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環境省の異様なパブリックコメント
〜警戒区域等解除地域の
廃棄物処理の課題〜

鷹取 敦

掲載月日:2012年4月10日
 独立系メディア E−wave 無断転載禁


 近年、行政機関は法律、条例の改正、政省令の改正等を行う際に、パブリックコメントと称して、一般から広く意見を募集している。パブリックコメントに寄せられた意見が実際の法改正等に反映されているか、という問題はあるものの、通常は1ヶ月程度の期間、意見を提出する期間が設けられ、誰でも意見を述べる機会がある。

 環境省は下記のサイトにパブリックコメントの一覧を掲載している。
環境省>お知らせ>パブリックコメント
http://www.env.go.jp/info/iken.html
(2012年4月10日現在の掲載内容を保存したウェブ魚拓)
http://megalodon.jp/2012-0410-1014-54/www.env.go.jp/info/iken.html

■わずか1週間の意見募集

 これをみるとどれもおおむね1ヶ月間の募集期間であることが分かる。ただしこの中で平成24年4月3日(火)に公表された「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見の募集(パブリックコメント)について」は締め切り日が平成24年4月9日(月)となっている。つまりわずか1週間足らずの募集期間であり異常な短さである。

 詳しい募集内容は下記に掲載されている。これは「放射性物質汚染対処特措法施行規則」を改正するにあたりその案に対する意見を募集したものである。(改正案の内容の解説の問題点は後で述べる。)
環境省>報道発表資料>放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=15080
(2012年4月10日現在の掲載内容を保存したウェブ魚拓)
http://megalodon.jp/2012-0410-1015-33/www.env.go.jp/press/press.php?serial=15080
 ちなみに「施行規則」とは法律本文に定めていない詳細な点を省庁が決めたものである。いわば国会に諮らずに行政の裁量で「勝手に」決めることができる仕組みである。省庁が決めることから「省令」と呼ばれる。(内閣が決めるものは施工令=政令という)

 パブリックコメントが出されているかどうか、毎日、各省庁のサイトを確認している人はごくまれであろう。1週間しか募集期間がないということは、気がついたら終わっていたとか、気がついたら数日しかなくて、まともに検討する時間がなかったということになってしまう。

 なぜこのように短い期間の募集なのか、添付資料として「意見提出が30日未満の場合のその理由[PDF 51KB]」掲載されている。短いので下記に全文を示す。

http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=19677&hou_id=15080
意見提出が30日未満の場合のその理由

 今般、平成23年12月26日の原子力災害対策本部決定「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」に基づき、警戒区域・計画的避難区域(以下「警戒区域等」という。)の避難指示が見直されることとなっています。これにより、警戒区域等内の空間
線量の低い地域では、警戒区域等の解除前でも事業活動が再開され、相当量の廃棄物が生ずることが想定されます。

 再開された事業活動に伴い生ずる廃棄物を対策地域内廃棄物として国が処理した場合、汚染廃棄物対策地域外の事業者との競争上の不公平が生ずることが考えられます。このため、このような公平が生ずることのないよう、避難指示見直しにあわせて、早急に対応することが必要となっています。

 したがって、本件意見提出については、行政手続法(平成5年法律第88 号)第40 条第1項の規定に基づき、必要最小限の期間を設定して、あらかじめ意見の募集を行うこととしたものです。


 要するに、警戒区域見直しが目前で、解除前にも事業活動が再開されて廃棄物が生じ、その処理を国が行うと対策地域外と比較して不公平になるので、急いで見直します、ということである。

 改正の内容の問題点は後で述べるが、必要な改正であればもっと早期に対応すべきであったし、1ヶ月のパブリックコメントを1週間に短縮しなければならないほどの緊急性があるとは思えない。警戒区域内の廃棄物の処理の問題は、きわめて重要な問題であり、国民の関心事も高いことは明白なのであるから、むしろ形式的なパブリックコメントでは不足であり、環境省の裁量で決められる小手先の省令改正で対応するような問題ではない。丁寧な合意形成を行う必要がある。


■肝心の条文が示されていない

 1週間の短い期間に間に合ってなんとか意見を述べようとした場合に検討が必要なのは、施行規則の改正案、つまり具体的な条文である。しかし添付資料にはこれが掲載されていない。掲載されているのは「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案について[PDF 66KB]」という改正の経緯と内容をごく簡単に説明したもののみである。

 これも短いので本文を全文掲載する。

http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=19676&hou_id=15080
放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案について

