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8月11日、2つの異なる地域の異なったタイプの「焼却炉」に関するニュースが報じられた。1つは愛知県春日井市に建設された産廃焼却炉、もう1つは東京都板橋区に建設されたペットの火葬炉である。
いずれも環境総合研究所が仮処分、裁判において、第三者として大気汚染の影響に関わる調査、意見書等が求められ、これらを通じて筆者が関わった「事件」である。 ■春日井の産廃焼却炉問題 春日井の産廃焼却炉では、下記のとおり事業者である名成産業が、愛知県の設置許可取り消しに対して取り消し訴訟を行わず操業断念することが報じられた。 産廃処理施設「10年来の不安解消」 名成産業操業断念、地元には安堵の声(中日新聞 8/12)この問題については、以前に下記のコラムで紹介したので、経緯等はこちらをごらんいただきたい。 ◆鷹取敦・春日井市の産廃処理施・設許可取り消しへ〜問われる司法〜簡単に言えば、計画の段階から地元の反対があり、住民や専門家を巻き込んだ議論に発展したものの決裂し、焼却施設が建設・操業される一方で、裁判所では建設差し止め、操業差し止め処分を求める仮処分・裁判が争われた。裁判では差し止めに至らなかったものの、実際に建設された焼却炉には問題が多く、愛知県から度重なる改善命令の末についに設置許可取消処分に至ったという問題である。 記事にあるように、事業者である名成産業は処分取り消しを求めず、操業を断念することとなった。 ■板橋区のペット火葬炉問題 春日井のペット火葬炉では、下記の記事のとおり、使用禁止の仮処分を受けたペット火葬炉を使用した場合、住民に対して1人3万円を支払わせる「間接強制」の決定を東京地裁が行った。これは事業者が仮処分決定後に「試運転」と称して炉を使用したことから住民が地裁に申し立てていたものである。 「住宅地のペット火葬場使用なら罰金…東京地裁」(読売新聞 8/11) この問題については、以前に下記のコラムで紹介したので、経緯等はこちらをごらんいただきたい。 ◆鷹取敦・ペット火葬場に差し止めの仮処分 これは、地形の複雑な住宅密集地のペット葬祭場への火葬炉の建設計画に対して、周辺住民から強い反対の声があがり、自治体をまきこみ、条例の改正まで行われたものの、既存の計画には遡って適用されないため、建設差し止め、操業差し止めを求める仮処分が争われ、専門家の意見書等が提出された。仮処分の最中に焼却炉が操業され、地域の大気汚染への影響が実際に生じたことも事業者(被告)に不利な証拠となり、仮処分では施設の使用禁止の決定が行われ、その後、事業者が申し立てた不服も却下されていた。 こちらは、その後、事業者が裁判所の使用禁止の決定に反して「試運転」と称して、火葬炉(焼却炉)を使用し、あくまでも本裁判で争う姿勢を見せているものと思われた。裁判所は実力で使用を阻止することは出来ないことから、「間接」的に仮処分の決定を「強制」する手段(間接強制)として、火葬炉を再使用した場合には、住民ら19人に対して、1日あたり1人3万円を支払わせる決定をした。 「間接強制」は、以前に日の出の廃棄物最終処分場の「データ隠し」に対して、裁判所が事業者に、住民に対してデータを開示するまで、毎日「間接強制金」を支払うように命じたことでも知られている。 仮処分中の操業といい、使用禁止の決定後の「試運転」といい、事業者は住民の要望、自治体との協議、裁判所の決定に反した行為を行い、結果として自らに不利な「立証」をし、不利な状況を作っているかのように見える。 ■共通する問題 春日井の産廃事業者は事業断念、板橋区のペット火葬場はあくまでも事業継続に向けた姿勢を示しているという点では正反対である。また、春日井の事業者は仮にも当初は住民との間で公開された集会を持ち話し合いの姿勢をみせ、愛知県の指導にも従ってきたのに対し、板橋区の事業者は対照的な姿勢をみせている。 共通するのは、いずれも施設が操業されて炉の問題が露呈するまで、計画・操業を止めることが出来なかったことにある。適切な土地利用への配慮を実現する都市計画、土地利用計画や、焼却炉、火葬場に対する適切な規制等を通じて、地域の環境への影響を予め最小限にとどめるためには、法制度およびその運用において不十分な点があったということである。 それにもかかわらず、いずれの地域でも周辺住民が地域の環境、家族の健康を守るため、積極的に活動してきたことが、結果として問題が起こってしまった後ではあるが、なんとかそれを最小限に止めることにつながった例である。 しかし、操業以前に裁判所が適切なタイミングで適切な決定が出来なかったという問題は残る。他の多くの公害裁判等をみても、事前に被害、リスクの増加を防止する判決を得るのは難しく、影響、被害が出てからようやく少しは評価できる判決を得られることもある、というのが日本の実態である。 本来、住民にとっても、事業者にとっても、事前に問題を回避できるシステムが有効に機能する仕組みが必要なのではないだろうか。 |