事実」を積み重ねている。

 表3は、湾岸戦争(1991)以降の日本の自衛隊の海外派遣による既成事実の積み重ねをわかりやすく示したものだ。

          
表3 自衛隊海外派遣、既成事実積み重ねの歴史

湾岸戦争後のペルシャ湾への掃海艇派遣
 
1991年、海上自衛隊は湾岸戦争終結後、ペルシャ湾に掃海艇を派遣した。この派兵は、湾岸戦争の終結後であったが、海外の公海上への初の派遣であった。
       ↓
カンボジアPKFへの陸上自衛隊派遣
 
1992年、陸上自衛隊が戦争終結後にカンボジアに地雷除去などの目的で派遣された。この派兵は戦争終結後であったが海外領土への初めての派遣であった。
       ↓
テロ対策で海上自衛隊がインド洋に派遣
 
2001年、海上自衛隊が戦時下のインド洋に派遣された。このときは戦時下であるが、海外公海上への派遣であった。
       ↓
イラクへの自衛隊派遣
 
2003年12月、政府は自衛隊をイラクに派遣することを決定した。これは戦時下の海外領土へのわが国最初の自衛隊の派遣となる。
       ↓
イラクにおける多国籍軍への参加?

多国籍軍
 一般には、国連安全保障理事会の決議や勧告を
 受けて各国が合同で編成する軍隊のことである。
 国連憲章で規定された国連軍とは別のものであり、
 各国がそれぞれの責任において派遣する。



 
上記をさらに、図式化したのが下図である。図では、横軸を<海外の公海>、<外国の領土>とし、縦軸を<戦闘終結後>、<戦時>と設定している。

 1991年、湾岸戦争終結時に海上自衛隊がペルシャ湾に派遣された。それは海外の<公海>であり、<戦闘終結後>であった。その後、1992年にはカンボジアに陸上自衛隊を派遣する。これは<外国の領土>であるが<戦闘終結後>であった。

 9.11以降、2001年、政府はテロ対策と称して、<海外の公海>であるガルシア島近くの<海外の公海>ではあるものの<戦時>に自衛隊を派遣した。

 そして、2003年のイラク戦争では、<外国の領土>しかも<戦時>に自衛隊を派遣したのである。

 まさになし崩し的、そして既成事実の積み重ねによる自衛隊の海外派遣である。

  
  
図4 自衛隊の海外活動拡大の経緯
 
出典:東京新聞

◆恣意的な法解釈


 
当然のこととして問題は、これら自衛隊の海外派兵の歴史的経路が憲法第九条とどう関連するのかだ。

◆日本国憲法
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 残念ながら、これについてまともな憲法論議はない。内閣法制局、衆議院法制局、参議院議員法制局の見解はもとより、肝心な最高裁はたえず違憲判断を先送りしてきたのが実態である。 

 またそのなかで、政府は9.11以降以下の表にあるような新法や既存法の改正を行ってきた。

 しかし、誰がどう見てもイラクへの自衛隊の派遣は外国領土、それも戦時への派遣であることは明白である。

 そこで政府は、自衛隊のイラク派遣に際しては、苦しまぎれに、「イラク特措法」のなかで、「非戦闘地域」と言う概念を持ちだし、サマワは非戦闘地域であると強弁するとともに、小泉首相は国会答弁で、これに関連しあらゆる詭弁をろうしてきたのである。

 たとえば、内閣法制局でさえ、この「非戦闘地域」解釈には疑義を呈している。結果としてたまたま、陸上自衛隊派遣機関中、サマワが大規模な戦火となることはなかったかも、知れない。だからといって自衛隊のイラク派遣が<戦時>の<外国領土>への派遣ではないとは、誰も思わない。おそらくこれは小学生でも分かることだ。

つづく
  
 

         表4 9.11以降、我が国で成立、制定された軍事関連法リスト
公布年月日 番号 法律名
平成13年11月 2日 113 平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法
平成13年11月 2日 114 海上保安庁法の一部を改正する法律
平成13年11月 2日 115 自衛隊法の一部を改正する法律
平成13年11月16日 121 テロリストによる爆弾使用の防止に関する国際条約の締結に伴う関係法律の整備に関する法律
平成13年11月28日 125 国際機関等に派遣される防衛庁の職員の処遇等に関する法律の一部を改正する法律
平成14年 3月31日 7 在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律の一部を改正する法律
平成14年 6月12日 66 国際受刑者移送法
平成15年 4月25日 30 駐留軍関係離職者等臨時措置法及び国際協定の締結等に伴う漁業離職者に関する臨時措置法の一部を改正する法律
平成15年 5月 1日 32 防衛庁設置法等の一部を改正する法律
平成15年 6月 4日 63 海上衝突予防法の一部を改正する法律
平成15年 6月13日 78 安全保障会議設置法の一部を改正する法律
平成15年 6月13日 79 武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
平成15年 6月13日 80 自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律
平成15年 8月 1日 137 イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法
平成15年10月16日 146 防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律
平成15年10月16日 147 平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法の一部を改正する法律
平成16年 2月16日 外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律
平成16年 4月 1日 警察法の一部を改正する法律
平成16年 4月14日 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律
平成16年 5月12日 防衛庁設置法及び自衛隊法の一部を改正する法律
平成16年 6月 2日 消防法及び石油コンビナート等災害防止法の一部を改正する法律
平成16年 6月 2日 出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律
平成16年 6月18日 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
平成16年 6月18日 武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
平成16年 6月18日 武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律
平成16年 6月18日 国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律
平成16年 6月18日 武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
平成16年 6月18日 武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律