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平成24年(2012年)4月17日の官報に「東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理に関する基準等」が掲載された。(本稿では以後「広域処理基準」と表記する。) ■パブリックコメントもなく定められた広域処理基準 先日、環境省が実施したパブリックコメントの問題点を指摘したが、今回の広域処理に関する基準についてはパブリックコメントが行われた形跡すらない。
広域処理については全国的に不安の声が上がり、環境省が昨年度9億円、今年度15億円もかけてキャンペーンを行っても、受け入れを表明する自治体は出てきたものの、全体としてはむしろ混乱が増すばかりである。 混乱のそもそのも原因は環境省の不透明なやり方にあるとこれまで指摘してきたが、今回の官報に掲載された広域処理基準についてパブリックコメントが行われてないことにもそれが表れている。 どのような災害廃棄物(がれき)をどのように検査してどのような基準で処理をすれば安心・安全か、不安に感じている人たちの意見も聞かずに一方的に基準を決めてもそれが安全だと信頼されないであろうことは目に見えている。きちんと透明性と参加をもって合意形成することが、信頼獲得のために不可欠であるとの認識は環境省には無いようだ。意見を聞くと「さわぎになる」から避けたのだろうが逆効果である。 ■広域処理基準の内容と問題点 告示された「広域処理基準」は、焼却する場合、再生利用する場合、焼却せずに埋め立てる場合のそれぞれについて、
環境省に対して意見を述べる機会が設けられていないので、代わりにこので広域処理基準についてその内容を整理し問題点を指摘したい。 ●焼却する場合(受入基準) 焼却した場合に発生するばいじん、焼却灰等が8,000Bq/kgを下回るよう、「受け入れる災害廃棄物の平均的な放射能濃度」が「十分な安全率をもった」240Bq/kg以下(流動床式焼却炉の場合480Bq/kg)であることを「目安とする」とある。 ばいじんに含まれるセシウムの大半が浸出水に溶け出し(焼却灰からは5%程度)、浸出水処理施設ではそれを除去できないことは、環境省の非公開検討会(災害廃棄物安全評価検討会)の資料でも示されており、国立環境研究所の研究者も指摘しているところである。それをふまえずに灰のレベルを8,000Bq/kgとしていることは一番の問題である。 また、受け入れるの目安として「平均的な」濃度が240Bq/kgとされているが、後で示す「安全性の確認方法」には、受入側でこのような確認をすることは定められていない。目安はあるが検査はしなくてよい、ということになる。(ちなみに焼却灰等については検査することになっているが月に1回だけなので「平均的な」濃度は把握されない。) 「十分な安全率をもった」という表記があるが、基準値を定める告示にこのような表現が通常使われない。一般に基準値というものはすべからく「十分な安全率をもって」定められるべきものであるから、ここにわざわざこのような表現を使う必要はない。 ●焼却する場合(処理の方法) バグフィルタ「等」を備えた施設で焼却すること、灰等は一般廃棄物の最終処分場で埋め立てることとされている。また、水面埋め立て地の陸域化した部分は陸上の最終処分場と同様、水面部分の投入は次の要件を適合していることを確認すること、とある。要件とは、埋め立て終了までに災害廃棄物から溶出すると考えられる放射線の総量が、埋め立て終了時の埋め立て地に残った水の総量に対して、一定の濃度(処分場周辺の濃度限度)以下であること、とされている。 大きな問題は、ばいじん、焼却灰等から浸出水に移行するセシウムに対する対応に全く言及していないことである。浸出水処理施設でこれにどう対処するかについて述べられていない。さらに水面埋め立て地のうち水面部分への投入については、残った水の量に対する溶出量の割合で評価する、など何の意味があるのであろうか。 「溶出すると考えられる」と記載されているからには溶出することを承知しているということになるが、どの程度溶出するのかどのように算出すればいいのか示されていないし、溶出したセシウムが埋め立てに伴い排除される水とともに外に出て行く総量に対する記述もない。溶出に言及しているものの、有効な対策は示されず、何を意図しているのか分からない。 ●焼却する場合(安全性の確認方法) 搬出側(一次仮置場、二次仮置場)、受入側についてそれぞれ安全性の確認方法が示されている。搬出側における安全性の確認方法については、焼却、再生利用、焼却せずに埋め立てする場合の区別はない。 一次仮置場では種類毎に放射能濃度を測定し基準に適合しているかを確認する。