1.改正の経緯
◯ 今般、平成23年12月26日の原子力災害対策本部決定1に基づき、警戒区域・計画的避難区域(以下「警戒区域等」という。)の避難指示が見直されることから、警戒区域等内の空間線量の低い地域では、警戒区域等の解除前でも事業活動が再開され、相当量の廃棄物が生ずることが想定される。
◯ 再開された事業活動に伴い生ずる廃棄物を対策地域内廃棄物として国が処理を行った場合、汚染廃棄物対策地域外の事業者との競争上の不公平が生ずることが考えられる。このため、不公平が生ずることのないよう対応が必要となっている。

2.改正の内容
◯ 事業活動に伴い生じた廃棄物については、対策地域内廃棄物から除外し、当該廃棄物を排出した事業者が、事業系一般廃棄物又は産業廃棄物として、自ら処理を行うこととする。
◯ ただし、国又は地方公共団体が施行する災害復旧事業(道路復旧事業等)については、特に迅速に進める必要があることから、当該災害復旧事業に伴い生じた廃棄物は、国が対策地域内廃棄物として処理を行う。


 簡単にいえば、今後警戒区域等が解除される地域内で生じた廃棄物は「対策地域内廃棄物」から除外し事業者が通常の廃棄物と同様に自ら処理する(ただし災害復旧事業は除く)というものである。

 ここで誰もが疑問に思い知りたいと思うのは、放射性物質による汚染の扱いはどうなるのだろうか、という点であろう。これについて上記には一切示されていない。具体的な条文(案)を確認しようにもそもそも条文(案)が示されていないのである。


■環境省に資料を取りに行かなければならない?

 どこかに条文(案)があるはずだと、募集ページに戻ってみると、下記のように掲載されていることが分かる。
(1)環境省ホームページのパブリックコメント欄(http://www.env.go.jp/info/iken.html)を参照
(2)環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課にて配布
(東京都千代田区霞が関1−2−2 中央合同庁舎5号館26階)
(3)郵送による入手
 郵送により入手を希望する場合は、返送先を宛名に明記し200円切手を貼付した返信用封筒(A4版が入るもの)を同封し、意見提出先まで送付してください。

 パブリックコメント欄の方には下記のようにある。
公表資料の入手方法
・窓口(廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課)配付
・郵送

 つまり、必要な資料は(わずか1週間しか募集期間がないのに!)環境省の窓口に行くか郵送で請求しなければならないと読める。どんなに分厚い資料(おそらく条文案も含まれているのだろう)が渡されるのだろうと、環境省の窓口に取りに行った人がいるが、その人に渡されたのはウェブに掲載されているものと全く同一の2つの資料だけだったそうである。

 パブリックコメント募集が行われていることを知ることが出来るのは主にインターネットなのに、わざわざ窓口に出向いたり郵送で申し込んだ資料とインターネットに掲載されている資料が同一だと、誰が思うのであろうか。きわめて非常識な案内という他はない。


■改正案の問題点

 今回の改正の背景に、2012年1月1日に全面施行された「放射性物質汚染対処特別措置法」(以下、特措法)により、対策地域内の廃棄物は「対策地域内廃棄物」として指定され、国が直轄で処理すること、とされてきたことがある。

 特措法の例外規定として、警戒区域・計画的避難指示区域が解除された後は、災害復旧事業によって生じたものか、事業によって生じたものであるか等により、特措法の指定廃棄物もしくは通常の廃棄物(廃掃法の特定一般・産業廃棄物、一般・産業廃棄物等)となる、と定められている。

 汚泥発生施設、廃棄物焼却施設等には、特措法で廃棄物の放射能検査が義務づけられ、8000Bq/kgを超えた場合には指定廃棄物になるが、それ以外の施設については義務づけられていない

 任意で調査し超えた場合に申請することは可能で、指定廃棄物となれば国が処理することになるが、調査は上記2施設以外では義務ではないので、手間のかかる調査せずに処理してしまうことも可能である。地域指定が解除された地域とはいえ、他の地域よりも汚染の程度が高い地域が多いことから、この例外規定は大きな問題であり、国民が心配するところではないだろうか。

 今回の改正は、地域指定解除以前からこの例外規定を当てはめようとするものであるように読み取れる。実態として解除以前から事業者が解除に備えて地域に入り、事業活動を開始しているので、一刻も早く例外規定を当てはめ、調査なしに、事業者負担で処理をさせよう、というものである。

 そもそも警戒区域内等の事業者は原発事故の影響により多大な負担を損害を受けている。そのような事業者にも処理費用を負担させることが「公平」であるという発想がそもそもおかしい。それをパブリックコメントを1週間に短縮してまで急がなければならない理由がどこにあるのであろうか。

 この改正によって前倒しされる例外規定の問題、つまり事業活動に伴って排出される廃棄物は調査もせずに、ふつうの一廃、産廃等と同様に処理・処分できてしまう、という問題こそ、国民的な公開の議論を経て正していかなければならない。