半分は人災 御嶽山大惨事の原因と遠因を考える 青山貞一 Teiichi Aoyama October 24 ,2014 Alternative Media E-wave Tokyo 無断転載禁 |
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2014年10月24日、DNA鑑定で57人目の死亡者が確認された。9月27日、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山(木曽御嶽山)の火口噴火で死亡が確認された人数である。 独立系メディア E-wave Tokyoでは、当初から御嶽山火口噴火による災害は、半分は人災であると指摘してきた。 10月24日夜のNHKニュース・ウォッチ・ナイン(NHK New Watch 9)は、御嶽山で亡くなられた一人っ子の息子さんの遺品が帰宅した件を放映していた。遺品はリュックとその中身であった。リュックもカメラなどの遺品も、殆どというか全くと言って良いほど無傷だった。カメラには御岳山頂で仲間と一緒に撮影した写真が残っていた。 一方、両親が息子さんに御嶽山の麓で遺体確認で会った際、息子さんには噴石による傷跡があちこちにあったと述べている。 これは何を物語るのだろうか? NHKニュースウォッチナインのなかでも述べられていたが、これはリュックがどこかに置かれており、息子さんは火口噴火により、リュックを残して噴煙、噴石を逃れるためにその場を離れたために多くの噴石が直撃し亡くなられたことを意味している。 私が独立系メディア E-wave Tokyoで御嶽山火口噴火による災害は、半分は人災であると指摘してきたのは、以下の理由からである。 (1)噴火警報レベルが1であったこと 気象庁や火山噴火予知連の学者、それに長野県、岐阜県は、2014年9月27日の御嶽山についての噴火警報レベルを1としていた。これがかくも多くの死亡者を出した最大の原因である。 気象庁や火山噴火予知連の学者らは、噴火直後から「想定外」を繰り返して述べた。もとより、火山噴火予知を数10年調査研究している気象庁や学者らが「想定外」を繰り返して述べたことは、自己保身に過ぎずいかなる理由があろうとも、「不作為」であり、「過失」であると思える。 噴火が水蒸気型噴火であるかマグマ型噴火であるかなどを想定外の主な理由としていたが、火山学の噴火類型の基本はこの2つあるいはせいぜい3類型である。そのうちのひとつを想定外とすること自体、調査や研究者の見識、資質を疑われても仕方が無いことである。 これはまさに3.11の地震、津波により東京電力福島第一原発事故発生時に、東電、学者、国などが「想定外」を繰り返して述べたことと酷似している。とりわけ数十年間にわたり、それしか調査研究していないような学者らが「想定外」を繰り返して述べたことは保身、責任逃れ以外の何物でも無い。 しかも、いずれの関係当事者は、テレビや新聞で見る限り、「ご冥福をお祈りします」さえ述べていない。 (2)長野県が設置した2つの地震計が故障・置き去りにされていたこと 参考 ◆青山貞一:信じられない! 肝心な地点の地震計、昨夏から故障放置 参考 ◆青山貞一:頂上から2~3kmの地震計は明確に地震回数を記録していた 参考 ◆青山貞一監修:火山の噴火・地震・観測の基礎情報 これは(1)と密接に関連することだと思えるが、当初朝日新聞、その後毎日新聞などが長野県が火口付近と少し離れたところに設置していた地震計が昨年以来故障しているにもかかわらず、そのまま置き去りにしていたことを報じた。 下は朝日新聞の記事である。
山頂は、寒暖差が激しく、雷などの被害にも遭い、一般的に機器の維持管理は難しいなどと、まさに言い訳を関係者が述べているが、これなど論外である。いざというときのために、またその予兆を知るために設置している地震計が故障し、一週間、二週間ならまだしも1年1ヶ月以上も放置されていたことは、ことの本質をまったく理解、認識していないと言われても仕方あるまい。 (1)で指摘したような関係者なので、果たして長野県の地震計2つが健在だった場合でも、果たして事故以前に噴火警報レベルを2ないし3にしていたかどうかは、疑わしい。 しかし、故障で1年間以上放置されていた地震計は火口に最も近いところに設置されていたものである。もし、この地震計が正常に稼働し、データを関係各所に送っていたとしたら、上述のように噴火警報レベルを2ないし3にしていたかも知れないことを考えると、これは明らかに行政(長野県)による不作為であり、過失であろう。 ちなみに 下のグラフは気象庁の地震計などによる御嶽山の1日単位の地震回数である。 平成26年 No.40 週間火山概況(平成26年9月26日~10月2日)における 御嶽山の1日単位の地震回数 出典:気象庁 (3)シェルターが設置されていなかったこと 参考 ◆青山貞一:御嶽山になかった噴石シェルター インドネシア、アイスランドとともに日本ほどの火山噴火大国は、世界中にない。にもかかわらず、日本では誰もが登山を楽しむ現存する100カ所以上の火山に、いざ噴火というときのためのシェルター(避難小屋)の設置が義務づけられていない。 以下は、2014年10月5日の共同通信の記事である。何と、日本で噴石シェルターがあるのは草津白根山(群馬・長野)、浅間山(群馬・長野)、阿蘇山(熊本)など10火山にとどまっていることが分かったとある。