二次仮置場では災害廃棄物の周辺の放射線量とバックグラウンドのそれを比較し有意に高くないことを確認する。 一次仮置場については「種類毎」とあるが、どの程度の量ごとに測定すれば代表性があるのか、サンプルの取り方、頻度、回数等について示されていない。がれきの山の上の方と下の方、もともとあった状況によって汚染の種類と程度が異なる可能性がある。また、基準とも関わるが放射性物質以外についても検査は行われない。再生利用も埋め立ても放射性物質以外の有害物質についてなんの言及も配慮もない。 二次仮置場については、バックグラウンドとの比較しかしていない。具体的な測定方法(距離等)が示されていないのも問題であるが、そもそもバックグラウンドとの比較だけで把握できるような汚染が、広域処理の対象となる災害廃棄物に付着していると環境省は考えていないのであるから、形式だけの検査ということである。 受入側では、焼却灰等の測定を1月に1回程度、排ガス濃度を1月に1回程度、処分場の敷地境界で7日に1回程度、水面埋め立て地では内水を1月に1回程度測定することとされている。 廃棄物の性状やそれが発生した場所の状況は様々であるから、1月に1回程度の検査で、「平均的な」汚染の状況が把握できるはずもない。受入基準として「平均的な」としているにも関わらず、安全性の確認で平均的な状況の把握が求められていないのでは意味がない。できるだけ多数のサンプルを取って、そのばらつきも含めて把握することでようやく汚染の全体像(汚染されていないかどうかも含めて)が見えてくるのであり、物質収支等を計算するに耐えるデータを蓄積することで近隣住民の安心・信頼も得られるはずである。 そもそも排ガスについては基準が定められていない。広域処理基準で独自に定めない場合でも、他の法律等で定められている基準等を参照するべきであり、このままでは測定はしたものの評価はしない、ということになる。 処分場については、中で作業員が働いているのであるから、週に1回敷地境界で測るだけでは不十分で、常に作業員の積算線量を把握する必要がある。 ●再生利用する場合(受入基準・処理の方法) 再生利用する場合には、「製品の平均的な放射能濃度が」100Bq/kg以下と定められている。100Bq/kgはいわゆる従来のクリアランスレベルである。 ここで「平均的な濃度」として定められている点が問題である。平均値が100Bq/kgを下回ればよい、ということであれば、100Bq/kgを大きく上回る製品がまれに混入していても問題ない、ということになる。実際にそのようなことが生じるかどうかは別として、これでは国民の安心と信頼が得られるとは思えない。 そもそも汚染されていないものと「混ぜて」「薄めれば」どんななものでもクリアランスレベル(100Bq/kg)を下回る。総量が変わらなくても薄めればよい、ということにもなる。 ●再利用する場合(安全性の確認方法) 仮置場における検査は焼却の場合と同じである。 分別、破砕等で均質化された災害廃棄物の放射能を1月に1回測定、燃焼を伴う場合には排ガスを1月に1回測定するとある。 1月に1回の測定では不十分であり、ばらつきも含めた汚染の全体像を把握してこそ、安心と信頼を得られるということ、排ガスを測っても基準がないことは、焼却で指摘したとおりである。 ●焼却せずに埋め立てる場合(受入基準) 焼却せずに埋め立てる場合には、平均的な放射能濃度が8,000Bq/kgを下回ること。「なお、広域処理の対象となる災害廃棄物の実際の放射能濃度は、不検出から数百ベクレル毎キログラム程度までの範囲であり、この基準を十分に満足するものである。」とされている。 「平均的な濃度」でよいかどうかは、再生利用の場合に指摘したとおりであるが、「なお」以降の記述は告示としては異様ですらある。個別に検査しなければ実際どうであるか分からないのはもちろんのこと、基準を定める告示に、このような結論めいたことが書くべきではないし、他に見たことがない。「安全である」ことを強調したいのであろうが、却って信頼を損なう結果となっている。安全性については個別に調べて科学的に示す以外にはない。 ●焼却せずに埋め立てる場合(処理の方法) 必要に応じ分別、破砕等の処理をして一般廃棄物の最終処分場にて埋め立て処分を行うこと、とある。 通常の一般廃棄物と同じでよい、とされているに過ぎない。 ●焼却せずに埋め立てる場合(安全性の確認方法) 仮置場における検査は焼却の場合と同じである。 埋め立て前の災害廃棄物の放射能濃度を1月に1回測定、敷地境界で7日間に1回測定するとあり、焼却、再利用で述べたことと同じ問題がある。 以上のように今回告示された広域処理基準には問題点が多々ある、これを定めることで、受入自治体やその住民は安心するどころか、かえって不信と不安を深めるのではないだろうか。 |