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A−1.防災計画作成と原発再稼働 これほどまでに防災計画作成を急がせる理由は何であろうか。原発の再稼働をいち早く進めるためであった。指針が公表される前の2012年10月24日、原子力規制委員長は、防災計画は再稼働の必要条件ではないが作成していないと再稼働は困難になると言及していた。防災計画作成が遅れれば原発の再稼働にも影響が出るとみていたのだ。 しかし期限の2013年3月から1年近く経つ現在も、作成出来ていない自治体は多い。UPZは全国に135市町村ある。防災計画に関しては全体の約97%が策定を終えているが、具体的な避難計画に関しては2013年12月2日の時点で53市町村しか策定していない。この事態に焦りを感じたせいかどうかは不明だが、原子力規制委員会は「防災計画と安全審査は関係ない」と明言するに至った。 以下、東京新聞引用始め ◆再稼働判断 自治体を軽視 防災計画、審査に「含まず」 2014年2月22日 東京新聞朝刊 政府は二十一日、原発の再稼働に向けて原子力規制委員会が進めている安全審査と、原発から三十キロ圏内の地方自治体が原発事故に備えて定める地域防災計画は無関係とする答弁書を決定した。安倍晋三首相は規制委が安全と判断した原発から順次再稼働する方針で、地元の自治体を軽視する姿勢が浮き彫りになった。 民主党の菅直人元首相の質問主意書に対する答弁書。衆院事務局によると、首相経験者が質問主意書を提出するのは初めて。答弁書は安全審査と地域防災計画の関係に関し「(安全審査のための)新規制基準には防災計画にかかる事項は含まれていない」と説明している。 安倍首相は「世界最高水準の規制基準で安全性が確認された原発は再稼働する」と方針を示している。答弁書によれば、「安全性」に自治体の防災計画は含まれないことになる。 地元自治体が防災計画をつくろうとした結果、住民の安全な避難や近い将来の帰還が困難と判断した場合でも、規制委の安全審査を通れば再稼働できるかどうかとの菅氏の質問に対しては、答弁書は「防災計画は都道府県および市町村において作成等がなされる」「政府は同計画の作成の支援等を行っている」と、事実上「ゼロ回答」だった。 菅氏は取材に「首相の言葉は『安全性』に住民の安全も含まれていると国民をミスリード(誤った方向へ誘導)している。それが答弁書で明確になった」と話した。 以上、東京新聞引用終り 「世界最高レベルの厳しい基準」だと鳴り物入りで始まった新規制基準の「安全性」が如何にお粗末かがわかる。自治体が作成する防災計画の中身など精査することなく、なりふり構わず再稼働に邁進する前傾姿勢を取り始めたのだ。初めから、防災計画は再稼働の必要条件ではないと繰り返し発言していたことから「安全」の前に再稼働ありきの本音は見えていたのかもしれない。 原発の新規制基準の審査については、10原発17基の安全審査と6原発の活断層調査に取り組んでいる。現状では6原発が審査の終盤を迎えている。 この期に及んで、原子力規制委員会は次の2点の方針を定めた。審査する原発の優先順位を決めて人員を集中させること、審査結果に対して広く意見を募ること、である。とにかく一基でも早く再稼働の実績を作りたいという焦りが垣間見える。 A−2.再稼働しなければならない理由 その1; 電力会社の経営難と原発立地自治体の事情 国民の安全を最優先させるのであれば、再稼働の前に防災計画の内容及び実効性までをも、安全審査と連動して精査すべきである。再稼働への拙速には理由がある。 その一つ目は、電力会社の経営難が挙げられる。 2014年1月31日に公表された電力会社10社の2013年4?12月期連結決算から、6社が経常赤字であり、4社が3期連続赤字の見通しであると報道された。赤字が続けば電力会社の資金調達が厳しくなることから、経済産業省は2016年の電力小売の全面自由化後も電力債の優遇を認めることにもなった。 電力会社が経営難に陥った主因としては、原発停止、代替の火力発電の急激な円安による燃料費増加であると報道されているが、筆者はこの説明に懐疑的である。各電力会社内の徹底的な経費(ムダ)削減を行ったうえでの経常赤字なのかは各電力会社の財務諸表を見ないと評価できないし、燃料費の価格設定が妥当であるかについても疑問だ。とはいえ再稼働を急ぐための建前としては十分である。 電力会社にとって一日も早い原発再稼働は生命線だが、原発立地自治体においても再稼働の是非に揺れている。村上達也東海村前村長や泉田裕彦新潟県知事が再稼働に強い懸念を示している一方で、伊藤祐一郎鹿児島県知事、古川康佐賀県知事は再稼働推進を表明している。 原発立地自治体の首長の意見は様々であるが、原発の稼働で地元経済が営まれていた原発立地自治体としては、原発停止後壊滅的なダメージが続いているのはどこも同じである。 原発立地における歴史的経緯を振り返っても分かるとおり、原発行政は地方自治を骨抜きにしてきた。原発の是非を問うことは、真の地方自治体の在り方を模索するという大きな枠組みにもつながる。その重要な論点が、単なる再稼働するかどうかに矮小化されてはいけない。 A−3.再稼働しなければならない理由 その2; アメリカからのプレッシャー 日本はアメリカから原発再稼働すべしとプレッシャーをかけられている。表向きの理由としては、主に4つの観点からの要求であり、日米原子力協定、核の平和利用の諸外国へのアピール、アメリカの原子力産業の維持、エネルギー安全保障である。 A−3−a. 日米原子力協定 ここ数ヶ月、特に日米原子力協定という字を目にする方も多いだろう。2018年に日米原子力協定の期間がきれるため、2018年以後協定を延長するかどうかが議論になっている。