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結論先にありきのNHK時事公論
〜がれき広域処理

鷹取敦・池田こみち

掲載月日:2012年4月26日
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 2012年4月25日23時50分〜0時00分の10分間のNHKのニュース解説番組「時事公論」で、「がれきの広域処理」を取り上げた。
NHK・時論公論 「がれき受け入れ"拒否"の理由」2012年04月25日 (木)
松本 浩司 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/118677.html
 時事公論ではこれまでに2回、この問題を取り上げている。
NHK・時論公論 「汚染がれき・処理の課題」2011年08月31日 (水)
谷田部 雅嗣 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/93918.html

NHK・時論公論 「がれき受け入れ"拒否"の理由」2012年03月22日 (木)
松本 浩司 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/113992.html
 2011年8月の番組では、石巻市の現状を紹介しながら、広域処理のための基準がつくられたことなどを解説し、受入が進むかどうかが課題とし、先行きの不透明さを指摘していた。しかし、3月の番組では「広域処理の対象になる岩手・宮城では処理が済んだのはわずか6.8%にとどまっています。」から始まっており、広域処理が進まないからがれきの処理が進まない、という印象づけをまず行っている。

 3月の番組では進まない理由として神奈川県の進め方の問題(協定を無視して県が受入を進めようとした点等)を取り上げつつ、国が前面に立つ必要があると締めくくっている。つまりあくまでも広域処理が「正しい」ことを前提とした構成である。

 3回目となる今回の番組でも基本的に前回までと同様の構成となっていた。災害廃棄物の総量と、現時点で9%しか処理が進んでいない理由を広域処理に結びつけることから始まり現状の課題をクローズアップした。その後、広域処理の希望量は全体の20%であることが番組中でも示され、処理が進まないのは広域処理とは無関係であることが分かるはずだが、番組ではその点には一切言及していなかった。つまり、あえて視聴者が誤解するような印象づけを狙っているということになる。

 番組ではこれまで指摘されていなかった、国の検討会が非公開で議事録も公開されていなかった点、これまでの100Bq/kgの基準とは別に8,000Bq/kgという基準が設けられ事実上の緩和となっている点、再利用を促進して広域処理量を減らすべき点、地域の実情を踏まえて検討すべき点について言及しているのは前回の番組と比べれば前進はみられるものの、あくまでも「広域処理」が遅れている理由は、情報提供や「説明が足りないこと」という解説に終始していた。

 その一方で、石巻市を一例に挙げて、担当者が、瓦礫の処理が進まないと復興の道筋が示せず市民が流出する、と述べていることを紹介し、相変わらず被災地ががれきに埋もれているような印象づけをしている。

 石巻市が処理量が多くもっとも困難であることは間違いないが、石巻が一例で、他も同様の状況にある、という印象づけは誤っている。また石巻市についても、がれきに埋もれているような状態ではなく、仙台市をはじめ近隣の他の地域の処理施設の能力にも、宮城県知事が当初のがれきの量よりかなり少ないという見込みを先日示したことにも言及されていない。

 国の広域処理の問題への指摘を取り入れながらも、もっとも大きな問題である「広域処理という結論ありき」でがむしゃらに全国に押しつけようとしている国の姿勢をある意味バックアップするような番組となっており、視聴者に誤った印象を与えるものであった。

 結論ありきで視聴者を誘導するような番組ではなく、客観的な事実や本質的な問題に基づいて視聴者ひとりひとりが考える機会を持つことが出来る番組作りが望まれる。

 このテーマを取り上げるのは今回で3回目であることを考えると、この問題の本質を解説者自身が依然として理解ししていないか、敢えて意図的に国民に偏ったメッセージを提供していると捉えられても仕方がない。NHKは視聴者の払う視聴料で支えられていることをしっかりと認識し、第三者的な立場から、偏りのない情報を提供すべきである。