私はたまたま別荘が群馬県の浅間高原にあり、上記記事にある草津白根山(群馬・長野)、浅間山(群馬・長野)を登山しており、実際にシェルターの存在を確認している。 浅間山麓の鬼押し出しにある火山爆発時の一時避難小屋、シェルター 撮影:青山貞一 Nikon Coolpix S8 2014年7月16日 浅間山系の黒斑岳の槍ノ鞘近くにあったシェルター 撮影:青山貞一 Nikon Cool Pix S10 しかし、草津白根山(群馬・長野)同様、誰でも比較的容易に火口まで登れる御嶽山には、シェルターがまったくなかったという。 たとえば、100以上ある日本の火山には、学術調査などの目的以外、国民は登山を許さないというのであればまだしも、富士山を含め日本の火山には、年間膨大な観光客・登山者が無防備に山に登っているのである。 いうまでもなく、シェルターは最後の砦ではあるが、もしそれなりの数のシェターが設置されていれば、生き残れた登山者は多数いたはずである。 (4)気象情報の提供がなく避難方向が分からないこと 御嶽山では、二酸化硫黄などの有毒ガスではなく噴石の直撃による損傷が死亡原因であるが、大噴火が起きたとき風向、風速、地形との関係で噴煙のプリュームがどちらの方向に流れるかという情報提供も皆無に近い。 出典:環境総合研究所(東京都目黒区) スマホ大流行の時代、もし、この種の情報がリアルタイムで登山者に提供されれば、多くの登山者の命が救われたはずである。地形、気象を考慮したこの種の情報提供は、現在の3次元流体シミュレーション技術で十分可能なはずである。 日本では現在、原子力発電所の再稼働が大きな課題となっている。しかし、福島第一原発事故後の国、自治体はじめ学者らの対応を見れば分かるように、防災計画の策定はじめ訓練が自治体に丸投げとなっており、なんら専門的な立場からの審査やチェックが行われていない。まともにおこなわれているとは思えない。 一つは原発事故が起きたとき風向、風速、地形との関係で噴煙のプリュームがどちらの方向に流れるかという情報提供も計画書にもパンフレットにも皆無である。一方、現地の住民ならどうみても非現実的と考える避難ルートをコンサルタントが行ったという交通シミュレーション結果を計画書に書いているものもある。 これと同じことが火山噴火時についても妥当する。 繰り返すが世は高機能のスマホ時代、最低限、各火山周辺の比較的詳細な風向風速情報がリアルタイムで常時提供されていれば、そしてそれなりの事前学習があれば、多くの登山者の命が救われることになる。 (5)マスコミの対応が偏向していること マスコミの対応についても一言したい。NHKは9月27日の御嶽山火山大噴火による事故が起きる1、2週間前、NHKスペシャルで巨大災害を特集し火山噴火の原因、原理をテーマとしていた。このときのメイン・ゲストは、気象庁の火山噴火予知連絡会(会長=藤井敏嗣・東京大名誉教授)であった。 出典:NHKスペシャル 巨大災害 出典:NHKスペシャル 巨大災害 同Nスペでは火山爆発に関してマグマ噴火ばかりを扱い、水蒸気噴火を扱わなかったという重大な問題もある。しかし、もっと重要なコトは、NHKはこともあろうか、事故後も、気象庁の火山噴火予知連絡会会長の藤井氏を使い続けたのである。水蒸気爆発は「想定外」、「対象外」という趣旨の発言を藤井氏は繰り返し述べている。 上述のように、火山噴火だけでなく地震などについても、気象庁の予知連は、権威主義やいわばセクト主義の延長にあり、会長以外の他の言説、理論、実績などを一切無視する傾向がある。 NHKだけでなくメディアは、複数の言説・理論がある分野では、それぞれの主張や言い分を視聴者に提供する義務を負っている。公共放送のNHKは放送法によりそれを義務づけられている(以下参照)。
その意味で今回の御嶽山大噴火では、藤井会長やその配下にある気象庁の情報、すなわち結果として噴火警報レベルを1とし続けた会長や気象庁の言い分しか視聴者に提供しなかったことは極めて問題があると思う。 一方、夕刊紙など大メディア以外は、以下にあるようにさまざまな情報を多角的に読者に提供していた。 参考 ★「我々のレベルそんなもの」…“看板倒れ”噴火予知連の素性日刊ゲンダイ 参考 ★御嶽山と大違い 犠牲者ゼロだった有珠山噴火の「対応」日刊ゲンダイ 参考 ★北大名誉教授が気象庁の対応を批判「明らかな前兆があった」 御嶽山噴火 参考 ★気象庁HPに予兆 予知連はアテならず「危ない山」見抜き方 日刊ゲンダイ おわりに 最後に、火山大国日本の防災と噴火警報の情報は、お粗末そのものである。同時に、事故後の対応もきわめて保身的であり、今後、日本の100以上ある火山への具体的対応もほとんど見えないままである。その背景には、当該分野の研究が限られた者、組織で行われており、十分なオープンな議論がなされていないことが問題である。 これは原子力問題での「原子力村」に類する「気象村」、「防災村」、「予知連村」などがああることに関連している。 最後に、2012年、火山噴火ではないが地震予知に関連し、専門家ら7人が過失致死などの罪に問われている裁判で、イタリアのラクイラ地方裁判所は被告側の過失を認め、全員に禁錮6年(検察側の求刑は4年)及び公職からの永久追放が言い渡されたことを改めて紹介しておきたい。 以下はそれに関連する記事概要である。何とか村の住民は肝に銘ずる必要があろう!
なお、2014年10月27日の読売新聞に以下の記事が掲載された。やはり御嶽山の大惨事は半分は人災である!!
<資料> 御嶽山噴火による山頂及びその付近における心肺停止者数及び死亡者数の推計値
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