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輸出型大企業には
痛くもかゆくもない消費税アップ

鷹取敦

掲載月日:2012年5月8日
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 衆議院本会議で、消費税率の引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革関連法案の審議が本日(2012年5月8日)始まる。

 ところで消費税については、いわゆる「益税」問題とともに、以前から指摘されている輸出企業に関わる問題がある。「輸出免税」とも「輸出戻し税」とも呼ばれる問題である。いずれも消費税が、消費者が支払う税とされ、それを事業者が預かって代わりに納付する、という建前を取っていることによって生じる問題である。

 まず消費税がどのように納付されているか整理したい。消費税は100億円+5億円(税)を売り上げた事業者が5億円を直接納付するわけではない。仕入れ・経費の中に消費税が含まれているから5億円を納付すると二重払いになるからである。たとえば単純に50億円が仕入れ・経費だとすると仕入れ・経費の支払いの税込み額は52.5億円(うち2.5億円が消費税)ということになる。事業者はすでに2.5億円の消費税を負担しているから、自ら納付する消費税は5億円−2.5億円=2.5億円ということになる。

 納付額=売上高にかかる税額−仕入・経費等にかかる額

ということである。

 上記の例が輸出企業だったとしよう。輸出企業は輸出分の売り上げについては、国内で消費されるものではなので消費税が適用されないことからこの分の直接納付は0円である。直接納付が0円だとしても仕入れ・経費に含まれる2.5億円の消費税を支払っている。輸出分は「消費者から預かって」いないことから、これを「戻す」というのが「輸出戻し税」の考え方である。

 「輸出戻し税」の還付を受けられるのは、直接輸出を行う企業だけである。輸出関連企業であっても、いわゆる下請け企業、つまり輸出企業に部品を納入している企業は還付を受けられない。支払い代金に含まれる消費税を受け取って、自らの仕入れと直接納付により消費税を支払う必要がある。

 それでは輸出企業は「輸出戻し税」としてどれほどの還付を受けているのであろうか。

 帝国データバンクのデータ(2011年8月15日資料)によると国内に「輸出企業」は3万社あり、そのうち年商100億円以上の大企業が3443社ある。

■ 「輸出企業」の実態調査(帝国データバンク)
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p110806.pdf

 業種別では製造業が約45%、卸売業が約43%とこの2つの業種がほとんどである。製造業の細かい分類をみると「一般機械」が3809社でトップ、自動車関連(529社)を含む「輸送用機械」も688社を占める。

 これだけみると自動車関連メーカーの割合は小さいように見える。ところが、還付金の総額でみると違った姿が見えてくる。2010年の「消費税還付金上位10社」を下記より引用する。

■消費税還付金 10社に8700億円 こんな不公平許せない=湖東京至税理士試算(全商連)
http://www.zenshoren.or.jp/zeikin/shouhi/111212-01/111212.html

 1位:トヨタ自動車(株) 2,246億円
 2位:ソニー(株) 1,116億円
 3位:日産自動車(株) 987億円
 4位:(株)東芝 753億円
 5位:キヤノン(株) 749億円
 6位:本田技研工業(株) 711億円
 7位:パナソニック(株) 633億円
 8位:マツダ(株) 618億円
 9位:三菱自動車(株) 539億円
 10位:新日本製鉄(株) 346億円


 上位10社の合計が8,698億円である。ちなみに同資料によるとトヨタの還付金の5年間の合計は1兆3,009億円にも上る。

 これらの輸出企業は輸出の売り上げについては、一切の消費税を仕入れ等にかかる分も含めて負担しなくてよいから上記のような巨額な還付を受けられるのである。一般の国民、企業(輸出企業の下請けも含め)が消費税を負担し、今後の増税の負担をしていかなければならない中、上記に列挙されたような大企業は増税の負担を分かち合うことはない。消費税増税は痛くもかゆくもないのである。

 消費税導入より以前、中曽根政権の時に売上税導入に失敗している。この時の売上税がどういう仕組みだったかは別として、売上税が売り上げにかかるもの、つまり事業者が負担すべきものであれば、「輸出戻し税」のような仕組みは発生しない。売り上げに対する課税であり輸出企業が仕入れ等に払うのは製品の代金であって税ではないからである。これを消費者から預かった税を事業者が代わって納付する、という仕組みとしたから「益税」や「輸出戻し税」のような問題が発生したのである。消費税導入の際に、輸出企業の利害を考えてこのような仕組みとしたのでないだろうか。

 消費税増税議論以前に、税負担の考え方を消費者負担(消費税)から、事業者負担(つまり売り上げにかかる税)に変えるだけで、大きな税収増が期待される。もっとも輸出企業は組み立て工場を海外に移し、部品を供給する下請け事業者まで海外移転を始めているので、早晩減少することが予測されるが、まずは輸出企業にとって増税が痛くもかゆくもない現在の仕組みを改め、税負担の公平感を高めることが必要であろう。