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国会 東電福島原発
事故調査委員会
ヒヤリングに出席して@
青山貞一
東京都市大学大学院
掲載月日:2012年1月25日、27日、28日拡充
version 1.3
 独立系メディア E−wave
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 私が呼ばれたWGは第二WG(事故による影響被害)です。 

 昨日は、第一WGで東京電力の関係者ヒヤリングを行っており、開始が少し遅れましたが、午後5時40分にはじまりました。第二WGメンバーと事務局員らの前で質疑を含め、最終的に3時間弱のヒヤリング(青山のレクチャーと調査員との質疑)が行われました。

 私からは、合計244枚のパワーポイントを使い

 福島第一原発事故による汚染物質の拡散と避難
(1)自己紹介  
(2)汚染物質拡散シミュレーションの基礎(前提)
(3)福島原発事故に伴う放射性物質の拡散(事例)
(4)緊急時避難情報提供システム(提案)
(5)汚染物質の人間への到達経路(説明)

と題し、

(1)昨年3月12日から3月22日までの放射性物質の福島県内及び周辺自治体への移流、拡散、沈降の状況、

(2)その後、都合6回行った福島原発事故に起因する放射線、放射能に関する現地調査の結果、

(3)福島県内各所(福島大学金川キャンパス、飯舘村長泥地区など)を対象とした積算放射線量(外部被曝)の推計シミュレーション結果、

(4)放射性物質に汚染された災害廃棄物(がれき)の処理のあり方、

(5)さらに、原発事故時に原発直近の住民に避難情報をいかにして伝えるか、そのための放射性物資の拡散シミュレーションと連動した情報システムのあり方、

(6)最後に汚染物質が人間に到達する経路

などについてお話しし、質疑、議論を行いました。

◆(1)昨年3月12日から3月22日までの放射性物質の
    福島県内及び周辺自治体への移流、拡散、沈降の状況

 @3次元流体シミュレーションの基礎、
 A同モデルと使用した過去の事例調査結果、
 B福島から東京までの詳細地形データ、
 C事故時から3月下旬までの1時間単位の気象データ、
 D国、県などの放射線モニタリングポイントデータ、
 E3月12日から3月22日までの間での1時間単位の
   3次元流体シミュレーション結果

 私たちの3次元流体シミュレーションモデルはSPEEDIとほぼ同じモデルの構造をもっており、過去、発電所、焼却場、道路などから周辺地域に拡散する大気汚染物質の拡散シミュレーションに使ってきました。

 これらは風洞実験設備で検証した上でコンピュータシミュレーションを行っていますが、私たちの場合、それらの計算は中央演算装置(CPU)の本体価格が2万円以下のパソコンを数台使って行っています。本体価格が1台5万円から10万円のBTOパソコンです。

 まず、地域における放射性物質の移流、拡散の影響をシミュレーションする際の主な要因には以下のものがあります。


出典:青山貞一 

参考
◆青山貞一:大気汚染に関する予測・評価技術(実務編)
 
 環境アセスメント学会誌 3(2):00-00(2005

 ガス状、粒子状の放射性物質の移流、拡散シミュレーションを行うためには、以下のいずれかのモデルが必要となります。


出典:青山貞一 
 
 上記のモデルのうち、@とBはモデルの構造上、地形を考慮することができず、福島県のように地形が複雑な地域におけるシミュレーションには不適となります。

 私たちが使用したのは、Aの数値計算モデル(3次元流体モデル)です。

 @では地形が考慮できず、Cでは途方もない費用がかかる。Dは未だモデル開発が未了であるからです。

 関連資料からSPEEDIが用いているシミュレーションモデルを調べたところ、私たちと同じAの数値計算モデルであることが分かっています。

 SPEEDIでは数10億円もするスパコンで、シミュレーション計算をしているようですが、言い方に語弊はあるかも知れませんが「頭」を使えば、何も超高額のスパコンなど使わずに事故時の情報提供を行うことは可能です。ちなみに私たちは、高速パソコンで十分対応できています。

 これは並列処理のプログラムなどハードウェアではなく、ソフトウエアのプログラミングはアルゴリズムによるものです。

参考
◆青山貞一・鷹取敦:最新CPUの倍精度浮動小数点演算性能を検証する
◆青山貞一:BTO「スーパーパソコン」を駆使する時代の到来 
◆青山貞一: 科学技術振興予算を増額?〜パソコンでSPEEDI@
◆青山貞一: 科学技術振興予算を増額?〜パソコンでSPEEDIA
◆青山貞一: 科学技術振興予算を増額?〜パソコンでSPEEDIB

