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女川原発現地視察+議論
敢行記(5)
青山貞一
東京都市大学、環境総合研究所
環境行政改革フォーラム
掲載月日:2012年10月10日
 独立系メディア E−wave Tokyo

無断転載禁

@はじめにー事前準備ー
A敷地入構とレクチャー
B福島第一原発との違い
   C今後の取り組み
D東北電力vs東京電力

●女川原発と福島原発の決定的違い(2)

 現地視察終了後、再度、事務棟に移り、質疑討議が行われた。

 青山が東北電力幹部に現地視察と議論を依頼した際の最大のポイントは、東京電力福島第一原発より震源に近い東北電力女川原発が、なぜほとんど無傷で残ったのか、その理由を知ることにあった。

 先に報告してきたように、津波の推定高を福島第一では5.7mとし、女川の場合は9mとして敷地の高さなどを福島第一では10m、女川では14.3m(実際には沈下があり13.8m)としてきた経緯があり、3.11時の実際の津波の高さ13mとの関連で福島第一が地震の後、津波によって電源を喪失し、甚大な事故につながったことは事実である。

 以下を見ると、その経緯がよく分かる。

 女川原発の場合、昭和43年以来、学識経験者による社内委員会では、過去の明治三陸津波、昭和三陸津波、貞観津波、慶長津波などを考慮し、想定津波の高さは3m程度としていた。

 東北電力では、上記の検討委員会の意見を踏まえ、敷地の高さを14.8mとした。委員会の意見を踏まえたと言いながら、結果としておよそ5倍の高さに決定したことについては、当時の経営者及び技術担当者の意思決定は大変な英断であったとして、現在も発電所内で評価されている。さらにその後、1号機の営業運転開始後も、その時々の知見を随時収集しながら、津波に対する安全性を確認してきたという。

 2号機の設置許可時(昭和62年4月)には、想定津波を3mから9.1mとし、9.7mまで法面を保護している。さらに貞観津波の地質学的影響調査の結果、敷地面を14.8mとすることにしたという。


東北電力女川原子力発電所概要(パワーポイント資料3−A)

 では、福島第一原発ではどうかといえば、先に示したように、津波の想定水位を5.7m、敷地の高さを10mとしており、3.11の津波約13mにより、完全に敷地内が浸水し、電源を完全に喪失している。


東北電力女川原子力発電所概要(パワーポイント資料3−@)

 ここで不思議に感ずるのは、女川原発の一号炉の設置時に、学識経験者が津波の想定高を3mとしたのに対し、東北電力が敷地高を14.8mと決定したことである。この14.8mという敷地高が、結果として3.11の津波を受け止めることになったことは特筆すべきことである。

 学識経験者の3mの推定をなぜ、東北電力は14.8mと最終的に経営判断したかである。

 3.11では同じ津波高13mが女川(東北電力)と福島第一(東京電力)を襲ったが、被害の状況は両者で顕著に異なっていた。その背景には、東北電力が有識者や省庁による津波高の想定(3m)を情報として得ていたにも拘わらず、独自の判断として敷地高を14.8mと決定したことがある。

 もし、津波高を3mとしていたら、さらに福島第一のように5.7mとしていたら、敷地高を14.8mとはせず、せいぜい福島第一のように10m程度としていたにちがいなく、3.11における約13mの津波高によって、福島原発事故並の甚大な被害が起きていたことになる。

 つまり、東北電力は社内に設置した学識経験者が想定した津波の高さである3mをいわば無視し、独自に敷地の高さを14.8mとしたことになる。

 これについて、当日、青山は東北電力側に当時の議事録はあるのかどうかを聞いたが、東北電力は相当昔(35−45年前)のことなので、残っていないという趣旨の回答をしていた。

 一言で言えば、東北電力は、学識経験者の想定を鵜呑みにせず、独自に過去の地震、津波の歴史に学び、経営判断し敷地の高さなどを決めた事実が分かった。これはすごいことである。

 一方、以下は、東京電力が3.11以前に15m超の津波高を試算しながら、「想定外」として、現実には何ら対策を取ってこなかったという新聞記事である。

◆東電、15m超の津波も予測…想定外主張崩れる
福島原発

 東京電力が東日本大震災の前に、福島第一原子力発電所に従来の想定を上回る10メートル以上の津波が到来する可能性があると2008年に試算していたことが政府の事故調査・検証委員会で明らかになった問題で、東電は同じ試算で高さ15メートルを超える津波の遡上そじょうを予測していたことが24日わかった。

 大震災で同原発は、14〜15メートルの津波に襲われたが、「想定外の津波」としてきた東電の主張は、15メートル超の遡上高の試算が明らかになったことで崩れた。東電は試算結果を津波対策強化に生かさず、大震災4日前の今年3月7日に経済産業省原子力安全・保安院に対し報告していた。

