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学術の世界も「格差社会」(3)
〜国際ダイオキシン会議:
環境省、笑止の自画自賛〜

青山貞一

武藏工業大学大学院教授
株式会社環境総合研究所所長

掲載日:2007年9月8日



9月7日のバンケットにて。左から宮田秀明摂南大学教授、
池田こみち環境総合研究所副所長、テリー氏の奥様、
加藤修一参議院議員、テリー氏(カナダ・マクサム社幹部)
加藤議員と青山、池田はダイオキシン対策特別措置法を議員立法で
しかけ成立させて仲間だ。  
 ホテルオークラの国際会議のバンケットにて  
撮影:鷹取敦


左からテリー氏の奥様、池田、青山、テリー氏。テリーが勤務するマクサム社
はカナダ随一、北米第二の化学物質分析機関。環境総合研究所のために
HRGC/HRMSを導入するなど、この8年、ダイオキシンはじめ有害物質の
分析で日本社会をそしてERIを支援してくれている。
  ホテルオークラにて  撮影:鷹取敦



 ところで、私たち環境総合研究所が毎年英論文を出しているセッション、環境レベル(Environmental Level)の冒頭で発表に立った環境省の竹本氏は、「日本ではこれだけダイオキシン排出量が減った」、という論文とはいえない、いうなれば環境省の「広報」的な発表をしたに過ぎない。以下はそのタイトル。
 
Monday 3 September 2007
O-001 JAPAN'S EXPERIENCE TO REDUCE DIOXINS (PCDDs, PCDFs, AND CO-PLANAR PCBs)  EMITTED INTO THE ENVIRONMENT Takemoto K
 http://www.dioxin2007.org/session/001.html

 「自画自賛」にもならない内容だ。

 海外から来ている研究者から「またか!」という失笑を買っていた。

 そもそも、やっとのことで日本でダイオキシン排ガスなどの法的規制を可能としたのは、上の写真にいる加藤修一参議院議員、山下栄一参議院議員と青山、池田が1998年9月に仕掛け、1999年7月に制定させた特別措置法に他ならない。そこでは環境省は蚊帳の外である。

 当時、欧米で当たり前となっていたダイオキシン排ガス規制だが、所沢ダイオキシン騒動以前、環境省は何もしていないも同然であった。逆に我々や市民団体の活動をことごとくじゃましてきたとさえ言える。たとえば、実行委員となっているS氏(当時厚生省)など、その典型である。

 1998年秋から1999年春まで、青山、池田は参議院発のダイオキシン対策特別措置法を制定させるため、数10回にわたり議員会館に足を運んだ。

 青山は1999年3月、参議院予算委員会で参考人となり、法規制の必要性を力説した。たまたまその直前に、所沢ダイオキシン騒動がおきたこともあり、自民党もやむなく法案に賛成せざるを得なくなったのである。所沢ダイオキシン騒動は、テレビ局と環境総研を農民が名誉毀損で訴える民事訴訟にまで発展した。

 本来、国、自治体が対応すべきことをせず(不作為)、思いあまった農民が環境総研にほうれん草、茶などの分析を依頼し、その結果が公表されたことがきっかけだが、このときも環境省など省庁は、ダイオキシン汚染はないかのごとくの対応であった。裁判では、環境総研はさいたま地裁、東京高裁、最高裁と勝ち進み、完全勝訴となった。

 以下は、所沢ダイオキシン裁判に関するブログ

◆青山貞一:所沢ダイオキシン裁判、環境総合研究所の勝訴確定
 (2003.6.26)について

 
◆青山貞一:所沢ダイオキシン問題の本質について(1)
 
◆青山貞一:所沢ダイオキシン問題の本質について(2)

  いずれにしてもその間、環境省(当時は環境庁)は不作為を決め込んでいただけである。

 ダイオキシン規制の議員立法これについては、以下を参照して欲しい。

◆青山貞一:与野党逆転ではじまる民主政治の夜明け@ 参院発の法案 

1999年3月、参議院予算委でダイオキシン法規制の必要性を力説する青山貞一。

 竹本氏は発表の中で日本が97年比で95%もダイオキシンの排出量を減らし、環境基準を大幅に達成してきた経験は諸外国にも役立つはずであるとしているが、とんでもない勘違いである。 途上国はもとより、先進国といえども、日本のような莫大な税金をつぎ込んで焼却炉メーカーを潤すようなことなど、到底参考に成るはずもないだろう。