 放射性物質の移流、拡散シミュレーションでは、@発生源の強度データ、A気象データ、B地形データなどが不可欠です。

 風向、風速、降雨量などの気象データは、通常、各地に設置されている気象台、測候所、アメダスなどのデータを用います。最低1時間単位、できれば10分単位の風向、風速、降雨量が必要となります。

 以下は福島県内の気象台、測候所、アメダスの設置位置を示しています。



 下は福島県から東京に至る主なアメダス基地名を示しています。



 次に、数値計算モデル(3次元流体モデル)では、地形要因や温度要因を詳細に考慮できますが、今回は計算量の関係で温度要因は捨象しています。

 地形については、私たちは国土地理院の標高データを活用し、以下のような地形の立体モデルをあらかじめ構築しています。



出典:青山貞一 

 以下は福島原発から浪江町、飯舘村、福島市までの地形断面図の例です。


出典:青山貞一 

 以下は福島原発から郡山市、会津若松市までの地形断面図の例です。


出典:青山貞一 

 2次元、3次元の流体シミュレーションモデルと上記のデータを使うことにより、以下にあるように山や谷による拡散の影響が考慮され、より現実に近いシミュレーションが可能となります。



出典:青山貞一 

 以下では発生源の風下に山がある場合、その高さの違いによる拡散の仕方がどう変わるかについてシミュレーションしてみた例を示しています。


出典:青山貞一 

 以下は、山間地のシミュレーション例です。

 福島県内での拡散を分析する際、これら山間地における汚染状況はきわめて重要なデータを提供してくれます。


出典:青山貞一 

 緊急時の放射性物質の拡散シミュレーションは、最低でも1時間単位、できれば10分単位で地形、風向、風速、大気安定度、降雨などを考慮して行うことが望ましいと考えます。

 そのためには超高速のコンピュータが不可欠と思われがちですが、上述したように、頭を使えば同じことが高速のパソコンでも可能となります。

 以下はMP(モニタリングポイント)における10分単位の空間放射線量の実測データです。



出典:青山貞一 


出典:青山貞一 

 上記をふまえた3月12日から22日までの福島県内から東京までの放射性物質汚染の時系列的、構造的解析 

 ポイントは、3月12日〜3月22日の間にその後の各地の放射線量の大勢が決まっていることです。その理由は、福島第一原発事故で放射される粒子状、ガス状の放射性物質が風で各地に順次、移流、拡散されるとともに、降雨によって地面にフォールアウト(落ちるだけでなく放射性物質が「焼き付けられる」)することにあります。

 降雨がなければ、場合により放射性物質はある地域を通過することもありますが、その時雨や雪が降っていると地面に落ち、その後、落ちた放射性物質が地上に向かって放射を開始することになります。
 
 その観点からすると、3月12日〜3月22日の間に福島県の原発直近市町村だけでなく、浜通り、中通りの住民がどこにいたか、雨にさらされなかったかなどが被曝の積算線量上大きな問題となります。


 3月15日は、一旦北風系で福島原発から東京などに向かい放射性物質が拡散しますが、その後、福島原発から風向によって白河市→郡山市→二本松市→福島市に放射性物質が拡散しています。そのとき白河市から福島市までの浜通りで雨が降っており、それにより放射性物質が中通りにフォールアウトしています。
 
 その後、福島原発から飯舘村方面に向かって吹き付ける風で拡散し、雨でフォールアウトしたことで飯舘村が高濃度となっていることが分かりました。



出典:青山貞一 

 原発直近市町村における住民避難は、めまぐるしく変わる風向のなかで、たとえば10分単位のSPEEDIからの汚染地図でもない限り、どちらに向かって避難すれば良いかは分からなかったはずです。

 汚染が拡散するプリュームと主軸方向と直角の方向に逃げるのが原則としても、それが時間とともに大きく変化していたこともあり、思ったほど避難は容易ではありません。

 私は後半の提案の中で、2週間ほどの食料を用意した地下シェルターのようなものを原発直近の各地に設置し、そこに一旦避難することも提案しました。3月15日前後はなまじ避難しても、避難先が高濃度汚染となっていたという例がたくさんあったからです。


出典:青山貞一 


出典:青山貞一 


出典:青山貞一 

 私たちのシミュレーションでは、福島県内だけでなく、首都圏までの広域シミュレーションも当初から行っていました。なぜ、千葉県の柏、松戸、東京の金町浄水場などで放射線レベル、放射能レベルが高いのかも以下の結果を見ると分かります。おそらく地形による影響です。



出典:青山貞一 


出典:青山貞一 


つづく