出し遅れた証文のようですが、「信州・フレッシュ目安箱」でのやり取りを通じてなされた、浅川の治水安全度1/100における基本高水450m3/sが過大に決定されていて適切な基本高水を決定する必要があるとの主張に関する、田中県政下と村井県政下の担当部署の対応振りを公開したいと思います。行政の継続性を見事に無視した村井県政の方針が改めて明らかになると思います。

以下にまず平成17年5月における「信州・フレッシュ目安箱」での意見と回答を引用します。田中県政においては治水安全度1/100における基本高水450m3/sの見直しもあり得るとする考え方に立ち、長野県高水協議会を発足させる予定であるとし、統計的な考察および治水安全度の決定に関する住民参加にも理解を示した状況を示しています。

　その後平成18年の知事選で村井県政に変わり、行政の継続性を無視し、長野県高水協議会の提言書も検討もせず治水安全度1/100における基本高水は与件であるとして、穴あきダムによる河川整備計画を実行に移している現状です。

別の「村井県政の浅川の基本高水への方針」と合わせてお読み下さい。

　　◆小松好人：村井県政の浅川の基本高水への方針

　・基本高水の再検討について

　・ご意見（17年5月24日受付：Eメール）

　淺川治水対策の基礎となる1/100確率の降雨に対する基本高水については、長野県治水・利水ダム等検討委員会の報告（B案の330ｍ3/sを答申）、淺川部会の報告（450m3/sと330m3/sを併記）があったが、現在は当面の目標として基本高水は450m3/sで検討が進められている。
　4月28日田中知事は脱ダムネットワーク（市村治男共同代表）との面会の折に、基本高水を再検証する検討委員会を年内に立ち上げると発言したと報じられている。脱ダム宣言をした田中知事としては、基本高水が450m3/sであってはダムを建設しなければ淺川の治水対策を取れない状況で、現在苦しい立場にあると思われる。

　田中知事は基本高水450m3/sを認めてダム（現在検討中のダムは常時は水を貯めない穴あきダム）を建設すれば、脱ダム宣言を否定したことになり、一方ダムを建設しなければ通常の河川改修だけでは基本高水450m3/sに対処すことは出来ないのである。この言わばジレンマから脱出するために基本高水の再検証を提案したと受け止めている。

　この検討委員会において種々なる議論がなされると思うが、既に決定している1/100確率の一日当り降雨量130mm、流出解析での実測一日雨量の引き伸ばし率2倍以下は変更出来ないもので、したがってそれに基づく10ケのピーク流量の数値を変更することは出来ないと判断する。

　そのような前提であれば、基本高水の再検証は10ケのピーク流量群のどれを基本高水とするかの検討しか残されていない。既に10ケのピーク流量の最大値から450m3/sが選択され一方既往最大の観点から330m3/sが答申された経緯がある。

　10ケのピーク流量のどれを基本高水するかは、長野県地治水・利水ダム等検討委員会でも議論された通りに選択の問題と位置づけることに問題はない。しかし最大の450m3/sを選択した場合と既往最大の330m3/sを選択した場合、この選択肢は100年確率の降雨があった際の洪水のピーク流量が基本高水を超過する確率に関係し、流域住民の安全に影響を与えることになるのである。

　すでにカバー率なる漠然とした定義で330m3/sはカバー率70%と認識され、カバー率100%とされる基本高水450m3/sに比して安全度が低いと受け止められているが、定性的な議論に終始し定量的な議論には至っていない。安全度が高い低いの言わば “ all or nothing”での議論がなされて来ていると見ている。

　淺川の10ケのピーク流量群を統計的に解析すると貴重な情報が得られることが分かってきた。先ず10ケのピーク流量のサンプルは少ないものの正規分布していることが判明した。正規分布しているならば、基本高水450m3/sの超過確率が計算出来、その結果100年確率の降雨があった際の450m3/s以上のピーク流量が発生する確率が求められるのである。同様にして既往最大から選択された330m3/sの超過確率も求められ、その結果100年確率の降雨があった際の330m3/s以上のピーク流量が発生する確率が求められるのである。

