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近年、行政機関は法律、条例の改正、政省令の改正等を行う際に、パブリックコメントと称して、一般から広く意見を募集している。パブリックコメントに寄せられた意見が実際の法改正等に反映されているか、という問題はあるものの、通常は1ヶ月程度の期間、意見を提出する期間が設けられ、誰でも意見を述べる機会がある。 環境省は下記のサイトにパブリックコメントの一覧を掲載している。 環境省>お知らせ>パブリックコメント ■わずか1週間の意見募集 これをみるとどれもおおむね1ヶ月間の募集期間であることが分かる。ただしこの中で平成24年4月3日(火)に公表された「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見の募集(パブリックコメント)について」は締め切り日が平成24年4月9日(月)となっている。つまりわずか1週間足らずの募集期間であり異常な短さである。 詳しい募集内容は下記に掲載されている。これは「放射性物質汚染対処特措法施行規則」を改正するにあたりその案に対する意見を募集したものである。(改正案の内容の解説の問題点は後で述べる。) 環境省>報道発表資料>放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)ちなみに「施行規則」とは法律本文に定めていない詳細な点を省庁が決めたものである。いわば国会に諮らずに行政の裁量で「勝手に」決めることができる仕組みである。省庁が決めることから「省令」と呼ばれる。(内閣が決めるものは施工令=政令という) パブリックコメントが出されているかどうか、毎日、各省庁のサイトを確認している人はごくまれであろう。1週間しか募集期間がないということは、気がついたら終わっていたとか、気がついたら数日しかなくて、まともに検討する時間がなかったということになってしまう。 なぜこのように短い期間の募集なのか、添付資料として「意見提出が30日未満の場合のその理由[PDF 51KB]」掲載されている。短いので下記に全文を示す。
要するに、警戒区域見直しが目前で、解除前にも事業活動が再開されて廃棄物が生じ、その処理を国が行うと対策地域外と比較して不公平になるので、急いで見直します、ということである。 改正の内容の問題点は後で述べるが、必要な改正であればもっと早期に対応すべきであったし、1ヶ月のパブリックコメントを1週間に短縮しなければならないほどの緊急性があるとは思えない。警戒区域内の廃棄物の処理の問題は、きわめて重要な問題であり、国民の関心事も高いことは明白なのであるから、むしろ形式的なパブリックコメントでは不足であり、環境省の裁量で決められる小手先の省令改正で対応するような問題ではない。丁寧な合意形成を行う必要がある。 ■肝心の条文が示されていない 1週間の短い期間に間に合ってなんとか意見を述べようとした場合に検討が必要なのは、施行規則の改正案、つまり具体的な条文である。しかし添付資料にはこれが掲載されていない。掲載されているのは「放射性物質汚染対処特措法施行規則改正案について[PDF 66KB]」という改正の経緯と内容をごく簡単に説明したもののみである。 これも短いので本文を全文掲載する。
簡単にいえば、今後警戒区域等が解除される地域内で生じた廃棄物は「対策地域内廃棄物」から除外し事業者が通常の廃棄物と同様に自ら処理する(ただし災害復旧事業は除く)というものである。 ここで誰もが疑問に思い知りたいと思うのは、放射性物質による汚染の扱いはどうなるのだろうか、という点であろう。これについて上記には一切示されていない。具体的な条文(案)を確認しようにもそもそも条文(案)が示されていないのである。 ■環境省に資料を取りに行かなければならない? どこかに条文(案)があるはずだと、募集ページに戻ってみると、下記のように掲載されていることが分かる。 (1)環境省ホームページのパブリックコメント欄(http://www.env.go.jp/info/iken.html)を参照 パブリックコメント欄の方には下記のようにある。 公表資料の入手方法 つまり、必要な資料は(わずか1週間しか募集期間がないのに!)環境省の窓口に行くか郵送で請求しなければならないと読める。どんなに分厚い資料(おそらく条文案も含まれているのだろう)が渡されるのだろうと、環境省の窓口に取りに行った人がいるが、その人に渡されたのはウェブに掲載されているものと全く同一の2つの資料だけだったそうである。 パブリックコメント募集が行われていることを知ることが出来るのは主にインターネットなのに、わざわざ窓口に出向いたり郵送で申し込んだ資料とインターネットに掲載されている資料が同一だと、誰が思うのであろうか。きわめて非常識な案内という他はない。 ■改正案の問題点 今回の改正の背景に、2012年1月1日に全面施行された「放射性物質汚染対処特別措置法」(以下、特措法)により、対策地域内の廃棄物は「対策地域内廃棄物」として指定され、国が直轄で処理すること、とされてきたことがある。 特措法の例外規定として、警戒区域・計画的避難指示区域が解除された後は、災害復旧事業によって生じたものか、事業によって生じたものであるか等により、特措法の指定廃棄物もしくは通常の廃棄物(廃掃法の特定一般・産業廃棄物、一般・産業廃棄物等)となる、と定められている。 汚泥発生施設、廃棄物焼却施設等には、特措法で廃棄物の放射能検査が義務づけられ、8000Bq/kgを超えた場合には指定廃棄物になるが、それ以外の施設については義務づけられていない 任意で調査し超えた場合に申請することは可能で、指定廃棄物となれば国が処理することになるが、調査は上記2施設以外では義務ではないので、手間のかかる調査せずに処理してしまうことも可能である。地域指定が解除された地域とはいえ、他の地域よりも汚染の程度が高い地域が多いことから、この例外規定は大きな問題であり、国民が心配するところではないだろうか。 今回の改正は、地域指定解除以前からこの例外規定を当てはめようとするものであるように読み取れる。実態として解除以前から事業者が解除に備えて地域に入り、事業活動を開始しているので、一刻も早く例外規定を当てはめ、調査なしに、事業者負担で処理をさせよう、というものである。 そもそも警戒区域内等の事業者は原発事故の影響により多大な負担を損害を受けている。そのような事業者にも処理費用を負担させることが「公平」であるという発想がそもそもおかしい。それをパブリックコメントを1週間に短縮してまで急がなければならない理由がどこにあるのであろうか。 この改正によって前倒しされる例外規定の問題、つまり事業活動に伴って排出される廃棄物は調査もせずに、ふつうの一廃、産廃等と同様に処理・処分できてしまう、という問題こそ、国民的な公開の議論を経て正していかなければならない。 |