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<沖縄県知事選>
全野党共闘の敗因と
問われる今後の行方(2)


青山貞一

2006年11月22日



青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方1
青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方
青山貞一:沖縄知事選、全野党共闘の敗因と問われる今後の行方

 沖縄県の失業率は8%。確かに都道府県で最高レベルにある。

 たとえばよく引き合いに出される雇用統計指標である高卒の有効求人倍率でみると、沖縄県は0.21と全国で最低の水準にある。

 ちなみに東京は4.41、大阪が2.25である。これに対し、1.0未満の都道府県(実際は道県)は、なんと25もあり、沖縄県は先に示したように0.21に過ぎない。東京の20分の1である。

 以下は完全失業率及び全有効求人倍率である。2003年時点で沖縄県は完全失業率が7.8%(全国平均は5.3%)、有効求人倍率が0.36%(全国平均は0.64%)となっている。


県内雇用情勢d。ただし2003年度まで。出典:琉球銀行経済調査室

 ※都道府県別のここ数年の失業率グラフ

 沖縄では、職のない若者が県外に流出し、沖縄本島はまだしもそれ以外の島々の過疎化はさらに急激に進んでいる。

 これらが今回の沖縄知事選にどう反映しているかであるが、選挙に関連し実施された県内世論調査の結果をみると、県民の知事選への関心は「経済振興」が52%、「米軍基地問題」は26%となっており、現実を見ると米軍基地県としての昔の面影はない。

 結局知事選での主要テーマは、「経済」と「基地」にあったわけで、県民が知事選で重視したのは「雇用確保」や「経済振興」に間違いないことになる。

...

 ところで、 「雇用確保」や「経済振興」を最重視した沖縄知事選の今後の最大の課題が何かと言えば、それは仲井真氏が沖縄県知事になってその目的が果たせるかということであろう。

 というのも、前知事の稲嶺氏が沖縄の経済と雇用を良くする、改善したいとして知事に当選したのだが、冒頭で述べた巨大な経済格差はその稲嶺前知事が残した<成果>であるからである。

 稲嶺前知事は、経済と雇用を改善すると言って知事になりながら、結果的にまったく改善できなかったからである。政治は結果であるとするなら、稲嶺氏は公約を破ったことになる。しかも、歴史的に日本一の規模となっている米軍基地の返上という永年の県民の願望にについても、稲嶺氏は羊頭狗肉的な対応しかできなかった。

 知事に当選した仲井真氏は、県民の支持率が高い稲嶺前知事の後継候補を強調、稲嶺県政の継承・発展をアピールしていた。そもそも仲井真氏は稲嶺前知事の直系と言われる人であり、稲峰前知事も自公が支持していたのである。

 仲井真氏いわく、「沖縄の真の自立は経済の自立なくして出来ない。人々が幸せに暮らせる基盤をつくるために知事の仕事をさせてほしい」と雇用対策や経済振興を強く訴えたのである。
 
 では稲嶺後継を選挙で公言してきた仲井真氏が沖縄県知事になったからと言って、果たしてその公約が達成できるか、が問われる。よほどのことがなければ稲峰氏から仲井真氏に知事が代わったからといって沖縄県の経済や雇用が良くなる保証などないからである。

 そこでは沖縄県民が永年の要望である米軍基地の返上してまで背水の陣で要望してきた経済や雇用の改善を仲井真氏が敢行できる見通しやまして保証はほとんどないからである。

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 私はその昔(2000年7月)、普天間基地の移転先と目されていた名護市辺野古にある米軍キャンプシュワブの沖に環境調査にでかけたことがある。沖縄県の住民団体からの依頼で、将来、普天間基地がキャンプシュワブ沖に移転されることになった場合に備え、あらかじめ環境影響の基礎調査をして欲しいという要望からである。

 地元の漁師さんの船で辺野古の沖、キャンプシュワブがよく見える湾で、琉球大学の先生らが海底に潜り、キャンプシュワブ基地からパイプで湾内に排出する汚水の出口近くの水や底質(泥の一種)を採取し、それを東京に持ち帰り分析、評価するのが私が依頼された仕事であった。

 ■キャンプシュワブ沖の海底排水口を調査
  沖縄タイムス2000年6月27日 朝刊 1・33面

 この現地調査は2000年7月21日から3日間、九州・沖縄サミット首脳会合として開催された「沖縄サミット」の直前である。このときの首相は森首相だった。沖縄県は「沖縄サミット開催」をひとつそして大きな契機として沖縄の経済振興に踏み出した。