 東電によると、国の地震調査研究推進本部が02年7月に新たな地震の発生確率などを公表したのを受け、東電は、08年にマグニチュード(M)8・3の明治三陸地震(1896年)規模の地震が、福島県沖で起きたと仮定して、福島第一と第二の両原発に到達する津波の高さを試算した。

 第一原発の取水口付近で高さ8・4〜10・2メートルの津波が襲来。津波は陸上をかけ上がり、1〜4号機で津波の遡上した高さは海面から15・7メートル、同5・6号機で高さ13・7メートルに達すると試算した。

(2011年8月25日10時31分 読売新聞) 

◆大津波、2年前に危険指摘 東電、想定に入れず被災

 東日本大震災で大津波が直撃した東京電力福島第1原発(福島県)をめぐり、2009年の審議会で、平安時代の869年に起きた貞観津波の痕跡を調査した研究者が、同原発を大津波が襲う危険性を指摘していたことが26日、分かった。

 東電側は「十分な情報がない」として地震想定の引き上げに難色を示し、設計上は耐震性に余裕があると主張。津波想定は先送りされ、地震想定も変更されなかった。この時点で非常用電源など設備を改修していれば原発事故は防げた可能性があり、東電の主張を是認した国の姿勢も厳しく問われそうだ。

 危険性を指摘した独立行政法人「産業技術総合研究所」の岡村行信活断層・地震研究センター長は「原発の安全性は十分な余裕を持つべきだ。不確定な部分は考慮しないという姿勢はおかしい」としている。

 06年改定の国の原発耐震指針は、極めてまれに起こる大津波に耐えられるよう求めるなど大幅に内容を改めた。東電は、新指針に基づき福島第1原発の耐震設計の目安となる基準地震動を引き上げると経済産業省原子力安全・保安院に報告。保安院は総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会で研究者らに内容の検討を求めた。

 委員の岡村氏らは04年ごろから、宮城県などで過去の津波が残した地中の土砂を調査。貞観地震の津波が、少なくとも宮城県石巻市から福島第1原発近くの福島県浪江町まで分布していることを確認した。海岸から土砂が最大で内陸3〜4キロまで入り込んでいた。

 貞観津波についての研究は1990年代から東北大などが実施。岡村氏らの研究チームは、津波を伴う地震が500〜1000年間隔で発生してきたとしているが、震源断層の規模や形状、繰り返し期間をめぐっては研究者間でも異論がある。

◆貞観津波(2011年12月18日)
平安時代の869(貞観11)年の地震で起きた津波。歴史書「日本三代実録」で、広い範囲が浸水して城郭などが壊れ、多数が溺死したと記録されている。近年、仙台平野の堆積物の調査や歴史資料の研究で、東日本大震災クラスの巨大津波だったことが分かってきた。東京電力は2008年に、明治三陸地震の津波と貞観津波がそれぞれ福島県沖で発生したと仮定した津波評価を実施。いずれも福島第1原発に想定を大幅に超える津波が来るとの結果を得たが、具体的対策にはつながらなかった。

2011/03/26 22:48 【共同通信】

 結局、東北電力は、いわゆる学識経験者の想定の5倍近くの高さ(14.8m)に敷地面を設計し、3.11で甚大な影響、被害を免れたが、東京電力は自ら15m超の津波の遡上高を試算しながら、想定外としてまったく何ら対応を取らず、世界史的に見て甚大な原発事故を起こしたことになる。

 周知のように、東京電力には過去58人もの経済産業省の官僚が幹部に天下っていた。日本の官僚の最大の特徴は、無謬性である。無謬性は、自分たちのしたことに誤りはないとすることだ。誤りがあっても修正すれば甚大な事故に至らぬこともある。

 しかし、東電の体質はそれら官僚により汚染され、いつしか企業幹部の体質も官僚体質に染まっていたと言えるだろう。

 同時に、官僚はいわゆる学識経験者を自分たちの手のひらで操り、自分たちの思い描いたように結論づけてきた。しかし、今回の現地視察と議論でいみじくも分かったことは、東北電力はそれら学識経験者の想定より、自分たちの歴史の教訓を生かした独自調査結果により、敷地高を決めたことで、歴史的災難を未然に回避することができたことである。

 今回の現地調査だけで、上記の結論を導き出すのは無理があるだろう。また東北電力側が私の質問や仮説に今後、過去の議事録などの資料をもとにどう対応するかも注目に値するものである。

 いずれにしても、震源地に近い女川原発が3.11で甚大な被害を出さず、震源地から遠い福島第一原発が歴史的大災害、被害となった背景には、企業組織、経営陣などが、官僚的思考、権威主義に陥らず、歴史的教訓を生かした独自の判断があると思える。
 
 この特集おわり