　計算の過程は省略するが、基本高水450m3/sの超過確率は3/100、330m3/sの超過確率は45/100となる。100年確率の降雨があった場合に、基本高水450m3/sの場合は100回の洪水にうち3回は450m3/s以上の洪水になる可能性があり、330m3/sを選択した場合は100回のうちの45回は330m3/s以上の洪水になる可能性があるのである。

　ちなみに10ケのピーク流量の平均値の321m3/sはもっとも発生しやすいピーク流量であるとしてこれを基本高水とすべしとの見解もあるようだが、超過確率は50%であり100年確率の降雨があった際に100回のうちの50回は321m3/s以上の洪水になる可能性があるので問題である。

　基本高水を再検証し周囲からも妥当だと判断されるピーク流量を選択する際にも、その超過確率を求めることは当然である。その超過確率、表現を変えると安全度で妥当だと判断されたピーク流量を基本高水と決定するには、次の二つの選択肢があると思う。

　一つは河川管理者がこの程度の超過確率であるとの前提で現在の基本高水450m3/sを下回るピーク流量を新たな基本高水と決定することである。既に河川砂防技術基準（案）にも「カバー率50%程度以上」とか「一級水系の主要区間を対象とする計画においては、この値が60〜80％程度となっている例が多い」の記述があるが、流出解析で得られるピーク流量群は本来バラツキがあるとの前提がある。ただし超過確率より予想される基本高水以上のピーク流量の発生には、別途超過洪水に対する対策が必要になるのは言うまでもないし、それ以前に新たな基本高水を決定する河川管理者の責任の大きさを十分に認識すべきである。

　更には淺川流域の住民に超過確率の説明を十分に実施し、住民に新たに基本高水を決定させる方法が考えられる。河川行政への住民参加の動きが高まっているおりに、淺川流域協議会のごとき意見集約の活動に留まらずに政策決定にまで活動を広げるのは、田中知事の基本方針にも沿うものだろう。
　現在検討が進められている基本高水450m3/s前提での6案の対策に投資費用が表示されているが、本来ならば基本高水の候補となり得るピーク流量に関して超過確率と投資費用を開示して選択するのが民間の会社などで実行されている設備投資などの基本的考え方であることを付け加えたい。

・回答（17年5月27日回答）

　「基本高水流量の再検証についての提言」は、基本高水に関する的確なご理解とご見識に基づき、理論の展開が整理されており大変敬服いたしました。また、超過確率の観点からの基本高水流量の決定には、超過洪水対策と併せて住民参加が重要とのお考えは高水議論の核心をついていると思いますし、超過確率と投資費用との関係は公共事業におきましても重要な判断基準であります。

　平成９年に通知されました「建設省河川砂防技術基準（案）計画編」は、平成１６年３月３０日付で「国土交通省河川砂防技術基準　計画編」として改定されております。　　　　　　

　改定基準では、近年統計解析が容易になったことなどから、引き伸ばし率上限２倍程度、選定降雨数１０洪水以上といった従前の記述とカバー率の考え方が削除され、地域分布や時間分布から確率論的にハイドログラフを判断する方法が記述されており、統計解析、確率論的な手法で降雨を選定する方向となってきております。

　基本高水の再検証の場の設置につきましては、先般の脱ダムネットワークからの申し入れもさることながら、それ以前からも各流域協議会の会員の皆様方から要望をいただいておりました。要望の趣旨は、「個々の流域協議会での基本高水の議論は深まらない状況にあり棚上げしてきているが流域協議会共通の議題のため県レベルでの住民参加による高水議論の場の設立を」というものです。

　現在県では、各流域協議会から高水検証の参加者を募り、県全体で高水を検証・研究する場を設ける方向で準備を行っているところです。
　なお、改定されました「国土交通省河川砂防技術基準」につきましては国土交通省河川局ホームページに掲載されており、http://www.mlit.go.jp/river/gijutsukijunn/index.html

浅川流域協議会の状況につきましては長野県土木部浅川改良事務所ホームページに掲載しておりますので、ご覧いただければと思います。http://www.pref.nagano.jp/xdoboku/asakawa/

【問い合わせ先：経営戦略局 治水・利水対策推進チーム
　電話026-235-7255　メールchisui-risui@pref.nagano.jp】