エントランスへはここをクリック!
ヤッシーHPへはこちらをクリック!    

韓国大統領盧武鉉と
小泉純ちゃん ここが違う


田中康夫


初出:奇っ怪ニッポン
2005年6月23日 掲載
掲載日:2005.6.23


 韓国大統領の盧武鉉は、良い意味で端倪すべからざる人物です。推し量れない、
見通しが立たない、といった否定的意味合いで用いられる「端倪」なる単語で敢えて形容した理由は、以下の彼の発言を一読したなら大きく頷けるでしょう。

 曰く「新聞は最早、巨大な権力であり、故に部数が多すぎては、自由な競争の下での自由な言論を阻害し、独禁法に抵触する」「本大会では新聞の危機と革新戦略に関する議論が主題だと聞いているが、結論を言えば、新聞の民主性と責任性をより高める事が成功の鍵になる」。

 これは、5月末にソウルで開催された世界新聞協会総会に於けるスピーチです。
実に秀逸、痛快ではありませんか。

 グーテンベルグの偉大なる発明は、同時に多くの人々に情報を伝える社会を実現し、その結果、マスメディアは第4の権力の座を獲得しました。然し乍ら、第4の権力たる彼等の在り方を「評価」する場は未だ確率されていません。どころか、護送船団記者クラブなる既得権益集団に所属する彼等は、自身への批判を受け入れようとせず、その「報道」の在り方に関し、「弁証法」的議論を否定して
いるのです。

 自らを映し出す鏡を内包し得ない日本の新聞社は、日韓首脳会談に関しても21日付朝刊で一様に「溝埋まらず」なる大見出しの下、二項対立論に基づく表層的な捉え方で終始しました。

 ですが、ここで会見に於ける盧武鉉と小泉純一郎の発言を載録したなら、彼我
の認識の違いを痛感するでしょう。

「私が話した事で一つだけ申し上げたいのは、平和の意志を強調し、交流を強化していく事は大事だが、これだけでは未来の平和の保障は難しい。過去や未来に対する共通の認識を得る努力、経済、社会、文化での交流、協力が進められてこそ、東南アジアの平和の定着が可能となる。今の状況を乗り越える積極的な努力が必要だという事だ」

「日韓両国の過去、現在、未来の問題について率直に意見交換出来た。これまで数カ月間の経緯を踏まえ、韓国国民の過去を巡る心情を重く受け止めていると話した。日本が過去の問題について反省すべきは反省した上で、未来に向けて率直に対話する事が、両国の信頼、友好関係の発展と強化に極めて重要だと確信している」

 盧武鉉は「在り方」、即ち”心構え”という「アティテュード」を問うているのです。対する小泉純一郎は、「重く受け止め」「反省すべきは反省し」「率直に意見交換」「率直に対話」と一見、殊勝に感じさせる表現を多用するものの、覚悟を伴った”心構え”以前の、言わば官僚が作成した当たり障り無き抽象的な決意表明に留まります。

 極め付けは「切実な 望みが一つ我にあり 争いのなき国と国になれ」との詩歌を日本の宰相が披露した点です。争いが容易には、否、永遠に無くならないからこそ、政治は存在し、政治家は人々を冷静に鼓舞し、思考させるべく、情念を超えた哲学を有する言葉を以て語るのだ、との基本認識が欠けています。

 話せば判る、ではなく、話しても猶、完璧には判り合えぬからこそ話すのだ、との”心構え”を抱く盧武鉉との違いです。