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怒号飛び交うわが長野県議会の哀しき姿

田中康夫
初出:日刊ゲンダイ連載【奇っ怪ニッポン】2005年3月10日 掲載

掲載日:2005.3.10

 「水ぶっかけてやれ」「能力無い奴は早く辞職しろ」「この詐欺師、笑わせんじゃねえぞ」「嘘八百、よく並べられるもんだ」「立て、こら、早く」「バカな事、こいてんな」「この野郎、テメエの頭、改革しろ」「にせオンブズマン、もう、辞めろ」「おら、お前、腹を切れ」。

 2年8カ月前に知事不信任決議を敢行し、その優れたる智性を全国に知らしめた長野県議会は、一昨年の統一地方選で改選された後も、相変わらずの状態が続いています。どころか、飛び交うヤジは、回を重ねる毎に激しさ増しているのです。

 地方自治法には、「第129条 普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる」「第132条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会においては、議員は、無礼の言葉を使用し、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない」 と2つの規定が記されています。

 が、少なくとも長野県議会に限っては、有名無実状態。背後の階上に位置する傍聴席からは、ヤジが鮮明には聞き取れず、若しくは居眠りをしている議員諸氏の姿も窺い知ることが出来ないためか、罵詈雑言と形容しても大袈裟ではないヤジを発しているか、或いは舟を漕いでいるか、その何れかの状態が、悲しい哉、大半の“選良”の議場における行動なのです。

 加えて今議会、総務部長の小林公喜氏を副知事職として提案した人事案件を巡り、自由民主党の平野成基議員は議場で、小林部長を「嘘つき呼ばわり」する有様です。「嘘つき」である「根拠」も示さぬ儘、思わせぶりな発言で執拗に小林氏を攻撃し、折からの風邪に加えて心労で小林氏がダウンすると、副議長を務める社会民主党の宮澤宗弘議員は、「確認」の為と称してか、彼の自宅や病院へ突如押し掛け、結果として更に精神的圧迫を与える始末です。

 全国で唯一、如何なる政党からも組合からも、更には補助金交付団体からも推薦、支持、支援を受けていない、即ち組織の後ろ盾を何ら有さぬ、正にウルトラ無党派な知事が、僕です。が、であればこそ、前任の知事と共に「政官業学報」と呼ばれる利権分配・現状追認の不透明なペンタゴンを形成してきた国会議員、県議会議員 、市町村長、業界団体、御用学者、報道機関といったアンシャンレジーム(旧体制)な面々にとっては、後顧の憂い無く、田中康夫はゴーマンだ、と罵詈雑言の限りを尽くせるのです。

 無論、県議や市町村長の中にも、僕の施策を指示する向きは少なからず存在します。が、それ以上に守旧派の危機意識は強く、それが前回御紹介した、僕の講演会を自民党県連が中止に持ち込む、といった暴挙が相次いでいる理由なのでしょう。