エントランスへはここをクリック!   


NHK:「なぜ繰り返されるペットの悲劇」
をみて
〜問われる日本社会のあり方〜

鷹取 敦
掲載日:2010年1月10日


 1月9日NHKの「追跡!AtoZ」で「なぜ繰り返されるペットの悲劇」が放映された。

 日本ではいわゆる「ペットブーム」が始まって以来、純血種を中心として高価に取引されるイヌやネコを中心とするペットへの関心やペットビジネスへの関心は高いが、ペットに関わる社会的な問題については十分に関心が寄せられているとは言えない。

 独立系メディアでは過去、この問題に関して
テーマ:動物愛護
http://eritokyo.jp/independent/todays-animalprotection1.htm
の中で繰り返し取り上げてきた。この中で池田こみち氏が紹介しているように、NHKではクローズアップ現代で、以前にもペットに関する問題を番組で取り上げている。
NHK番組:ペットは泣いている〜激安競争の裏側で〜
http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col1133.html
 今回の(1月9日の)番組で取り上げられた日本のペットに関わる問題点は、
  • 動物虐待を行う人間の問題
  • 動物虐待を捜査し取り締まる体制の問題
  • 動物のネットオークションによる売買の問題
  • 安易にペットを放棄する飼い主の問題
  • 放棄されたペットを受け入れ大量に殺処分する行政の問題
  • 生まれてまもなく親から引き離し社会性を身につけることなくペットショップで販売されるイヌの問題とそれにより起こる事故の問題
  • 日本人の極端な子犬指向の問題
  • ペットをモノとして扱う人間および法制度の問題
等、多岐にわたった。

 単にペットが可哀想という問題などではなく、日本の社会のあり方を、ペットに限らず社会に生きる広い意味での他者との関わり方も含めて根源的に問いなおさなければならない問題であると感じた。

 番組では特定の虐待事例が強調して取り上げられていたが、年間30万匹も飼い主によって放棄され、その多くが行政によって殺処分されている現状を考えれば、特定の個人が残酷なことをしている、という問題であるはずがない。社会で私たちと共に生きる動物達とのつきあい方を通じて、社会のあり方、私たち自身の生き方が問われている。お任せ民主主義ではなく、私たちが変わることで行政のあり方も変えていかなければならない、政権交代後の日本人が問われていることでもあろう。

 下記が番組の公式サイトである。今後も是非、このテーマについて取材を続けて欲しい
http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/file/list/100109.html

 番組の再放送の予定は示されていないので、ここで番組の内容を詳しく紹介したい。なお以下は筆者のメモに基づくものであり、見出しも筆者が付け加えたものである。

■深夜のペットショップで販売される子犬

 番組は深夜1時の街頭でショーケースに並べられる子犬たちに若い人がむらがり「かわいい」と声をあげる場面から始まる。売り上げ年間1兆円、ペットブームの現代の日本社会を象徴するシーンである。このような状況にすでに違和感を感じざるを得ないが、日本のペットに関わる問題はもっともっと深刻であることがこの後の取材で明らかにされていく。

 日本ではイヌとネコで合わせて2600万匹、2世帯に1世帯が飼っている。

■虐待のためにだまし取られるネコ

 ペット保護活動の女性の話から始まった。活動を通じて里親に譲り渡したはずのネコが虐待されて殺されていた。子猫30匹を手に入れては街中に放置してきた男が動物愛護法違反で有罪となった。一方で自治体のイヌ・ネコの殺処分は年間30万匹にも上るがこちらは日本では「合法」である。

 神戸の動物愛護団体はペットの虐待に関する情報を収集していた。手を切断されたネコの写真。足に針金をまかれ大けがした写真。このようにペットを虐待する飼い主のリストを作成して、各地の愛護団体に譲り渡さないよう呼びかけている。

 このようにペットを虐待する悪質な飼い主がイヌ・ネコを入手するのによく利用するのがインターネットだという。インターネットでのやりとり相手と直接顔を合わせなくてもいいのでネット上での里親になってかわいがるとフリをした「だまし取り」が増えている。

 動物愛護団体の方が大阪市内にネットでネコを集めては捨てる飼い主がいるという情報があり、ブログをチェックしていたところ近所の男性の記述に不審なものがあった。ネコについて書いているが1ヶ月も経つと様々な理由がつけられて姿が見られなくなる。その数2年間で30匹に上った。たまたま近所の駐車場で三毛猫を保護したが足を骨折しており死亡してしまった。この三毛猫にそっくりな写真がブログに「里子に出した」と載っていたのだ。飼育放棄して捨てるのは動物愛護法違反で最高で50万円の罰金である。ついに男性の居場所をつきとめた。この50代、無職で一人暮らしの男性を問いつめたところついに2匹放置したことを認めた。その時点で飼っている4匹のネコを引き渡させて二度と集めないことを書面で制約させた。

■ネットオークションによる安易な売買と虐待

 ネットオークションによる安易な売買も行われており、刑事告発された人物もいる。大事に面倒をみるというふれこみで引き取っていた。エサ、予防接種の代金として3〜30万円を徴収し、転売、売れないものは放置して衰弱しとみられる。近所の人は弱っていく様子をたびたび目の当たりにしていた。1〜2ヶ月で死んでいってしまう。NHK取材申し込み。現在引き取りはやめていると繰り返すばかり。現在、警察が捜査中である。

 スタジオ、ゲスト江川紹子さん。インターネットを通すと相手がどういう人か確かめられない。以前は近所の人の目もあった。人の目は抑止力だった。制度が社会の変化に対応できていない。動物虐待が犯罪だということが浸透していない。