 稲嶺氏(前知事)は、1998年12月より沖縄県知事を2期6年、今年の11月まで勤めたわけだが、その稲嶺氏は沖縄県本部町出身。父は、琉球石油(現・りゅうせき)創業者で元参議院議員の故・稲嶺一郎である。

 稲嶺氏の略歴を見ると、沖縄経済同友会特別幹事、沖縄県冷蔵倉庫協会会長、沖縄自由貿易地域事業者協会副会長、地域産業技術振興協会理事長、平成3年(1991年)沖縄県経営者協会会長、平成6年(1994年)沖縄県青年海外協力隊を支援する会会長、平成8年(1996年)沖縄懇話会代表幹事などをいずれも経済、産業関連ばかりである。

 沖縄サミットは、その稲嶺前知事の一期目半ばにおける一大イベントである。稲嶺氏はその経歴からも分かるように、産業界、それもエネルギー産業の出身であり、親は国会議員である。それらの経歴を生かした政策、施策を推進したはずである。

 しかし、稲嶺前知事が知事としてしてきた経済、産業振興の中身をよく見ると、それらの多くは、沖縄県の自然や環境資源と言う一大素材を生かした県政運営と言うより、中央政府の支援のもとで、「土建」的公共事業と、「IT」的公共事業に関連するものが多い。

 沖縄県はあるときから「経済」を優先するあまり、一方で大規模公共事業開発を急ぎ、他方で中央(霞ヶ関)とのパイプを太くしようとした。それは安保の最前線基地、すなわち沖縄県にある米軍基地ととっかえひっかえに国から各種の援助、補助、交付を特区的に要請したのである。その結果、沖縄県は、小泉政権以前の段階で特例的な国庫補助、特別地方交付金などに依存する体質となってしまったのである。

 そこでは「沖縄の真の自立は経済の自立なくして出来ない」と言う仲井真新知事のアッピールどころか、安保の前線基地ととっかえひっかえに、国依存、公共事業依存、特例的補助金依存、公債依存といった体質を余儀なくされてしまったといわれても仕方がないありさまがある。

 これら稲嶺氏が行ってきた経済振興策は、小泉政権でさらに窮地に追い込まれることになる。

 外交音痴と弱肉強食型の市場至上主義の小泉政権が過去5年間で行ってきたことは、日本全体に「格差社会」をもたらしたが、とりわけ稲嶺前知事の政策、施策に結果的に水をぶっかけることになってしまったのである。

 小泉政権における沖縄振興は名ばかり、有名無実、その結果、沖縄県は「格差社会」の縮図となってしまったといってよい。

 小泉政権が5年間続く中で「地域格差」は著しくひろがり「中央と地方」、「大企業と中小零細」の格差が著しく拡大してしまった。たとえば、日刊ゲンダイの2006年11月23日号では、一生浮かばれない“ワーキングプア”400万世帯 として次のように述べている。

 「..不況となれば、真っ先に直撃を受けるのは庶民生活だ。すでにこの国は小泉ニセ改革がもたらした市場主義、規制緩和の結果、ごく一部の勝ち組と大多数の負け組に分断されている。企業の正社員減らしが横行し、今や非正社員は全雇用者の実に3分の1、1600万人にのぼる。20代の5人に1人は年収150万円未満、1266万人(05年現在)いるパート労働者の半数近くが年収130万円以下だ。主婦だけでなく、男性パートが3分の1だから深刻なのだ...

 稲嶺前知事が行ってきた経済、産業振興策にも上述のように多くの課題があるものの、それにも増して、霞ヶ関や永田町がこの間継続的に行ってきたことは、ごく一部の富裕層、大企業、大銀行の利益、権益を優遇し、圧倒的多くのひとびと、中小零細企業などにとって厳しいものとなったのである。

 さらに、小泉政権の後継、安倍政権はどうみても格差を是正するどころか、格差を拡大する路線をとっている。

 下のパワーポイント画像は、政策学校一新塾(青山は代表理事)で最近行った「国際情勢の中の世界と日本〜潮目の変化を読む〜」という講演に使ったものだ。米国ではわずか5%の富裕層が全体の資産が集中している。



