|
|
以前に下記のコラムで発足会の内容を詳しく紹介した「生ごみ100%資源化をめざすプロジェクト」が開催した「日本における生ごみ堆肥化の進ちょく状況」と題する講演会・学習会に参加したので、その概要を紹介したい。 ◆池田こみち・鷹取敦:生ごみ100%資源化プロジェクト発足会参加記講師は、日本における生ごみ堆肥化の取り組みに詳しい会田節子氏(NPO法人有機農産物普及・堆肥化推進協会の事務局長)である。 東京都市大学環境情報学部、青山研究室の岡崎匠さんの司会で始まった。 司会:岡崎匠さん 主催者(生ごみ100%資源化をめざすプロジェクト)の共同代表の伊藤ゆきこ氏の挨拶、青木泰氏からのプロジェクトの経過報告が行われた。 伊藤ゆきこ氏 青木泰氏 青木氏によると、発足式の際に戸田市の取り組みについて講演を行った吉田義枝氏(戸田市環境クリーン室)を全国に紹介したのが、今回の講師である会田氏ということである。 会田氏の講演では、 山形県 長井市における取り組みが紹介された。 地域によって目的、方法、規模等が大きく異なる。ここでは会田氏の講演からり、それぞれの地域の取り組みの概要と特徴を紹介したい。 会田節子氏 ■山形県 長井市 日本における堆肥化の取り組みといえば長井市のレインボープランが、まず最初に挙げられるというくらい有名な取り組みである。 生ごみ堆肥化といえば、一般的にはごみの処理・資源化が目的と思われるが、レインボープランの取り組みは、「土のへたり」をいかにして回復し、農地を豊かにするか「土作り」が目的であるという。 土作りに使えるものとしては、もみがら、畜産から出る糞尿がある、人の糞尿はこの地域では下水の工業系の排水が流入しているため重金属等の問題があるため使えない。そこで生ごみを使おうということである。 1990年から7年間かけて町のあらゆる立場の人が参加して議論して、生ごみの堆肥化が開始され今年で13年になる。9000世帯のうち5000世帯が対象で、残りの4000世帯は生ごみを自家処理しているであるというから、生ごみ全く廃棄物にはなっていないことになる。 週2回、水切りした生ごみを専用のバケツに入れてステーションに持参し、委託業者が「レインボープラン・コンポストセンター」まで運び、ここで堆肥化される。堆肥の材料は生ごみ1000t、家畜の糞400t、もみがら400tである。 生ごみ堆肥を農業に使うときに一番問題になるのが異物の混入であり、これを取り除くためには台所で異物(輪ゴムやプラ袋の切れ端)を徹底して除去することが必要である。これが長井市では混入率が極めて低く1日1世帯あたりの異物は8gに過ぎないそうである。この堆肥で作られた農作物を自分たちが口にするのだという自覚、いいことをしているのだという意識が、面倒をいとわず異物を除去することに繋がっているという。 堆肥は10kg230円で一般に、1トン2000円(市の補助あり)で農家に販売されているそうである。年に2、3回は成分検査が行われており、農家はその結果を参考にして肥料の設計をする。そして、この堆肥を使って栽培された有機栽培された農作物等には認証シールが貼付される。 長井市の取り組みは、地域でしっかりと議論を積み重ねた上で、住民参加でまさに地域で循環する仕組みを作り上げてきたのだということが分かった。堆肥化施設は、一般的には臭いの問題を回避するため山の中などに作られるが、ここでは誰でもいつでも見に来られるように、平地の田んぼの中に作られているそうである。 ■栃木県 芳賀町 芳賀町も目的はごみ処理ではない。地元で梨農園を営んでいる農家が、梨の立ち枯れ等を通じて「土が壊れてきた」ことを感じ、これを改善するために、根本に発酵させた生ごみを入れてみたところ、立ち枯れがなくなり、病気にもならず、おいしい梨が採れるようになったことから始まったそうである。 有限会社ドンカメが運営するドンカメ堆肥化センターでは、地元の大企業であるホンダの社員食堂、公共施設、飲食店、家庭生ごみ、畜糞、鶏糞などから堆肥を作っているという。 ここでは堆肥を作っているだけでなく、食育にも力をいれおり、給食で使われている野菜とその生産者を生徒に紹介しているそうである。その効果もあり、食べ残しは極めて少なく、全国では一人70グラムのところ、一人あたり10グラム程度なのだそうである。これは食べ残しているというよりも、欠席した生徒の分のようである。 食育推進センターというところに、農家が生ごみ堆肥を使って育てた野菜を運び込み、ここから商工会が学校に野菜を運ぶ。栄養士・調理員・農家・教育委員会・循環システム研究会が定期的に会合を持ち、給食に必要な野菜の量を検討し、不足分は市場で調達するという。 ■鹿児島県 志布志市 志布志市では、ごみ減量を目的として生ごみ堆肥化を行っている。一部事務組合から離脱し、焼却に依存しないゴミ処理を実現した、焼却炉の無い街だそうである。埋め立てごみを8割削減、再資源化率は7割を超え、市としては全国1位である。 ここも住民の主体的な参加が重要な役割を果たしている。一般的な自治会は任意加入であるが、ここでは「衛生自治会」を作り全世帯が強制加入(ごみを出さない世帯はないから)している。この衛生自治会がごみステーションの管理、路上の清掃等を行っている。「面倒くさい」ことが重要なのだという。 衛生自治会の活動に対しては、市・衛生自治会が発行する地域通貨「ひまわり券」が支給され、ひまわり油、トイレットペーパー、石けん、堆肥等等と交換してもらうことが出来る。 集められた生ごみは堆肥化され、おかえり「循ちゃん」という堆肥になるそうである。(隣の自治体では同じ堆肥化業者によって「環ちゃん」という堆肥が作られている。) ■東京都 小金井市 小金井市は、二枚橋組合の焼却炉廃止後(環境総合研究所では地域の市議・住民に依頼され周辺の土壌調査を行ったことがある)、焼却炉の立地の目処が立たず混乱していることで有名であるが、一方で生ごみの堆肥化の取り組みを始めて6年目になり、生ごみ堆肥で作った野菜を供給する循環が出来てきたそうである。 市内には市街化調整区域、工業区域がないため、土地利用規制上、堆肥化センターは作れないという。そのため「実験工場」を設置し、180トンの生ごみから45トンの堆肥を製造し、17トンを農家に、28トンを家庭に無償配布しているそうである。乾燥した生ごみを集めるため、ふるいに掛けることにより異物を取り除きやすく、臭いの苦情は全くないという。副資材としてゼオライトを用いられている。 講演後の質疑で会場からの情報提供によると、家庭からの生ごみで作られた堆肥は農家は受け入れず家庭に配布されているそうである。他地域の例からも分かるように、安全な堆肥を作るためには、生ごみを出す段階で市民がしっかりと分別できているかどうかが重要であるが、小金井市では市民の分別が十分ではない、少なくとも農家の信頼を得られていないということになる。 ■茨城県 取手市 取手市ではNPO緑の会によって取り組みが行われている。市のモデル事業、市の事業、一部事務組合からの委託、と事業の形態は変遷している。 市民は生ごみが腐敗しないよう抗酸化バケツに入れてステーションに持って行き、シルバー人材センターによって回収される。ここでも小金井市と同様、必ずしもきちんとやってくれない市民がいるため、バケツに水分が多かったり、毎週出さないためにウジがわいたりすることがあるため、ボカシや戻し堆肥で調整しているそうである。 施設は近隣市の近くにあるため、臭い、蝿等への対応には非常に気を遣っているそうである。隣の市で蝿が一匹いただけでも、あの施設から来たのではないか、と思われ、隣市の市役所経由で苦情が来ると徹底的に原因究明して工夫して解決し、今では全く問題は起こらなくなっているそうである。 出来た堆肥の大半は、堆肥化の過程で戻し堆肥として使うため、今のところ1軒の農家で使われ、そこで出来たヤーコン茶はお年寄りにプレゼントされているという。 ■神奈川県 葉山町 葉山町も志布志市と同様、近隣自治体との広域処理から離脱し、脱焼却を目指している。脱焼却、脱埋め立てを公約にした町長が当選した葉山町では、ゼロウェイスト宣言した上勝町、大木町に続き、ゼロウェイストを目指している。2028年には限りなくゼロとすることを目標としている。 ちなみに葉山町では、環境総合研究所が開催したカナダ・ノバスコシア州へのゼロウェイスト政策視察に参加された安藤氏が、町のゼロウェイスト政策において大きな役割を果たされており、その際、環境総合研究所に相談されていた。 葉山町では、生ごみについては自家処理を勧めており100世帯が取り組んでいるという。自家処理のための畳一畳ほどの広さの仕組み(キエーロという名づけられている)は設置に3000円ほどかかるが町からの補助があるそうである。 ■神奈川県 川崎市 1992年に結成された川崎・ごみを考える市民連絡会(同会は、川崎市の焼却炉建設に関連して環境総合研究所に以前に何度か相談されている)が中心となって、地域で循環する仕組みを作っているそうである。 3つの農家がそれぞれ6世帯、16世帯、9世帯から生ごみを受け入れ、堆肥化して使用している。同会の出した生ごみであれば安心して受け入れられる、と言われているそうであり、ここでも生ごみを出す側との信頼関係が重要であることが分かる。 