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福島県の甲状腺検査の問題

その1:甲状腺がんの割合を

比較することの困難さ

鷹取敦

掲載月日:2014年7月12日
 独立系メディア E−wave
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 福島第一原発事故発生後、福島県が実施している県民健康調査の中に、甲状腺検査がある。事故時に0〜18歳だった全県民を対象に実施されているものである。(2巡目からは事故後1年目に生まれた県民も対象となる。)

 2011年度は、汚染の大きな地域として、川俣町、浪江町、飯舘村、南相馬市、伊達市、田村市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、葛尾村等、2012年度は、福島市、二本松市、本宮市、大玉村、郡山市、桑折町、国見町、天栄村、白河市、西郷村、泉崎村、三春町およびいわき市の一部、2013年度にはいわき市の大部分を含む残りの地域(汚染が小さい地域)が対象となっている。

 また、福島県外の対照データとして、青森県、山梨県、長崎県の3〜18歳を対象とした甲状腺検査の結果も公表されている(いわゆる「3県調査」)。

 一般には、福島県内の汚染の大きな地域と3県調査の比較、あるいは、福島県内の汚染の小さい地域と大きい地域の比較を行うことで、被ばくによる甲状腺がんの上昇の程度が分かると理解されていると思われる。

 しかしこれは全く事実とは異なる。被ばくによる上昇があったかどうか、比較によって検証することは実は極めて難しい問題なのである。何回かにわけてこの問題について示したい。

■検査時の年齢の上昇

 甲状腺がんは進行の遅いものが多く、年齢が上がるほど、甲状腺がんを持っている人の数は増える。子供についても同様で、0〜5歳、6〜10歳、11〜15歳、16〜18歳(福島県の甲状腺がん検査公表資料の年齢区分)と年齢が上がるにつれ増加する。福島県の資料では甲状腺がんの年齢区分別の数は示されていないが、1次検査のB・C判定の年齢区分別の割合は分かる。0〜5歳は0.11%、6〜10歳は0.38%、11〜15歳は1.13%、16〜18歳は2.21%がB・C判定である。(2次検査の結果が出た人数に対する割合)

 つまり、検査を受けた人の年齢構成、そして検査時の年齢が、検査結果に影響を与えることになる。2011年度調査の対象地域と2013年度の調査対象地域では、検査時の年齢が約2歳異なる。そのため、年齢の上がった2013年度の対象地域の方が、B・C判定や甲状腺がんが見つかる確率が上昇するのである。従って県内の汚染の大きな地域と小さな地域の結果を単純比較できないのである。

 なお、B判定とは「2次検査をお勧めします。」、C判定とは「甲状腺の状態等から判断して、ただち二次検査を受けていただくことが必要です。」というものである。

■年齢構成の違い

 同じ理由で、検査を受けた集団の年齢構成も重要である。例えば、いわゆる3県調査は0〜2歳は対象外となっていることもあり、全体的に年齢構成が高い。そのため、B・C判定や甲状腺がんが見つかる可能性はその分高くなる。

 福島県内で言えば、2012年、2013年と後の対象地域になるほど、16〜18歳の受診率が大幅に下がる。2011年は74%、2012年は63%、2013年は31%と極端に下がっている。この年齢はB・C判定や甲状腺がんが見つかる確率が高いので、2013年はこの年齢の受診者が少ない分、甲状腺がん等が見つかる可能性が低い、ということになる。

■細胞診の実施割合

 福島県の検査では、B・C判定とされた人は2次検査に進み、2次検査でも結果が変わらなかった場合には、通常診療に進む。通常診療とは、福島県の甲状腺検査の枠組みから外れ、通常の治療としての診療が行われるということである。通常診療として細胞診を行ってその結果、甲状腺がん(悪性ないし悪性の疑い)かどうか診断されるという手順である。

 細胞診(穿刺細胞診)とは、甲状腺に針を刺して組織を採取して顕微鏡で観察する方法である。甲状腺がんは進行の遅いものが多いので、個々の治療として、針を刺してまで細胞診を行うかどうかは、当人と医師が相談して決めることであろう。

 ただし細胞診が行われないと、甲状腺がん(悪性ないし悪性の疑い)との結果が出ないので、細胞診実施率が低いと、結果として甲状腺がんの見つかる割合は低下する。

 福島県の公表データをみると、細胞診の実施率が年度によって大きく異なる。被ばくの大きな地域を対象とした2011年度には66%だったのが、2012年度には44%、2013年度には26%しかない。ちなみの3県調査については10%である。

 細胞診が少ない地域では、甲状腺がんが見つかる確率は下がるので、この点からも他地域との単純な比較は行えない。

■ベースラインの上昇

 それでは今後、2巡目、3巡目と検査が進むとどうなるのであろうか。仮に、被ばくによる増加が全く無いと仮定しても、毎回、一定の割合で、甲状腺がんは発見され続ける。それは最初に説明した年齢の要因のよるもので、検査を行う度に検査を受ける人の年齢が上昇するため、ベースラインとしての甲状腺がんの数が増えていくからである。

 したがって、被ばくによる増加の程度に関わらず、今後、検査が行われる度に新たに甲状腺がんが発見され続けることになるのである。

■現時点で増えていると言えるか

 上記の理由から、現時点までのデータを単純に3県調査と比較したり、県内の異なる地域を比較して、増えていないと結論づけるのは早計である。年齢や細胞診の受診率、そして検査の進捗状況を考慮しない比較は意味がない。

 一方で、同じ理由から、これらの要因を考慮せずに、有意な増加があると結論づけるのも誤りである。

 2巡目以降の検査を続けても、これらの問題は引き続き存在するため、今後の検査結果を待てば放射線の影響があるかどうか分かる、と必ずしも言えないことになる。

 それでは、これらの要因を考慮して、現時点までのデータをどのように評価したらよいか、次回に示したい。

<つづく>