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NHKで厳重注意されるべきは誰か

鷹取 敦

掲載月日:2012年7月9日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 NHK・ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」シリーズは、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故後の放射能汚染の実態を粘り強く取材し、様々な角度から伝える番組として高く評価されている。

 月刊マスコミ市民「放送を語る会 談話室」によると、今年4月、このETV特集班のプロデューサーとディレクターが、口頭での「厳重注意」、もう1人のディレクターが「注意」を受けていたことが明らかになったという。

「厳重注意」を受けるべきは誰か
〜NHK「ETV特集」スタッフへの「注意処分」を考える〜
http://www.geocities.jp/hoso_katarukai/masukomisimin.html

 厳重注意の理由は、番組の制作記録として刊行した単行本「ホットスポット」に執筆者がNHKが禁じていた30キロ圏内の取材を行った事実を公表したこと、原発報道についてNHKの他部局を批判したこと、などだったということである。

 「ネットワークでつくる放射能汚染地図」では、浪江町赤宇木が高い放射線量であることを知らずに、その地にある集会所に「避難」していた住民を取材中に発見し、取材スタッフを通じてその地域が高い放射線量であることを知った住民が避難するきっかけとなったのである。番組中では、集会所の外は80μSv/h、中は20μSv/hと報じられている。

 SPEEDIや現地調査から線量の高い地域を把握していたはずの国からも自治体からも避難指示も情報もなく取り残された人達が避難できたのはこの取材があったからであり、特集が放映される日までその事実が広く知らされなかったのはNHKの報道姿勢の責任にある。

 NHKが、30キロ圏内の取材を禁じていたのは、おそらく取材者の被ばくを回避するためだったのだろうが、現に事故対応の作業員や30キロ圏内の放射線量率調査が実施され続けていたことからも分かるように、仕事として30キロ圏内に出入りしていた人はいるし、呼吸や食べ物経由での被ばくを適切に避ければ、取材などのように限られた時間の滞在であれば、積算線量も限定的である。

 取材者が専門家を伴ってリスクを理解して取材に入り、それが30キロ圏内に取り残された人達を結果として救い出し、国や自治体の対応が不適切であることを明らかにしたことは、報道として本来なすべきことをしたのである。その報道を通じて30キロ圏に入ったことを明らかにしたことは褒められこそすれ、厳重注意されるようなことではないはずだ。他部局を批判することがあっても、それはNHKの内部に意見の違いが存在することが許され、さらにいえば自浄能力があることを示すものであって、批判されることではない。

 局内を同じ論調で染め上げ、視聴者に同じ意見を持つよう仕向ける報道こそ、厳重注意の対象となるべきである。たとえば災害がれきの広域処理に対するNHKの報道こそが、客観的な事実を伝えずに視聴者を情緒的に1つの方向に向けようとする、厳重注意されるべき報道なのではないだろうか。