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自衛隊、イラク撤退
の次に来るもの

A 財政負担
 
青山貞一

2006年7月22日


@各国撤退 A財政負担 B既成事実 C戦時派遣 D国際貢献

◆自衛隊派遣、撤退の財政負担

 そんななか、つい最近、我が自衛隊がイラクから無事帰還した。自衛隊が撤退した最大の理由は、派遣時同様、米国の意向であろう。

 米国自ら世論、財政両面で非常に厳しい状況にある。さらに盟友の日本をブーツ・オン・ザ・グランドなとといって、サマワに呼び込んだまではよかった。日本の陸上自衛隊の警備に当初、オランダ軍があたり、オランダ撤兵後は、英国、オーストラリア軍が当たってきたが、それらの国々も財政負担と国内世論が大きくなってきた。

 米国はサマワから日本の陸上自衛隊を撤退させれば、その警護に当たってきた英国やオーストラリア軍の負担を減らせるだけだ。

 周知のように、地上軍の投入は投入初期から滞在中、そして撤収まで、膨大な費用がかかる。日本を例に派遣、撤退費用を見ると大筋次のようになる。

 自衛隊のイラク派遣はここ2年間半で、陸上自衛隊が延人数で5,500名に及んでいる。それに要した費用は、国会質問で政府が答弁した範囲でも次の表1のようになる。


 表1 日本政府発表の自衛隊イラク派遣・撤退費用

 @陸上自衛隊:
  派遣滞在費(642億円)+徹底費(120億円)=742億円

 A航空自衛隊:
  派遣滞在費(113億円)+徹底費(26億円) =139億円

 B海上自衛隊:                   =  4.4億円

 C防衛庁関連内部費用:            =  1.6億円


 表1は合計総額で887億円と、巨額だ。もちろん、上記にはイラク(暫定)政府への巨額に上る援助費は含まれない。

 私は常々、「戦争は最大の環境破壊」と言い続け、3年ほど前から大学の公共政策論でも戦争と環境の講義を行っている。その延長で言えば、「戦争は最大の公共事業」である。もちろん、肯定的な意味でいっているのではない。ろくな議論もないまま国民が巨額、莫大な財政負担、「戦費」負担を押しつけられる公共事業としてだ。

 軍事や防衛事業は、通常の公共事業のように情報公開が効かないし、監査請求や住民訴訟など司法審査が一切きかない。一般競争入札も行われない。上記の数字も政府答弁なので、どこまで正確かわからないが、とにかく地上軍の投入は膨大な費用がかかることが分かる。

 一千兆円になんなんとする日本の国、地方の累積債務だが、こと軍事、防衛となると、例外視され突出した予算的措置がなされている。

 これは日本の閣僚らがブツブツ言っている中国の軍事費もそうだし、そもそも米国の軍事費、たとえば一般会計予算に占める軍事関連予算の割合は図1にあるように17%と突出している。

図1 米国の国家予算に占める軍事予算の割合
出典:War Registers League

 まぁ、これは諸外国も同様だ。ただ、憲法九条や国民世論との関係もあり、世界第2位の経済大国、日本は経済力に対比した防衛費の割合はまだ少ないと言える。これはいわば当然のことである。陸、海、空の軍隊を持たないと憲法で宣言しているのがニッポンだからである。

表2 2001年国別GDP 
 
単位:10億ドル
順位 GDP 国家予算
1 アメリカ 10,082.2 2,130
2 日本 4,175.7 650
3 ドイツ 1,854.9
4 イギリス 1,422.6
5 フランス 1,311.0
6 イタリア 1,089.6
7 カナダ 705.4
8 メキシコ 617.7
9 スペイン 583.6
10 韓国 422.4
出典:内閣府「国民経済計算年報」 国家予算は調査未了

 しかし、湾岸戦争(1991年1月)以降、とくに9.11以降、米英のテロ対策との関連で日本も防衛費が増加に転じた(図2、図3参照)。

  各国の軍事費は、9.11以前から米国が突出して大きい。しかし、日本もCISに次いで世界第三位となっている。軍事費面で日本はとっくに世界の軍事大国に仲間入りしていたのである。

 もちろん、上述のようにGDPが世界第二位の日本はGDPに対比した軍事費では他国に比べそれほど大きくない。しかし軍事力比較の主要指標となる正規軍数の人口比で見れば、日本はすでに中国に匹敵するものとなっている。さらに保有艦艇は142隻、総基準排水量は約40万トンで世界第五位である。

 これが為政者が戦後なし崩し的に勝手に憲法を解釈しつつ進めてきた日本の現実ではなかろうか。すくなくとも、軍事費、装備の質、正規軍数の面では日本はすでに十分「普通の国」となっている。まさに再「大日本主義」への通である

 日本がイラクに自衛隊を派遣したことの歴史的な意味は、戦時下の他国の領土、しかも誰が見ても戦地に自衛隊を派遣することにあったと思われる。これは政府がいくら詭弁を労しようと、である。そして、これは再び「大日本主義」の端緒を切り開くものであるといえる。日本国民はこれを熟視し、監視する必要があるだろう。 

図2  2000年度の主要各国の軍事費  グラフ作成:環境総合研究所
図3  2001年度の主要各国の軍事費  グラフ作成:環境総合研究所

 今後、日本の防衛費(=軍事費)は、北朝鮮問題との関連で増えるだろう。

 MD(ミサイル防衛)や近距離のミサイル迎撃システム、パトリオットなどを米国から多量に調達する可能性が高いからだ。すでに政府の閣僚はそれを示唆する発言をしている。

 事実、北朝鮮がロシア沿岸の海に7発ミサイルを打ち込んだとたん、日本の閣僚らはMDが必要とか、パトリオットを新規配備などと声高に語っている

 これと関連して、海上自衛隊は「ミサイル護衛艦」としてイージス艦4隻が稼働している。1993年3月に「こんごう」、1995年に「きりしま」、1997年に「みょうこう」、そして1998年に「ちょうかい」が配備された。

 また、今後、ヘリコプター搭載能力とミサイル防衛に対応した7,700t級のイージス艦二隻の配備が決定している。2005年8月24日に一隻目が進水し、2007年3月には就役を予定している。これら日本が買っているイージス艦は、一隻ざっと推定1400億円だそうだ。

 国連安保常任理事国、とくに米国がそうであるように、冷戦構造終結後、敢えて危機をつくり、ならずもの国を名指しながら、同盟国に超高額の先端武器・弾薬を売りさばいている。日本はその最大のお客さんそしてお得意さんとなっているのだ。事実、イージス艦を保有、配備している国は、米国以外では日本とスペインだけである。

 いずれにしても、戦争、軍事、防衛に係わる話は、必ず米国はじめ大国の為政者や政治家と軍需産業とつるんだマッチポンプと見る視点が不可欠である。

つづく