 これを井の中の蛙とでも言うのだろう。グローバル化のなかでの格差の進行をわかっていない。大気汚染対策で日本の脱硫、脱硝装置をアジアに輸出すれば、という考えと同じである。

 以前、やはり国際ダイオキシン会議で、環境省系の研究者がほぼ同じ趣旨の発表を会議の冒頭で行い、友人の欧米の研究者の失笑を買っていた。

 日本では1999年の所沢ダイオキシン騒動以降、以下に示すように、毎年数1000億円になんなんとする巨額の国庫補助、特別交付税を、鉄鋼、造船、金属などなどの重厚長大メーカーと連携し、世界に類例のない巨額な国費、公費を投入し、古い焼却炉を新たな広域・大型の焼却炉や溶融炉に代えさせてきた。


図1 日本におけるゴミ焼却・溶融施設への国庫補助等の推移(青山)

 これについては、以下の論文で実証している。

 出典:青山貞一:廃棄物焼却主義の実証的研究
     〜財政面からのアプローチ〜、
     武蔵工大環境情報学部紀要 第5号

 しかも、私たち環境総合研究所の調査では、処理能力の規模にかかわらず、建設費は1トンあたり永年、約5000万円(表1参照)と、まさに談合価格、おそらく官製談合価格だろう。

 ダイオキシン対策を利用して、結果的に巨額な国費を一部の重厚長大メーカーに環境省が流してきたことになる。


 出典:前掲

 表4にあるプランド研究所そして私たちの国際価格現地調査によれば、日本での焼却炉の1トン当たりの建設費は、たとえば国際競争入札をしている台湾の同系統の炉の2倍から3倍も高額であることが分かっている。

 これについては、現在参議院、元長野県知事の田中康夫氏がことあるたびに公言しているが、日本の異常な焼却主義がかつては世界随一のダイオキシン大国をもたらし、その後は世界一の環境系公共事業大国をもたらしている。



 日本では、1999年の所沢ダイオキシン騒動が起こるまで、まったく焼却炉排ガスのダイオキシン対策は無いも同然、その後は、重厚長大メーカーに特需をもたらすほど国費を湯水に使って、ゴミを減らさず、技術的に、より高温で燃やす、ダイオキシンが出にくいように高度な排ガス処理施設を取り付けることに邁進してきた。

 所沢ダイオキシン騒動以降、不備ながらも議員立法により規制法が制定され、旧厚生省そして環境省主導のダイオキシン対策が始まる。焼却主義による環境リスクをダイオキシン問題に集中させ、他の化学物質問題に目をつぶってきたツケは大きい。

 周知のように、日本はあの米国よりゴミを燃やす量が多い。

 しかも、来年からは東京など大都市でプラスチック廃棄物も焼却させりよう、なんと廃棄物処理法を実質改正させてまで、環境省主導で行う。世界の流れに逆行することを環境省主導で行うのだ。おそらく一端下がった大気中のダイオキシン濃度は再度高まるだろう。

 ゴミ焼却主義を前提とし、巨額の税金を使いダイオキシン対策をする日本の政策は、明らかに間違いである。

 事実、毎年、スイスのダボスで開かれる「ダボス会議」で発表される世界各国の環境保全力 ランキングで、日本は2002年、何と第62位だった。その後少し改善したものの50位以下である。

◆池田こみち:日本の環境保全力は世界の62位

 フィンランド、スウェーデンなどスカンジナビアやカナダ勢が1〜10位を占めるなか、なぜ、日本が50〜60位なのか? それは、日本のEnd of Pipe的な政策、すなわち対症療法、事後処理的な政策は、環境保全力からみて、クールでないからだ。

 公共事業は何も土木だけでない、焼却炉など環境系公共事業も、間違いなく日本の財政を悪化させている。今や環境省は規制と焼却炉建設促進という矛盾した2つのことを同じ役所でやっている。


つづく