 まさに米国は小泉流の「格差社会」の典型例である。これは12年間続いた共和党政権下で相当以前から顕著となってきたことである。2003年夏、国際学会でボストンに池田こみちさんとでかけたとき、日本の膨大新聞からマサチューセッツ州のボストンにあるクオリティー紙、ボストングローブも研修で行っていた知人もまったく同じことを子細に話してくれたことであり事実である。

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 こうしてみてくると、沖縄県は「経済」と「雇用」を優先しても、結果的に基地経済依存と中央補助依存を高め、最終的に基地だけが残り、自立的な経済構築から程遠いところに来てしまう可能性が高い。

 しかも、過去10年、無節操に土建的公共事業を推進したために、本来、環境資源を生かした観光県であるべき沖縄県の海岸線、干潟、さんご礁などは見る影もなくなってしまうのである。

 稲峰氏そして仲井真氏はともに、米軍基地の国外移転は本来的に筋であり、普天間基地の名護市辺野古への県内移転には反対であるとしている。さりとて辺野古移転を拒否すれば、米海兵隊8千人のグアム島移転など他の米軍基地移転も遅れ、しかも霞ヶ関の意向に逆らえば従来型の経済振興にも大きな影響が出る、といった判断をしていると思える。

 実際、選挙のとき中央から多数押しかけた自公の首脳はばら色の経済振興を公約するような演説を現地で繰り返した。だが、過去の実績を見ればこれらがいかに空手形であるかはわかるだろう。中央が取れるのは、結局、沖縄県を生かさず殺さずと言ったこと以外にはないはずだ。

 だから仲井真氏は県民の反基地感情を気にして、選挙戦では移転問題は避けて、沖縄の経済振興を前面に出したのだろう。本土から応援に来た多くの自公幹部も「必ず経済振興をします」と空手形を切っていた。逆に言えば「自公候補を落とせば沖縄経済はどうなるか分からんぞ」と脅していたのである。

 後の祭りではあるが、私見では、もし、全野党共闘が上記の矛盾と格差社会の拡大をつっつけば、3〜4万票差などどうにでもなったと思える。

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 この章の最後に、わが国民は相も変わらず自民党政権なら何とかしてくれるであろう、という新興宗教の信者に似た思考停止が蔓延していると思える。

 いわば「寄らば大樹の羊の群れ」と化しているとも言える。これほどの「格差社会」を生んだのが自民党政権であることを忘れ、自民党なら何とかしてくれると思い羊の群れとなり、盲信し、ひたすらついていっているのである。

 だが、よく考えれば、、いや、ちょっとでも立ち止まって考えれば、これほどおかしなことはあるまい。「寄らば大樹の日影は暗い」のである。

 沖縄県が自立するためには、沖縄県の人々が経済的自立とともに、精神的な中央依存、他力本願から脱しなければならない。それによってはじめて悪循環から脱却する端緒が切り開かれるのである。

 前編で書いたように、米国の世界戦略は、泥沼のイラク戦争を経験し、さもなくとも大きな双子の赤字の存在を前に、大きく変わりつつある。事実、12年間続いた戦争屋の共和党政権が下院だけでなく上院でもこの11月7日の選挙で過半数われとなった。むやみに敵を作り、悪の枢軸呼ばわりし、結局、政権内部にいる軍事産業の回し者が巨大な利権をむさぼる軍需マッチポンプから脱落したのである。

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 残念ながら自民、公明そして社共はもとより、民主党、国民新党、新党日本も21世紀、日本が進むべき持続可能な経済社会への道、そして外交の理念、哲学を明確に国民に示せていない。

 もちろん、どこかからコピー・アンド・ペーストで持ってきたような「理念」ではまったく意味がない。

 新党日本が福島県知事選で行った自民・公明推薦候補への相乗りのような、あっちでこういい、こっちでこういう的な支離滅裂、節操のないものでは人心を惑わすだけである。

 さらに言えば、党首が言い訳ばかりしているようでは、これまた論外である。


 私見では、まさに国際情勢は今年の秋から大きな潮目となっており、その変化をいかに読むかがきわめて重要なものとなっていると感ずる。

 今回の沖縄知事選の結果をそれぞれの陣営が生かし、ぜひとも、世界のなかでの日本のあり方を根底から問い直して欲しい。



 それが翻弄される沖縄が自立そして自律することに間違いなく通ずると確信する。