福島市−南相馬市間の 空間線量率の実測 〜2011年6月からの変化〜 鷹取敦 掲載月日:2014年6月25日
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2014年6月24日、南相馬市環境未来都市推進会議に出席するために、南相馬市原町区にある南相馬市役所に福島駅西口からバスで向かった。 南相馬市は、福島第一原発事故のため、市域南側の交通手段である常磐線、常磐自動車道、国道6号等の幹線道路が再開しておらず、公共交通機関としては宮城県仙台駅か、福島駅から本数の少ないバスしかない。南相馬市は放射能汚染により複雑に分断されている問題に加え、公共交通が断たれているため陸の孤島のようになっていることが、より困難を深めている。 なお現在は、南相馬市住民・事業者、復旧業務関係者は、申請して通行証を取得すれば、国道6号で「帰宅困難区域」(国道6号は双葉町、大熊町、富岡町の帰宅困難区域を通過している)を通過出来るようになっている。 今回は福島駅西口から、東北アクセス社のバスを利用した。福島駅西口を11時30分に出発し、南相馬市役所に13時15分に到着する。本数が少ないため、目的地到着時刻によって、福島駅から行くか、仙台駅(宮城県)から南下するか選択する必要がある。 ◆東北アクセスのバス時刻表等 http://touhoku-access.com/regular/fukushimaline.html ところで、環境総合研究所では、福島県内を視察した際に、何度も放射線量率の調査を現地で実施してきた。そのうち福島第一原発事故発生から約3ヶ月後の2011年6月中旬(3年前)の調査では、福島市内から南相馬市役所に向かう途上の空間放射線量率の記録も行った。 ■福島放射線現地調査報告2011年6月18日〜20日 〜全測定結果(固定測定)〜 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp88..html ■福島放射線現地調査報告2011年6月18日〜20日 〜測定結果(市町村別平均値)〜 http://eritokyo.jp/independent/aoyama-fnp89..html 今回は、ほぼ同じルートを走行するバスの車窓から、放射線量率の測定を行ったので、2011年の調査結果と合わせて紹介したい。なお、福島駅西口前および南相馬市役所の測定は屋外で行った。 図1に示した走行ルートのうち青い矢印が今回のバスルート、赤い矢印が2011年6月の視察時のルートである。 図1:走行ルート(バスルート、2011年6月視察時ルート) 福島駅西口には、福島県が設置しているリアルタイム線量測定システムがある。駅前のロータリーでは、DoseRAE2(2014年4月に較正済み)による空間線量率は約0.1μSv/hであったが、リアルタイム線量測定システムは0.202μSv/hを表示していた。DoseRAE2を用いてリアルタイム線量測定システムの横で測定したところ、0.19μSv/hとなりほぼ一致した。周辺には植え込み等があるため、樹木に付着した放射性セシウムの影響を受けているものと思われる。 図2:福島駅西口のリアルタイム線量測定システム 撮影:鷹取敦 図3:南相馬市役所敷地のリアルタイム線量測定システム 撮影:鷹取敦 なお、リアルタイム線量測定システムとは、福島原発事故後に福島県内に多数設置したもので、下記のサイトでリアルタイムに結果を見ることが出来る。 ◆福島県放射能測定マップ http://fukushima-radioactivity.jp/ ちなみに、リアルタイム線量測定システムといわゆる「モニタリングポスト(MP)」は目的が違い、測定している項目、単位が異なる。リアルタイム線量測定システムは外部被曝=1cm線量当量、単位:μSv/h、 モニタリングポストは空気線吸収線量、単位:μGy/hである。また、リアルタイム線量計は地上1mに、モニタリングポストは遠くから浮遊してくる放射性プルームを発見することが目的であるため、通常、ビルの屋上等に設置されている。地上に設置されているリアルタイム線量測定システムは周辺にある樹木に付着した放射性物質からの影響や、駐車車両等による遮蔽を受けやすい。一方、ビルの上にあるモニタリングポストは、地上からの影響についてはビルそのものが遮蔽となるため、ビルの屋上に付着した放射性物質からの影響を主に測定しているものと考えられる。 今回の測定では、福島駅西口から南相馬市役所にむけてバスが移動している間、バスの最後部近くの左側の座席の窓で測定を行った。左側窓際で測定した理由は、道路端に近く、沿道からの影響を把握しやすいからである。 測定結果を、リアルタイム線量測定システムの結果と合わせて図4に示す。福島市から川俣町に入る直前に0.4μSv/h程度まで上昇し、川俣町に入ると0.15μSv/h程度まで低下している。飯舘村に入ると上昇し、最大で約1μSv/h程度まで上昇している。南相馬市に入ると山間部では約1μSv/hから0.6μSv/hであったが、平地では0.2μSv/h程度まで低下している。 図4:空間線量率測定結果(2014年6月) 国は2011年に0.23μSv/hを目安に除染の区域指定を行ったが、今回の結果のうち、0.23μSv/hを超えているのは飯舘村と、南相馬市の山側のみであった。除染の区域指定が行われてから3年間で除染の有無に関わらず大きく低下している。なお、0.23μSv/hは、遮蔽が小さい木造の家屋に居住し、1日のうち8時間屋外に滞在するという、被ばくを大きめに見積もった想定で年間の追加被ばくが1mSv/年となる目安として定められたものである。 図5に2011年6月の結果と合わせて示す。全く同一地点ということではなく、またDoseRAEの特性からして5分程度の移動区間の平均値であるが、おおむね同じ場所の結果を並べて表示した。2011年6月と比較すると2014年6月は大幅に低下していることが分かる。 図5:空間線量率測定結果(2011年6月と2014年6月の比較) 2011年6月とほぼ同一の場所同士を比べると14%〜36%(平均23%)に低下している(ただし測定高さが乗用車とバスで違いがある)。2011年6月〜2014年6月までに半減期によって約54%に低下することが計算上わかるが、実際にはさらにその半分以下となっていた。南相馬市の海側や、飯舘村の山の中などは、まだ除染が行われていない地域が多いことから、大きな減衰の理由は、おもに風雨により流されたこと等(「ウェザリング」と呼ばれる)と考えられる。 図6に2011年6月の線量率を横軸、2014年6月の線量率を縦軸にとったグラフを示す。半減期だけで低下した場合には、斜めの線上に載るが、全ての地点でおおむね半減期による理論値に対して半分程度となっていることが分かった。 図6:空間線量率の低下(実測値)と、半減期による理論値 ただし、今後は半減期の短く空間線量への寄与が大きかったCs-134(半減期2年)が減っていること、流されやすいものは既に流されている可能性があることから、減衰しにくくなっていくことが想定される。 |