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新潟県知事の再質問を読んで

鷹取 敦

掲載月日:2012年5月29日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 新潟県の泉田知事が災害がれきの広域処理について環境省に再質問を出した。

 当初の質問と環境省からの回答が新潟県のウェブサイトに掲載されている。これは広域処理の必要性、放射能対策の妥当性についての具体的な根拠、説明を迫るものであるのに対して、環境省は従来から行っている説明の繰り返しであり、まともに質問に答えてない。
■災害廃棄物の広域処理の必要性及び放射能対策に関する
 質問について(回答)

http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/352/746/0511kaitou.pdf

 環境省が泉田知事の質問に真摯に答えようとしないことから提出された再質問が以下のものである。(E-wave Tokyoへの転載へのリンク)
■東日本大震災により生じた災害廃棄物の放射能対策及び
 広域処理の必要性に関する再質問について

http://eritokyo.jp/independent/aoyama-democ1505a..html

■放射性物質の管理の原則の転換について

 放射性物質についての従来の規制はきわめて厳しかった。柏崎刈羽原発を有す
る新潟県としてはそれを熟知しており、それを前提としてこれまで原発の稼働を受け入れてきたという経緯がある。

 それに対して広域処理に関する(非公開の)災害廃棄物安全評価検討会での議論とそれを踏まえた議論では、この考え方を踏襲していない。泉田知事の再質問ではそのような考え方の転換の決定に至る議論の議事録等を求めている。また災害廃棄物安全評価検討会が非公開で開催された理由を環境大臣が「不安をあおる」と説明したことにも疑問を呈している。


■政策決定過程のあり方の問題

 災害廃棄物安全評価検討会は非公開で開催されており、公開されていたのは配付資料の一部と議事要旨だけだった。筆者が繰り返し議事録の開示請求を行い、福島みずほ議員からの質問主意書と国会質問、東京新聞での指摘の後、半年以上たってようやく一部の会議の議事録を公開し、次回(第13回)の検討会を公開としたものの、おどろいたことに傍聴時の録音を禁止している。また配付資料も「委員限り」として非公開の資料があったが、筆者が開示請求を行ったところ、先日環境省のウェブに掲載された。粘り強く請求を続けなければ最低限出すべき資料さえまともに公開されないのである。

 このように重要な議論の公開に極めて消極的な環境省の議論に泉田知事が不信を持ち、疑問をつきつけているのは当然である。そもそも泉田知事が指摘する重要な転換が災害廃棄物安全評価検討会で議論された形跡がない。


■自治体の体制の課題について

 泉田知事の再質問では自治体に放射性物質を扱う専門職員がいないこと、それを改善するための国の措置がないことを指摘している。これは広域処理以前に、昨年3月以来、東日本の自治体が放射性物質で汚染されている廃棄物や下水汚泥の扱いに苦労していることからも重要な観点である。この点について環境省は自治体まかせで必要な支援をしてこなかったということである。放射性物質の取り扱いの経験もなく教育も訓練も受けていない自治体にまかせるのではなく、従来の放射性物質の管理の考え方を踏襲し、国が責任を持って集中一元管理するべきと知事は指摘している。


■技術的な課題について

 技術的な面について知事は、災害廃棄物安全評価検討会で議論されている内容について、1つ1つ具体的な点に疑問点を列挙している。つまり検討会の議論が不十分ではないかと指摘しているのである。そもそもこの検討会が公開で、その議論に関係する自治体が参加できていれば、議論の段階でこのような疑問は解消され、より合理的に合意形成ができていたはずである。政策決定過程の透明性、参加が重要だというのは、その方がより合理的な結論を得ることができ、政策の実施が円滑になるからだ。そのことが泉田知事の質問をみてもよく分かる。


■必要性の根拠について

 再質問では、広域処理の必要性についても量およびコストの面から疑問を呈している。先日、岩手県、宮城県の災害廃棄物の総量の見直し(当初の推計量が過大だったこと、岩手県で土砂を災害廃棄物に含めることとしたことなど)が行われ、環境省からそれを踏まえた資料が公表されている。

 筆者がこの資料を精査したところ、必要性を検証できるような重要な数値が掲載されていなかった。広域処理希望量の内訳はある程度の数値は掲載されているものの、全体の内訳の数値、個別自治体毎の内訳の数値、地元処理・広域処理も含めた処理施設の能力等の数値がないため、ほんとうにどの程度広域処理が必要か確認することができないのである。仮に広域処理が必要だとしても、それによって何ヶ月処理が短縮できるのか、という観点も重要である。国が決めた期限を1ヶ月でもすぎれば国の支援が受けられないという前提がそもそもおかしいのである。泉田知事もこのような点に疑問を持っているようである。


■環境省のおそまつな対応

 対する環境省の「広域処理情報サイト」をみると、きわめておそまつである。細野大臣の「がれきの広域処理に関する情報をオープンにしていきます。」と題した動画を掲載し、「がれき処理データサイト」を開設したものの、内容は従来と変わらないのである。必要性が検証できる数値は全くなく、安全であると強調するばかりでその具体的な根拠は示されていない。市町村ごとがれきの種類毎に1〜数データずつの放射性物質の濃度データが示されており、引き受け自治体・施設が列挙されているだけである。サイトのつくりからみて、サイト構築には時間とお金をかけていることは推察される。

 環境省は政策形成とその遂行のためになにが重要であるか、というきわめて基本的な点も、広域処理に疑問を呈している国民や自治体から、どのような問題点を指摘されているのか、それにどう対応していくべきか全く理解していない。泉田知事が国に不信を持つのは当然であるし、その質問内容はきわめて合理的で現実的なものである。国は単に質問に回答するというだけでなく、これに真摯に応えて政策に反映すべきである。