日米原子力協定は日本の原子力政策の根拠ともなるべき協定である。 (http://www.nsr.go.jp/activity/hoshousochi/kankeihourei/data/1320751_006.pdf) 実は日本の原子力政策は、日本政府の独断で方向性を決められるのではなく、この日米原子力協定の縛りを大いに受けているのである。(注:だからといって私たちの民意が無意味だということにはならない。) ここで主に問題とされているのは、使用済み核燃料再処理によるプルトニウム利用である。日本も批准しているNPT(核兵器不拡散条約)は米、英、露、仏、中の五カ国にしか核兵器保有を認めていない。日本は非核兵器保有国のなかで世界で唯一、使用済み核燃料の再処理を行っているが、それを可能としたのがこの日米原子力協定である。ただし、日本はあくまで非核兵器保有国のため、核兵器への転用可能なプルトニウムを再処理の見込みがないまま保有してはいけないことになっている。 2012年末での国内プルトニウム保有量は約9トンであるが、日米原子力協定の観点からすれば否が応でも原発を再稼働し、再処理を行ってプルトニウムを利用していく姿勢を見せなければいけないのだ。 A−3−b. 核の平和利用の諸外国へのアピール 核の軍事利用が核兵器であり、核の平和利用が原子力発電である。安全保障上、各国での原発普及はよいが、いかに核兵器への転用をさせないようにするかがポイントとなる。そこで、とりわけ原発建設が進んでいるアジアへの核の平和利用アピールとして、被爆国であり核の平和利用を徹底している日本に良いお手本になれと言っているのだ。 もし日本が大量のプルトニウムを抱えながら原発を放棄でもしようものなら、核兵器不拡散の観点から、世界における日本の評価はガタ落ちだとクギを刺している。 A−3−c. アメリカの原子力産業の維持 アメリカでは安価なシェールガスでエネルギー革命が起こり、コストが高い原発は衰退している。一方でアメリカ原発大手のGE社は日立製作所と、ウエスチングハウスは東芝と協力関係にある。日本が積極的に諸外国で原発セールスを展開し、これらの原子炉を作ればアメリカ企業に特許収入が入ることになっているという。 福島原発事故を受けて国内での原発の安全神話が崩れ落ちた(最近はそれすら早くも忘れ去られたように見える)が、世界の原発(炉心)の8割のシェアを日本企業が担っており、技術の評価が高いことを日本は世界へPR中である。特許収入で莫大な利益を得られるとなれば、アメリカは日本の原発再稼働で原発技術の維持、世界へのセールス及びメンテナンスを続けるよう働きかけている。 A−3−d. エネルギー安全保障 至極不可解なことに、原子力発電は準国産エネルギーとされている。核燃料サイクルとして実現したのはプルサーマルであるが、実質的にはリサイクル効率は極めて低い。しかし表向きでは原発の割合を高めることはエネルギー自給率を高めることになり、エネルギー安全保障上望ましいことになっている。 更に、現在イランの核開発計画放棄に向けて米、英、露等が経済制裁も辞さない構えでいる。その一方で日本が原発を止めてイランから大量に燃料を輸入していたのでは、経済制裁の効力は落ち、交渉力は著しく低下する。よって日本は早急に再稼働し、イランを儲けさせるな、ということである。 主に上記の4点から、アメリカは再稼働を強く要請しているのである。 A−4.防災計画を作成することは再稼働容認か? 再稼働反対の方と話していると「防災計画を作成することは再稼働を容認することを意味するのではないか?」と言われることが多々ある。はっきり申し上げるが、それは全く違う。 筆者も個人的意見として原発再稼働反対であるが、これまで述べてきたように様々な圧力を国内外から受け、政府はなりふり構わず再稼働に前のめりである。前述の通り、再稼働は私たちの安全を保障はしない。再稼働反対の民意を示し全力で阻止しつつも、再稼働されてしまった時の自衛策を別途固めておくことは、私たちの安全を守るという点で両立する。 それともう一つ重要な点は、既に存在する原発は、稼働していなくても危険だということだ。テロによる原発爆撃や航空機衝突は、あり得ない話だと思うだろうか?原発は核の平和利用なのでテロに狙われない印象を持ちがちだが、核兵器と同様にしっかり管理する必要がある。 世界は核セキュリティとして核物質の盗難や原発テロを問題視してきたものの、上辺だけの対策しかしてこなかった国も多々ある。それが福島原発事故以降、原発の電源を切るだけでテロは可能ということが全世界に分かってしまった。そのことで現実味が増し、更なる核セキュリティ対策への本格的取組をせねば、という国際世論が形成された。 2013年7月に初の核セキュリティ閣僚会議が開催され、125カ国及び21国際機関・団体が参加した。事故が起きて甚大な被害を被った日本よりも、世界は多くのことを学んだのだ。核セキュリティにおいては核物質保有国32カ国中、日本は23位と、先進国内では最低レベルである(出典; NTI:Nuclear Materials Security Index, Summary Score, Overall Score,2012)。 日本も遅ればせながら、原発テロを想定した警察・海上保安庁による訓練や、航空機の衝突テロに備えた「特定安全施設」の設置を新規制基準に盛り込んでいる。原発内部の情報漏れを警戒し、原発作業員の身元確認制度の導入も検討し始めた。2014年3月の核セキュリティ・サミットで核セキュリティの向上をアピールしようとしている。 このように、現実問題として核テロの危険性が身近であることからも、再稼働に関わらず防災計画は綿密に作成する必要がある。 つづく |