エントランスへはここをクリック   

「改正土壌汚染対策法の問題点@」
〜事業仕分け第二弾・
公益法人問題に関連して〜

鷹取敦

Mar. 2010
独立系メディア「今日のコラム」


 土壌汚染対策法(平成15年(2003年)2月施行)の改正法が平成21年4月に公布され平成22年4月から施行される。

 これまでに繰り返し指摘してきたように、そもそも問題が多い土壌汚染対策法(以下「土対法」と表記)であるが、これに加えて改正法にもいくつかの重大な問題がある。本コラムでは数回に分けてこれらの問題を指摘する。

 今回は、事業仕分け第二弾で対象とされる公益法人に関連して、新たに設けられる許可制度・資格制度を取り上げたい。改正法(4月から施行)では新たに以下の許可制度、資格制度等が設けられる。

(1)搬出土壌の処理業に関する許可制度
(2)指定調査機関の指定の更新制度
(3)指定調査機関の技術管理者の資格制度(技術監理者証の試験制度)


■搬出土壌の処理業に関する許可制度

 これは搬出された汚染土壌が不適切に処理されることが無いようにすることを目的として、要措置区域(「健康被害が生じるおそれ」があるとされる区域)の土壌の搬出についての事前届出制度、届けられた計画に不備があった場合の計画変更命令、運搬基準に違反した場合の措置命令(罰則担保)、管理票の法による規定と罰則に加えて、処理業者について許可制度を設けるものである。

 なお旧法(2010年3月現在の現行法)では、管理票は環境省告示により定められており罰則はなく、汚染土壌処理業者についても環境省告示による認定制度が存在する。

 汚染土壌処理業者の許可制度は、産業廃棄物処分業許可制度に類似している。汚染されたものを処理、処分する過程において環境への配慮が必要という点では、法律上の廃棄物であっても、土対法の搬出汚染土壌であっても同じで、廃棄物処理法と別の制度として設ける合理的な理由は見いだせない。したがって土対法によって発生したか否かにかかわらず、廃棄物処理法を改正することによって、汚染土壌が適切に処理されるような制度にすべきである。改正法のように類似制度を並立させることはいたずらに制度を複雑にすることになり、行政コストの増加にも繋がりかねない。


■指定調査機関の更新制度、技術管理者の資格制度

●調査機関を囲い込む制度

 土壌汚染対策法に基づく調査は「指定調査機関」によって行われる。平成22年1月8日現在、全国で1620機関、3020事業所の指定調査機関が登録されている。一方、法律に基づく調査事例は平成15〜20年度までの合計で1187件に止まるため、1年平均で約200件に満たず、調査機関に対する調査件数が圧倒的に少ない。

 そもそも土壌調査のうち9割が自主調査であって、土壌汚染対策法によって義務づけられる調査は2%しかない(土壌環境センター会員企業アンケート、平成19年度実施調査7039件に対する割合)のだから、汚染事例を網羅できていない法律の不備が原因である。

 現在は一度指定調査機関として登録された後は、毎年現況報告を環境省に提出すればよい(ただし上記の数値から分かるようにほとんどの指定調査機関は法に基づく調査の実績はゼロか極めて少ない)。しかし改正法の下では「指定の更新制度」、「技術管理者の資格試験制度(管理者証の試験制度)」の導入によって調査機関の事務コストは大幅に上昇する。仕事がほとんど無いのに事務コストだけ上昇することは民間企業としては受け入れがたいので、指定を取り下げる(更新しない)機関が続出するものと思われる。いいかえれば、土対法に基づく数少ない調査業務を少数の調査機関に囲い込むための改正とも言えよう。


●増える外郭団体の業務

 一方で、制度の運用に関連する業務、特に技術管理者の資格制度の運用においては、環境省の外郭団体にその実務が委託されることが想定される。現状でも例えば管理票の販売は(財)日本環境協会(土壌汚染対策法に基づく指定支援法人)から(社)土壌環境センターに委託されて実施されている。

 ちなみに(財)日本環境協会の役員には、理事長(渡辺修・元環境事務次官)、常勤常務理事(柏木順二・元環境省大臣官房審議官、山村尊房・元環境省大臣官房付)、監事(岡田康彦・元環境事務次官)、評議員(櫻井正昭・元環境省長官官房審議官、瀬田信哉・環境庁長官官房審議官)等の環境省出身者の他にも、いわゆる天下りがいる。

 (財)日本環境協会の平成20年度の総収入12億円のうち、約37%の4.4億円が環境省からの委託費である。この委託とは別に、土壌汚染対策基金(平成20年度末残高14億円)の管理も日本環境協会が行っている。この基金は
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col179.htm
で指摘したようにほとんど活用されていない。

 一方の(社)土壌環境センターの役員には、専務理事(村川昌道・元環境省大臣官房付)、理事(岡安誠・元農林省水産庁長官)等のいわゆる天下りがいる。

 (社)土壌環境センターの決算報告は同法人のウェブ上には見あたらない。環境省の平成20年度の契約締結情報を検索し、集計したところ、契約額は1.7億円。選定方法は全て「総合評価方式による一般競争入札」、いわゆる落札率は約98%のものが3件、90%前後のものが2件、約65%が一件である。「一般競争入札とはいっても「総合評価方式」によって事実上の随意契約となっている可能性がうかがえる。

 改正法で調査の機会は少し広がるとはいうものの、ほとんど機能していない土壌汚染対策法にも関わらず、外郭団体の業務ばかり増やす法改正は不釣り合いとしか言えない。現政権は今後、「事業仕分け第二弾」で公益法人を対象とした仕分けを行うが、このような法律の枠組を含めて見直すべきである。


●「資格制度(管理者証の試験制度)」の前に必要なもの

 法改正の背景として公式に説明されているのは、もちろん調査機関の囲い込みではない。公式には、指定調査機関によっては十分土壌汚染対策法を理解していないケースがあり、技術力等を担保するために試験制度を導入する、というものである。

 確かに、土壌汚染対策法による調査の要件(どのような場合に、どの項目について、どこから採取した調査がどの順番で必要で、その結果をどう評価するか)は複雑であり、分かりにくい。そうであれば分かりやすく説明する「マニュアル」が用意されてしかるべきであるが、関わらず環境省のウェブサイトには分かりやすい説明がどこにも掲載されていない。

 今は確定申告締め切りの直前の時期であるが、複雑とはいえ確定申告は国税庁が作成した「マニュアル」を読めば個人でもなんとか作成できる。土壌汚染対策法にも、せめて確定申告なみの「マニュアル」が存在するれば、資格制度、更新制度など、官民の余計なコストを生じることなく、個々のケースについて正しく判断することが容易になるだろう。

 そもそも調査機関だけでなく、調査依頼者である土地所有者にとって分かりやすい仕組みであることが望ましい。土地所有者が調査機関に相談する前の段階で、どのような調査が必要となるかおおむねでも判断できれば、あとは個々の項目についての費用を複数の調査機関に相談することが出来る。複数の調査機関を比較することによってより適切な能力、費用を提案した調査機関を選択することが出来る。そのような観点からも資格制度(試験制度)を導入するまえに、利用者である汚染されているかもしれない土地の所有者に分かりやすくする努力が求められる。

 ほとんど役に立っていない法律のために、外郭団体(公益法人)の仕事を増やすだけの制度改正は不要である。このような観点からも公益法人の仕分けが必要である。