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佐賀地裁の
諫早湾潮受堤防開放判決と
環境総合研究所の研究


青山貞一

掲載月日:2008年6月29日


 長崎県諫早湾干拓事業に関連し、潮受け堤防を設置したことにより漁業に甚大な影響が出たとして、潮受け堤防の撤去と排水門常時開門を請求した「諫早湾干拓訴訟」で、佐賀地裁は2008年6月27日、諫早湾干拓の開門(3年後から開門して、5年間は開門を継続せよ)を求める判決を下した。

 ところで、株式会社環境総合研究所の青山貞一、池田こみち、鷹取敦は、問題の諫早湾干拓事業の一環として建設された潮受け堤防の閉め切りによって、水質がどう変化したかについてシミュレーションを2000年に開始した。

 予備的調査は、2000年3月に調査を開始し2000年4月に完了し、東京都豊島区池袋の豊島公会堂で開催された諫早湾問題のシンポジウムで公表した。

 以下は環境総合研究所の研究成果を伝える東京新聞の記事である。

●東京新聞「 調整池の水質悪化、漁業被害?も」(2000/1/14)

東京新聞  2000414


 以下は、その後の研究を含めた環境総合研究所の水質変化の解析、評価である。

諌早湾調整池閉め切り前後の水質変化の解析・評価について(2001/2/6)

●諫早湾調整地環境モニタリング調査結果の暫定的解析と評価について(2001/1/9)

 さらに、2001年1月に諫早湾潮受け堤防の水門を常時開放した場合、潮流がどう変わるかについて、一大シミュレーションを敢行、3月にその内容を公表した。

 シミュレーションによれば、現在2つある水門を常時開放すれば、もとの潮流が70%以上戻るという結果がでた。

 以下は、私たちのシミュレーション研究の全容(詳細)である。
     http://www.eritokyo.jp/independent/gulf/index.html

 この研究には、約3ヶ月を費やし、100%ボランティアによって実施した。

 環境総合研究所のシミュレーション結果は、当時、朝日新聞の一面にカラーで掲載され、当時、開催されていた国の諫早湾関連委員会にも大きな影響を与えることとなった。

 おそらく、佐賀地裁判決にあるように5年間開門を継続すれば、私たちのシミュレーション結果の妥当性が確かめられるだろう。

 国(農水省)は真摯に佐賀地裁の判決を受け止めるべきだ!


朝日新聞 2001年3月13日(実物はカラー)


諫早湾干拓訴訟

 2000年12月に有明海が記録的なノリ凶作に見舞われたのを機に、沿岸漁業者ら416人が02年11月、国を相手に国営諫早湾干拓事業の工事差し止めなどを求めて提訴、工事差し止めの仮処分も申請した。

 原告は最終的に2503人(うち漁業者約1200人)。

 事業の進ちょくに伴い、原告側は06年11月、請求の趣旨を工事差し止めから「堤防撤去」と「排水門常時開門(予備的請求)」に変更した。 

 同事業は1989年に着工し、2007年11月に完工。全長約7キロの潮受け堤防で湾奥部を閉め切り、干拓農地(672ヘクタール)を造成、農業用水確保と防災強化を目的に調整池(2600ヘクタール)を設けた。総事業費は約2533億円。

出典:西日本新聞


●国に排水門開放命じる=諫早湾干拓訴訟
時事通信 2008年06月27日13時07分

 国営諫早湾干拓事業をめぐり、長崎、佐賀県など有明海沿岸4県の漁業者ら約2500人が国に対し、潮受け堤防の撤去などを求めた訴訟の判決が27日、佐賀地裁であり、神山隆一裁判長は事業による漁業環境の悪化を認めた上で、環境への影響調査が必要として、国に5年間、排水門の開放を命じた。堤防の撤去については棄却した。

 干拓事業は3月末に完了したが、判決は公共事業の見直し論議に拍車を掛けそうだ。

 裁判長は同事業について、「漁業行使権の侵害に対して、優越する公共性ないし公益上の必要性があるとは言い難い」とした。国に対し「(開門期間中に)速やかに中長期の開門調査を実施し、その結果に基づき適切な施策が講じられることを願ってやまない」と注文を付けた。排水門開放については、必要な防災工事期間に要する3年間の猶予内に開始し、影響調査を求めた。

 堤防閉め切りと湾内の環境変化の因果関係について、裁判長は「相当程度の蓋然(がいぜん)性は立証されている」とし、原告らにこれ以上の立証を求めることは「不可能を強いる」と強調。干拓事業は、湾内および周辺の漁船漁業、アサリ採取、養殖漁業の環境を悪化させているとした。国側は、漁獲量減少は事業以前からの傾向で「閉め切りの影響による被害の発生は認められない」と反論していた。一方、漁業者側が排水門の常時開放を求めた仮処分申請について、地裁は同日、「開門を認めなければ漁業者らに著しい損害や急迫の危険があるとはいえない」として、申し立てを却下した。

 原告らは2002年11月に提訴。このうち、干拓地内の前面堤防工事差し止めの仮処分申請について、佐賀地裁は04年8月に差し止めの仮処分を決定し、同工事は一事中断されたが、福岡高裁は05年5月に決定を取り消し、工事は再開され、今年3月末に完了した。(了)

WWFジャパン声明

 WWFジャパンは,6月27日に,佐賀地方裁判所が,諫早干拓潮受堤防水門の開放を命じる判決を出したことを高く評価し,歓迎します.

1. 裁判所が,漁民や科学者たちの証言をもとに,諫早湾内の漁業被害が農水省の諫早湾干拓事業によって引き起こされたという因果関係を認定し,潮受け堤防の排水門の開放を命じたことは,今後,諫早湾および有明海の自然環境の再生,漁場の回復を目指す上で,とても重要なことであり,高く評価されます.

2. 潮受け堤防の閉め切りによって,諫早湾,有明海の潮流・潮汐が変化し,一方では,調整池から汚染水が排出されつづけ,赤潮や貧酸素水発生の原因となり,漁業に悪影響を与えていることは,多くの研究者が指摘しているところです.

3. 今回の判決は,水門を開放し,海水を導入して調整池内の水質を改善し,諫早湾,有明海の漁場を再生するにはいい機会であると言えます.干拓農地の農業用水については,悪化して環境基準を満たさない調整池水を使うよりは,実際にある代替農業用水を使うほうが合理的だと考えられます.また,将来にわたって調整池の水質改善のために巨額の税金を使うべきではありません.

4. 諫早湾干拓事業および「有明海異変」と呼ばれる漁業不振と自然環境の悪化は,現場での自然環境保全の担い手である漁業者の生活を脅かすだけでなく,農業と漁業の間,因果関係を巡る研究者の間,市民と行政,政党間の政治的な対立など,大きな社会的不協和音へと続いています.このような負の連鎖を断ち切るための大きな決断として,今回の佐賀地裁の判決は,重要な意味を持っていると考えられます.

5. 農水省は,今回の判決を重く受け止め,判決に従って水門開放の準備を進めるべきであり,控訴すべきではありません.水門の開放によって,諫早湾,有明海の自然環境を,その再生に向かって大きく前進させるとともに,漁場環境の改善と漁業の振興,安全な農業用水の確保を図り,漁業と農業の両立を目指すという政治的な判断が求められます.