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福島県の甲状腺検査の問題

その2:年齢の影響、細胞診受診割合

の影響と補正

鷹取敦

掲載月日:2014年7月12日
 独立系メディア E−wave
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 それでは(1)で指摘した課題を具体的なデータで確認したい。

■年齢による上昇

 まず年齢による影響について確認したい。(1)で指摘したように、検査年が異なると検査時の年齢が変わってしまうので、検査年度毎の平均値を示す。ただし、この中には被ばくによる増加分が含まれる可能性があるが、この点については後で検証するので、ひとまずそのままの数値を示す。

 年齢別の割合を確認できるのは1次検査のB・C判定(2次検査受診者)である。2次検査の対象者に対する受診者の割合は、2011年度:89%、2012年度:90%、2013年度:78%なので、顕著な違いはない。

 B・C判定(2次検査受診者)の0〜5歳の割合は、
 2011年度:0.09%
 2012年度:0.08%
 2013年度:0.15%

 6〜10歳の割合は、
 2011年度:0.21%
 2012年度:0.34%
 2013年度:0.51%

 11〜15歳の割合は、
 2011年度:0.63%
 2012年度:1.03%
 2013年度:1.50%

 16〜18歳の割合は、
 2011年度:1.60%
 2012年度:2.26%
 2013年度:2.37%

となっており、検査年が後になるほど増加しており、また年齢区分が上であるほど増加していることが分かる。上記の数値を以下にグラフとして示す。



 原発事故時などの放射線の被ばくにより甲状腺の異常が大きく増えるのは年齢が低い方なので、このように年齢が上昇するに従って増加しているのは(1)で指摘した検査時の年齢によって、ベースライン(被ばくの影響以前の割合)が上昇していることがデータで確認できたことになる。

■細胞診の受診割合による影響

 次に細胞診の受診率の違いについてデータを確認したい。細胞診は2次検査でB・C判定相当とされ通常診療に進んだ人のみが対象となる。(必ず細胞診をするわけではない。)通常診療に対する細胞診受診者の割合は、次の通りである。

 2011年度:66%
 2012年度:44%
 2013年度:26%

 県の検討会の議論では、2011年度は、被ばくが大きい地域を対象としていることもあり、念のため細胞診を受けた人が多かったという説明があったことから66%と高かったようである。

 2013年度が極端に低いのは、被ばくが少ない地域であることとから、必要性が小さいという判断であったのか、あるいは通常診療に進んでからの日が浅いため、まだ細胞診を受けていない人の割合が多い可能性等が考えられる。

 その結果、みつかった甲状腺がん(悪性ないし悪性の疑い)の割合は、次のとおりである。分母は<1次検査の結果判定者数>×<2次検査結果判定者数>÷<2次検査対象者>である。(実際に結果が出た人数に補正したという意味)

 2011年度:0.042%
 2012年度:0.045%
 2013年度:0.031%

 一見、同程度に見えるが、先に指摘したように、本来は検査時の年齢が上がっている2013年度の方がより多く見つかることが想定されるが、実際には2013年度が最も低い。これは細胞診を受けている人の割合が少ないことが影響しているのである。(細胞診を受けなければ甲状腺がんかどうか分からないので)

 そこで細胞診の受診率で割って補正してみると、以下のようになる。ただし全員細胞診を受ける必要はないと思われるので、仮に細胞診受診率を50%に補正してみた。

 2011年度:0.032%
 2012年度:0.051%
 2013年度:0.060%

 この結果はB・C判定と同様で、検査時の年齢が上がるほど、甲状腺がんの発見される割合が上昇しており、ある程度整合した結果となっている。

■年齢構成による影響

 もう1つ年度毎の大きな違いを(1)で指摘した。それは年度毎の年齢構成の違いである。((1)では細胞診の受診率より先に指摘したが、結果として細胞診の受診率の方が影響が大きいので先に説明した。)

 甲状腺がんが見つかる割合が最も高いと思われる16〜18歳の受診率は、
 2011年は74%
 2012年は63%
 2013年は31%

である。煩雑になるので詳細な説明は省くが、B・C判定の年齢毎の割合と1次検査受診者の年齢構成を用いて、年齢構成の補正を行った。

 先に行った細胞診の受診率の補正に年齢補正を行うと次のようになる。
 2011年度:0.030%
 2012年度:0.053%
 2013年度:0.071%

 検査年齢が上昇するにつれ、甲状腺がんの割合が上昇する傾向がより明確になった。

 これらの補正を行う前の数値同士を比較しても、全く意味がないということが、上記の検討からも分かる。甲状腺がんが増えていないという主張も、有意に増えているという主張も、主張の根拠として上記のような補正が行われた例は観たことがない。いずれも不正確な根拠に基づく主張であることになる。

 次回は、もう少し地域を細かくわけて、上記の補正を行った結果を示したい。

<つづく>