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鞆の浦埋立架橋計画・中止へ

〜止まらない公共事業を

止めたもの〜

鷹取敦

掲載月日:2016年02月03日
 独立系メディア E−wave Tokyo
無断転載禁


 広島県福山市の鞆の浦に計画されていた埋立架橋計画の、広島県知事による実質的な中止の決定が2016年2月2日、山陽新聞、中国新聞等にて報じられた。

 鞆の浦には、日本イコモス国内委員会によって世界遺産に値するとされるほどの歴史的に貴重な景観があり、また「崖の上のポニョ」の舞台のモデルとしても知られている。


鞆の浦の港(2007年9月29日 鷹取撮影 CASIO EX-Z750)


鞆の浦の港(2007年11月07日 鷹取撮影 CASIO EX-Z750)

 埋立架橋計画は、この鞆の浦の歴史的な港を埋め立てて、横断する橋を作り、鞆地区を通過する交通を迂回させようという福山市と広島県による計画である。

 環境総合研究所では、この埋立架橋事業の必要性について客観的、定量的に検証するために、現地の通過交通や速度等の調査を依頼され、実施したこともあり、下記のように、折に触れて報告してきた。なお、下記のうち、名前を示していないものは鷹取によるものであり、他に関連記事、地元市議および地域住民による論考を紹介している。
   
◆鞆の浦埋め立て架橋計画の必要性に疑問〜住民参加の交通量調査結果より〜
2007年12月4日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col156.htm

◆鞆の浦埋め立て架橋問題に再検討求める国交相発言の意義
2009年2月4日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col172.htm

◆「崖の上のポニョ」埋め立て危機の行方〜裁判長ら現地視察〜(日刊ゲンダイ)
2008年10月24日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col1341.htm

◆鞆の浦埋め立て架橋事業の必要性の検証
〜住民参加の交通量調査による定量的な渋滞の実態および必要性の検証〜

2008年12月 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/eforum-vol1-no2-1-03-takatori-tomonoura.pdf (PDF)

◆鞆の浦の世界遺産を実現する生活・歴史・景観保全訴訟(落合真弓福山市議)
2009年2月17日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/ochiai-col001.html

◆鞆の浦の世界遺産を実現する生活・歴史・景観保全(鞆まちづくり工房)
2009年2月17日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/ochiai-col002.html

◆鞆の浦埋め立て免許差止め判決
2009年10月1日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col178.htm

◆広島県知事の鞆の浦視察
2010年1月13日 独立系メディア E-wave Tokyo
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col184.htm

 この計画は、鞆地区の住民を事業の賛成派と反対派に分断した。反対派は対案を示しつつ、10万人の反対署名を集め、さらに県が埋立許可を行わないよう、仮処分および裁判を行ってきた。

 仮処分および地裁では、環境総合研究所が行った必要性を検証した調査結果も証拠として提出されている。地裁判決で、県の埋立免許の差し止めが認められ、反対派住民勝訴となっている。

 また民主党に政権交代する前の、自民党政権時代の金子国土交通大臣も埋立架橋計画に反対の意向を示していた。

 その後、広島県の知事が、通産官僚出身ではあるものの、民間に転じインターネットプロバイダの起業に関わった湯崎知事(当時44歳)に替わった。湯崎知事は、2010年1月から事業を止めたまま賛成、反対両派による対話を継続してきた。裁判については、結論が出るまでは控訴したまま保留されている。

 ほぼ6年後となる2016年、知事は計画の中止を決断し、埋立免許を取り下げるのが今回、湯崎知事が示した方針である。

 一旦、はじまった公共事業が中止となることは日本ではきわめてまれであり、また困難を伴うものでもある。湯崎知事が知事就任後にいきなり事業中止とすることなく、6年もの間、住民同士の話し合いの場を設けてきたことは、地元にとって大きな変更のために必要なプロセスだったものと思われる。

 読売新聞の記事もあるように、それでも不満をもつ住民は残るものの、事業を行うにせよ、やめるにせよいきなりトップダウンで決定されることが多い日本において、6年にわたる住民の議論の場がもたれたことは貴重であろう。

 特に、やめる場合のトップダウンは、八ッ場ダムにおける前原大臣の例をみれば分かるようにうまくいかない。事業が始まることによって、複雑な利害関係が生じてしまうからである。

 地域住民の長年にわたる粘り強い取り組みと、知事の判断が、この結果につながった。

 以下が今回の県知事の方針を伝える記事である。

◆鞆の浦埋め立て申請取り下げへ 15日にも広島県 訴訟終結見通し(山陽新聞)
http://www.sanyonews.jp/article/294355

 広島県が計画を撤回した福山市・鞆の浦の埋め立て架橋をめぐり、県が15日にも埋め立て免許の申請を取り下げる方針であることが2日、分かった。広島高 裁で開かれる埋め立て架橋訴訟控訴審の進行協議で、原告の架橋反対派住民に伝え、早ければその日のうちに手続きする考え。

