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官製談合と随意契約(2)

〜外郭団体を介した
「行政」と「報道」の危うい関係〜


青山貞一

2006年4月15日

 本「独立系メディア」の調査で明らかになりつつあることがある。

 既報のように、環境庁元事務次官が設立した財団法人 地球・人間環境フォーラムに環境省から毎年、特命随意契約で多くの業務が行っていることが分かった。

◆鷹取敦:環境省随意契約問題・(財)地球・人間環境フォーラム

 ここにおける問題は、環境省から業務が特命随意契約で同財団に垂れ流されていることだけではない。財団事務所の一角に、日本を代表する主要メディアの記者らが参加する「日本環境ジャーナリストの会」の事務局があることである。

◆池田こみち:行政と近すぎる報道の危なさ・3Rイニシャティブ

  「日本環境ジャーナリストの会」に参加する記者は、もとより霞ヶ関の省庁やその外郭団体などの活動を監視すべき立場にあるはずだ。そのジャーナリストが、こともあろうか環境庁元事務次官その後神奈川県知事になった元高級官僚が設置、運営している財団法人に間借りしているというのだ。 

 現在、財団法人 地球・人間環境フォーラム及び日本環境ジャーナリストの会事務局は、東京都港区虎ノ門1の10森ビルに移転しているが、それ以前は東京都港区麻布飯倉のビルにいた。ここは、某宗教法人のビルであるとされている。引っ越し先の虎の門の10森ビルの近くにも、その某宗教法人の本部があるがこれが偶然かどうかは調査未了であり、今のところ不明である。

 一方、「日本環境ジャーナリストの会」が事務局を借りている財団法人 地球・人間環境フォーラムは、毎月「グローバルネット」なるニューズレターを発行しているが、同ニューズレターには「環境ジャーナリストの会」の常設ページがあり、会員が執筆を担当している。

 今回、NHKがスクープした環境省の特命随意契約業務が92%を超え多いことについての報道がなされた後、私たち独立系メディアが調べたところ、「環境ジャーナリストの会」のメンバーが環境省の随意契約及びその発注先を追跡取材した形跡はない。
 
 閑話休題

 ひるがえって、日本の「日本記者クラブ」については、世界にも類例がない、行政と報道、ジャーナリズムのもたれあいの構造そのものであると常々批判されてきた。

 これは何も行政が報道関係者にさまざまな便宜を図っていることだけが問題なのではない。「記者クラブ」の存在が報道を行政の広報機関と化し、結果として国民や納税者の知る権利が侵されることになることが問題なのである。

 信州・長野県の田中康夫知事は、知事就任直後に「脱記者クラブ」宣言を行い、県庁の記者クラブ制を即時廃止した。

  だが、長野県などが記者クラブを廃止したあと、霞ヶ関の省庁や他の県庁、市役所で記者クラブを廃止したと言う話はほとんど聞かない。まさにもたれ合いの構造が依然として残存している。

 官製談合と随意契約は、何も天下り先の特定組織に税金を垂れ流す問題だけでなく、「政」「官」「業」「学」「報」、すなわち@政治家、A国、地方の行政、B民間企業、業界、C御用学者とD報道との間で現状を追認し、既得権益を守る癒着の構造の温床を与える点できわめてゆゆしき問題である。

 以下は「政」「官」「業」「学」「報」のもたれあい、利権配分のペンタゴンを図式化したものである。まさにこのペンタゴンこそ、本来あるべき報道の姿、あり方をゆがめているのである。



 上記に関連し、「日本環境ジャーナリストの会」のメンバーの一人は、私にかけてきた電話で「青山さんが指摘されるのは、元高級官僚なり財団自身の問題であって環境ジャーナリストの会の問題ではないのではないか? 私たちはたまたま事務所を借りているだけ」だと言われた。

 日本を代表する新聞の記者がそんな認識であるとすれば、到底、「政」「官」「業」「学」「報」のもたれあいの構造は是正されず、霞ヶ関の省庁や官僚はのうのうとしていられる、はずだ。

