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横須賀市の

新ごみ焼却炉計画問題

鷹取敦

掲載月日:2014年11月30日
 独立系メディア E−wave
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 2008年3月横須賀市と三浦市は「横須賀市三浦市ごみ処理広域化基本計画」を策定し、「ごみ処理の広域化」に取り組むこととした。この計画では、横須賀市にはごみ焼却炉(ストーカ式焼却炉、処理能力360t/日)と不燃ゴミの選別施設(30t/日)を、三浦市には最終処分場(57,500m3)を建設し、相互に利用することとされている。

★横須賀ごみ処理施設の整備(横須賀市)
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4240/shinngomisyorishisetuindex.html

 現在、横須賀市には、ごみ焼却施設として「南工場」(600t/日、1983年稼働)が久里浜港近くにある。この工場は劣化が進んでおり、また、横須賀市は不燃ゴミの最終処分場を持たず、県外の民間の処分場に埋め立てを委託していることが上記、広域化の理由であるという。

★横須賀市南処理工場(横須賀市)
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4260/s-syori/

 横須賀市では、廃プラスチック類は不燃ごみとして分別、収集されているが、新しいごみ焼却炉稼働後は、容器包装プラスチックについては現状通り各市がリサイクルのために収集するものの、それ以外の廃プラスチック類は可燃ごみに変更されるようである。

★4分別収集について(横須賀市)
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4220/g_info/l100000709.html

 横須賀市の「広域におけるごみ処理の基本フロー」には「不燃ごみ等選別施設から焼却施設にまわる可燃性残さには、現在は埋立処分しているプラスチック製のオモチャやバケツなどの廃プラスチック類が含まれます」と記載されている。

★広域におけるごみ処理の基本フロー(横須賀市)
http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4240/documents/huro.pdf

 廃プラ焼却の問題は、先日も下記に報告したとおりである。東京23区でも、所沢市でも廃プラ焼却を始めており、横須賀市もこれに続こうという流れがあるのは、交付金等で自治体の廃棄物政策を誘導している、国(環境省)が行っていることが循環型社会の形成とは逆行したものであることの現れであろう。

◆所沢市東部クリーンセンター周辺の松葉ダイオキシン調査(鷹取敦)
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col215.htm

 横須賀市の新ごみ焼却炉の建設予定地は、これまでの南工場の敷地やその隣接地域ではなく、山間部の地形の複雑な地域である。ここに煙突59mのごみ焼却炉が計画されている。


南工場と新工場の計画地(環境総合研究所作成)


新工場の周辺地形(環境総合研究所作成)

 地形が複雑な地域では、風の流れ、大気汚染の拡散が大きな影響を受け、地上における影響が大きくなることは、これまで繰り返し、検証、報告してきたとおりである。

 横須賀市の作成した環境影響評価書(環境アセスメント)はきわめて限られた条件において風洞実験を行い、平坦地形の場合との比を参考とするという手法をとっている。これでは複雑な地形の影響が正しく考慮できず、また地図上に地形を考慮した大気汚染の分布図も示されていない。

 また、予測の前提となる排ガス中について、横須賀市の環境アセスメントでは、計画目標値を用いている。稼働中に計画目標値以下に保つように維持管理を行うのは当然であるが、環境アセスメントでは、法律で義務づけられた値である、法規制値を用いるべきであろう。目標値はあくまでも目標であり、この数値を小さく想定するだけで、環境アセスメントで容易に影響が小さいという結果を出すことが可能となってしまうからである。

 環境総合研究所では、地域住民の方達に依頼され、第三者調査機関として、周辺地域における大気汚染のシミュレーション調査を委託され実施した。その際に上記で指摘した課題に対応するため、地形の影響を考慮する予測モデルを用い、排ガス中大気汚染物質濃度としては法規制値あるいは、全国の焼却炉の実態を踏まえた「安全側」(影響が大きく出る場合を想定した値)を想定した。

 本日(2014年11月30日)、横須賀市内において、上記調査の報告を行った。ごみ焼却と汚染に関わる問題、日本の実態、廃プラ焼却の問題、環境大気中ダイオキシン類濃度調査、松葉を用いた市民参加の調査等について説明した後、シミュレーション調査の方法、前提条件、結果等について地図上にわかりやすく分布図を示し解説を行った。さらにごみ焼却処理の代替案としてのゼロウェイストの取組について紹介した。

 終了後には活発な質疑、議論が行われた。まだまだこの問題についての関心が市民の間で十分に高まっているとは言えないが、単なる環境リスクの問題、シミュレーションの技術的な課題についての問題にとどまらず、私たちの生活とごみの問題、税金の使途の問題、政策決定のあり方問題としての議論が深まった。