 原告は、県が免許の申請をやめれば同時に訴訟を取り下げる姿勢を見せており、15日にも訴訟が終結する見通し。

 鞆の浦の埋め立て免許は、施工者の県、福山市が港湾管理者の知事に2007年に申請し、県は免許交付の許認可権を持つ国に認可を求めた。申請の取り下げについて県は同市や国との調整を進めており、了承が得られれば踏み切る。

 進行協議は5月に設定されていたが、県によると、湯崎英彦知事が1月中旬、申請取り下げに着手する意向を示したのを受け、広島高裁が期日の前倒しを県と原告に打診した。

 埋め立て架橋計画は、街中の狭い路地の交通渋滞を解消しようと、1983年に県と福山市が策定。湯崎知事が2012年、景観への影響を理由に山側にトン ネルを整備する方針へと転換したが、地元の理解が十分に得られていないとして、埋め立て免許申請の取り下げは見合わせていた。
(2016年02月02日 21時52分 更新)

◆鞆埋め立て、15日にも免許申請撤回 広島県(中国新聞)
http://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=218812&
comment_sub_id=0&category_id=256
2016/2/2


 広島県が、計画を撤回した福山市鞆町の鞆港埋め立て・架橋をめぐり、港の埋め立て免許の申請を取り下げる意向を近く、国へ報告する方針を固めたことが1日、分かった。15日にも取り下げ手続きをするとみられる。全国的な景観論争
に発展した架橋計画は、原案策定から30年余りを経て、未着手のまま正式に終止符が打たれる。

 湯崎英彦知事が4日にも国土交通省を訪ね、考えを説明する。国交省が了承すれば、県は架橋中止を求める住民訴訟の終結手続きに入る。5月開催予定だった広島高裁の進行協議は、今月15日に前倒しする方向で原告の住民と調整している。原告側は、申請を取り下げれば、訴訟をやめる方針を示しており、免許の申請と住民側の訴えの「同時取り下げ」となる見通し。

 埋め立て免許は、事業主体の県と福山市が、免許権者でもある県に対し、2007年5月に申請。08年6月、県が国へ認可を申請した。県は景観保全などを理由に12年6月、架橋計画を撤回する方針に転換。しかし、架橋を望む住民に配慮して免許申請の取り下げは控えていた。形式上は事業継続の可能性が残っているため、訴訟は続いている。

 ことし1月、架橋撤回に代わるまちづくりの「本気度」を求めた福山市の羽田皓市長の発言を受け、湯崎知事が初めて、取り下げ手続きに入る意向を表明した。県は架橋計画への道を完全に絶つことで、護岸整備や県道拡幅などの防災、交通対策を加速させる。

 架橋の代替策である山側トンネルの建設は、地元住民の十分な理解が得られていないとして、県は事実上棚上げしている。また、護岸整備には住民から反対の声も上がっており、県は景観に配慮した設計を示して理解を得る考えでいる。
(樋口浩二、加納亜弥)

◆「やっとかなう」「裏切られた」…鞆埋め立て正式断念(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/local/hiroshima/news/20160202-OYTNT50272.html
2016年02月03日

 ◇県の方針に地元 複雑

 福山市の「鞆(とも)の浦」の埋め立て・架橋事業で、県が事業に必要な埋め立て免許の申請を15日にも取り下げる方針であることが明らかになった2日、原告団や地元住民らは複雑な思いをのぞかせた。(佐藤祐理、前田毅郎)

 県が昨年12月に住民に示した鞆港沿いの県道の一部拡幅や護岸整備などの防災対策を進めるには、従来の港湾計画の変更が必要で、計画の変更には、免許申請の取り下げが不可欠だった。

 知事は1月の記者会見で、「申請を取り下げないと、(防災対策などに)着手できない。我々も退路を断って前に進めていきたい」として取り下げの意向を示していた。

 事業差し止め訴訟原告団の松居秀子・事務局長は「当初から県に申請を取り下げてほしいと訴えてきた。行動し始めてから何年もたつが、やっと、その日が来たという感じ。長かった」と振り返った。

 今後については、「埋め立て・架橋問題が一段落しても、防災対策などやるべきことはある。県には、焦らず鞆の価値を理解してもらいながら、住民と共にまちづくりを進めてもらいたい」と注文をつけた。

 一方、鞆町内会連絡協議会の大浜憲司会長は、県が2012年に事業の中止を表明していることから、「免許の申請を、どこかで下ろさなければならないということはわかっていた」と語った。

 ただ、知事が「住民との合意が得られていないので、取り下げない」と述べてきたことに触れ、「発言内容と矛盾し、住民を裏切ったように感じる」と強調。「知事は『事業の本気度を示す』『退路を断って前に進める』などと言ってきた。住民や地域のための施策を行うと思っていたが、知事にとっては、申請を取り下げることが事業だったようだ」と批判した。

 一方、福山市の羽田皓市長は、報道各社の取材に応じ、「原告側と同時取り下げというような意思というか、発言もあったので、それにのっとった手続きなんだろうと思う」と述べるにとどまった。

2016年02月03日