 つづく

<参考> 脱記者クラブ宣言 長野県知事 田中康夫

 


 その数、日本列島に八百有余とも言われる「記者クラブ」は、和を以て尊しと成す金融機関すら“護送船団方式”との決別を余儀なくされた
21世紀に至るも、連綿と幅を利かす。


 それは本来、新聞社と通信社、放送局を構成員とする任意の親睦組織的側面を保ちながら、時として排他的な権益集団と化す可能性を拭(ぬぐ)い切れぬ。現に、世の大方の記者会見は記者クラブが主催し、その場に加盟社以外の表現者が出席するのは難しい。


 また、日本の新聞社と通信社、放送局が構成員の記者クラブへの便宜供与は、少なからず既得権益化している。

 長野県に於(お)いても、例外ではない。県民の共有財産たる県庁舎内の3ヶ所に位置する「県政記者クラブ」「県政専門紙記者クラブ」「県政記者会」は、長きに亘って空間を無賃で占有してきた。面積は合算で
263.49平方メートル及ぶ。部屋と駐車場の使用料に留まらず、電気・冷暖房・清掃・ガス・水道・下水道の管理経費、更にはクラブ職員の給与も、全ては県民の血税で賄われてきた。推計での総額は年間1,500万円にも上る。これらを見直されねばならぬ。

 須(すべから)く表現活動とは、一人ひとりの個人に立脚すべきなのだ。責任有る言論社会の、それは基本である。


 2001年6月末を目途に3つの記者室を撤去し、仮称としての「プレスセンター」を、現在は「県政記者クラブ」が位置する3階の場所に設ける。194.40平方メートルの空間にはスタッフを常駐させ、コピー、
FAXは実費で承(うけたまわ)る。

 テーブル付きの折り畳み椅子を数多く用意し、雑誌、ミニコミ、インターネット等の媒体、更にはフリーランスで表現活動に携わる全ての市民が利用可能とする。使用時間等を予約の上、長野県民が会見を行う場としても開放する。

 更には「ワーキングルーム」として、現在は2階に位置する「県政専門紙記者クラブ」の空間(30.24平方メートル)にも、同様の椅子を並べる。


 平日の10時45分と16時30分の2回、政策秘書室の担当者が「プレスリリース」を掲示し、希望者には無料で頒布する。併せて、その場で質疑応答を受け付ける。必要に応じて、関係部課長等も件(くだん)の会見に出席し、資料説明を行う。知事も又、その範疇に含まれる。

 如何なる根拠に基づいてか、記者クラブ主催だった長野県知事の記者会見は今後、県主催とする。

 知り得る限り、記者会見を毎週行う都道府県知事は、長野と東京のみである。而(しか)して長野県に於(お)いては、往々にして毎回の記者会見に割く時間は1時間以上に亘る。知事室を始めとする県庁内、視察現場等での“ぶら下がり”なる符丁で知られる記者との遣り取りも、拒んだ過去は一度としてない。その精神は変わらない。


 従来と同じく事前に日時を告知した上で週1回開催する知事記者会見には、全ての表現者が参加可能とし、質疑応答も行える形式に改める。但し、質問者は氏名を名乗らねばならぬ。前述の「プレスリリース」同様、会見の内容はホームページ上に掲載する。動画でのアップも導入する。

 天変地異を始めとする緊急記者会見の開催通知や資料提供を希望する表現者は、所定の用紙に連絡先等を記入して予め届け出る形を考える。

 以上、ここに「『脱・記者クラブ』宣言」を発表する。

 今回の宣言が、県民の知る権利を更に拡充する上での新たな「長野モデル」の一つとなる事を切に願う。


 更なる詳細は、全ての表現者との開かれた話し合いを踏まえて決定する。

 猶(なお)、任意の親睦団体としての記者クラブの存在は、長野県に於いても加盟各社の自由意思であり、これを妨げはしない。

 

 2001年5月15日

                   長野県知事  田 中 康 夫