また、同会の麻生区のメンバーと麻生区民で「あさお生きごみ隊」を結成し、30世帯の生ごみとぼかしあえを回収し、市のモデル事業としなっているそうである。 川崎市は人口140万人の政令指定都市であるため、取り組みの規模としてはごく一部ではあるが、大都市における貴重な事例であろう。 ■東京都 日野市 日野市は小さな取り組みの積み重ねではあるが、行政が積極的に関与している例として紹介された。 高齢化して耕作が行われなくなった生産緑地を市が関与して借り上げ、休耕田に直接すき込む、「長崎方式」で生ごみを循環しているという。 ■埼玉県 戸田市 戸田市の取り組みは、前回のコラムに詳しく紹介したので、下記をご覧いただきたい。戸田市の取り組みの特徴は花と交換するという市民に対するインセンティブが特徴であるとして紹介された。 http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col1060.html ■神奈川県 相模原市 相模原市の特徴もインセンティブであるという。「相模原いきごみ隊」という市民運動が中心となっている。13カ所、30世帯のバケツに入れた生ごみを回収し、バケツには朝採り野菜が詰め合わされてもどされるそうである。市民にとっては循環が目に見える形となっている。 また、生ごみを全くごみとして出さなかった(堆肥化や自家処理)世帯には、市から1万円戻されるという。これはゴミのうち生ごみの割合が40%で、ゴミ処理にかかる費用のうち40%が1万円であることが根拠であると市から説明されているそうである。ただし会田氏によると実際にゴミ処理にかけている費用はもっと高いだろうという。 −−− 以上が会田氏の講演において紹介された、各地域の生ごみ堆肥化の現状である。目的も方法も堆肥の質、使われ方、インセンティブの与え方、地域のコミュニティとの関わり方、参加している市民の割合等、それぞれ大きく異なることが分かった。いずれにも、共通するのは、生ごみを出す側の市民の自覚、意識、取り組みが極めて重要であり、これが堆肥の質を左右し、農業に受け入れられるのかどうかが決まることである。 また、会田氏の指摘によると、堆肥を作る技術、使う技術も非常に重要である。有名な失敗例として久喜宮代の例を紹介された。生ごみ以外を全く使わず、極めて質の悪い堆肥を作り、農家にも使われず閉鎖されたという。現在は改良された方法で取り組まれているそうである。 堆肥の使い方も、できたての堆肥をそのまま農地に投入したのでは、生育障害が起きて当然であり、熟成、成分の調整等、しっかりとした技術に基づいて使われなければならないと祖的された。 会田氏は、堆肥化よりも先に、買いすぎない、作りすぎない、残さないことが重要であるとも指摘され、その上で、家庭で堆肥化を行う上でのさまざまな技術的なアドバイスをされた。 坪井照子氏(閉会あいさつ) −−− 日本では、焼却・溶融等の技術に偏重したゴミ処理が長年行われており、膨大な税金が投入され、大量の有害な排ガスと灰を排出しつづけてきた。ここでは、9割方が水分である生ごみも焼却炉に投入され、助燃剤を投入して800度を超える(溶融炉であれば1000度を超える)温度で燃やし、溶かすという異常な処理が続けられてきた。また、その過程では少なからぬ事故や失敗もあり、時には人命が失われたり、莫大な税金がその対処のために支出されてきた。このような異常事態を解消するための生ごみの堆肥化は、過去の安易な堆肥化による失敗例を理由に、堆肥化は「現実的な選択肢ではない」と決めつけられ、国やほとんどの自治体でまともに取り組まれることがなかった。食べ残しは「塩分」があって堆肥には使えない、という誤った「常識」もまかり通っている。 他の先進国では、焼却こそが排除すべき選択肢で、堆肥化技術は試行錯誤を得て、より現実的な方法として採用されているのにも関わらずである。廃棄物政策においても、日本はいわゆる「ガラパゴス」化の道をたどってきたのである。 今回の会田氏の講演で、日本でも少数ではあるが、生ごみ堆肥化に積極的に取り組み、取り組もうとしている自治体があることが明らかにされた。温暖化、石油資源、有害物質、税金の支出等多くの側面からみて、生ごみ堆肥化は最優先で検討すべき手段であろう。 生ごみ堆肥化は決して簡単な処理方法ではない。しかし、より安全で有用な堆肥を作る技術、より効果的に使う技術(農地以外も含めて)とともに、市民の意識の向上を通じてゼロ・ウェイストのために必要不可欠な手段であることを再確認することが出来た。 |