■脆弱な取り締まり体制と軽い罰則

 ディレクター。取り締まりは海外と比べると不十分で捜査体制が脆弱。イギリスではインスペクターという専門の捜査官がいるが日本は民間のボランティアが行っている。

 日本では刑罰も軽い。捨てるのは最高で50万円。殺した場合でも懲役1年。ドイツでは最も重くて懲役3年。厳罰化が進んでいる。さらに他人のペットを殺した場合には器物損壊、持ち去ったら窃盗となり生き物ではなくてモノ扱いでしかない。しかも殺した方(器物損壊)が連れ去り(窃盗)より刑罰が軽いと逆転している。

■行政によって行われている大量の「殺処分」

 日本中で大量の毎年30万匹も放棄されており、行政によって殺処分されている。熊本市動物愛護センターでは他の自治体と比べて殺処分を行わない取り組みに力を入れており、引き取りを希望する飼い主に思いとどまるよう説得を続けている。10年前から殺処分ゼロを目標に活動をつづけてきたが、ここでも収容能力は限界に近い。

■安易な放棄の原因の1つに極端な子犬指向とペットショップ

 放棄の最も多い理由がかみ癖、ほえ癖。8ヶ月前に熊本市動物愛護センターに相談を寄せてきた飼い主への取材。飼い主がかまれて大怪我をしたこともあるという。エサの皿を回収する時が最も危険でなでることすらできない。センターから放棄を思いとどまるよう説得されてドックトレーナーを紹介してもらい躾やエサの与え方の指導などに取り組んでいる。

 しかし子犬のころの育ち方に問題があるため問題行動を完全に無くすのは難しい。日本では生後まもなく親犬から引き離されるので社会性が育たずワガママに成りやすいのが原因だという。消費者の極端な子犬指向が背景にある。ペットショップで販売される子犬の9割以上は生後2ヶ月以内だという。

 ティーカッププードルに人気があるため普通のトイプードルをティーカッププードルと偽る悪質業者もいる。食事を取らせず薬剤を投与して無理矢理小さくしている。飼おうとしている人が無知すぎるところにつけ込んでいると、元繁殖業者は語る。

■里親捜しにも極端な子犬指向が壁

 極端な子犬指向は殺処分ゼロをかかげる熊本市動物愛護センターにとっても大きな壁となっている。保護した犬をしつけ直して飼い主を募集しても引き取り手がなかなか現れない。半年前、街で保護されてしつけられた犬は躾の覚えも早く性格もいいが引き取り手を希望する飼い主はまだいない。去年11月に開催された譲渡会(里親捜し)でも子犬に人気集中していた。子犬指向の影で不幸なペットは無くならない。

 スタジオの江川さん。日本人は小さいものが好き。深夜ペットに群がる様子はむしろ残酷。

■悪質な業者による劣悪な繁殖

 ディレクター。一部の業者ではあるが、子犬を増やせるだけ増やして利益を得ようと子犬工場(パピーミル)で大量繁殖している。帝王切開を何度も繰り返し、ケージに繁殖犬を一生閉じこめる。悪質な業者には行政が行政指導や営業停止が出来るが、抜き打ちではなくて事前に通告しているため実効性がないとの批判がある。

■ドイツ・厳しい規制により子犬指向に歯止め

 動物愛護の先進国として知られるドイツの取り組みを紹介。ドイツではイヌ・ネコあわせて1300万匹が飼われている。ほとんどの施設でペットの同伴が認められている。行政の殺処分は一切行われていない。衝動買いを誘うケースに入れられた子犬の姿はペットショップにない。ドイツではペットショップで犬を販売することは禁じられている。

 繁殖の段階から厳しい規制があり子犬指向に歯止めがかけられている。あるシェパードのブリーダーは牧場の一角を借りて放し飼いで繁殖している。またドイツでは8週未満の子犬を母犬から引き離すことは出来ない。十分な社会性を身につけさせるためである。

■ドイツ・里親にも覚悟が求められている、行政による殺処分ゼロ

 それでも年間5万匹のイヌ・ネコが捨てられたり飼育放棄されているが、殺処分されることなくティアハイムという民間の保護施設が最後まで世話をしている。こうした施設が全国に500カ所あり市民や企業の寄付で運営されている。毎週市民に紹介し新たな飼い主を探す活動を続けられている。9割が新しい飼い主に引き取られている。あえて成犬を希望する人も多い。年輩の人は落ち着いた大人の犬がいいという。また希望者が来ても簡単には引き渡さない。何度も足を運んでもらい相性を確認して飼う資格があるか確認してから引き渡す。手間がかかっても構わないという覚悟がある人のみが引き取れる。

■社会の一員たるペットと生きる覚悟の違い

 人と共に生きるペットは社会の一員。一匹たりとも命を奪わない。この哲学がドイツでは根付いていた。

 取材したディレクター。ペット文化に大きな違いある。そのまま取り入れることは難しいとしても、日本も見習うべきところが多い。例えば繁殖業者が飼ってもいい頭数は日本では制限がないが、ドイツではブリーダー一人あたり10頭まで。母イヌと過ごす期間は日本では「適切な期間」と曖昧にされているが、ドイツでは8週以上と規定されている。日本ではペットショップでイヌ・ネコが販売されているがドイツでは業界が自主規制しておりペットショップでの販売はされていない。日本でも一部の業界団体は幼いイヌの販売の自主規制の取り組みはあるが、そもそも加盟する業者自体が少ないのが問題。

 熊本のセンターでは年末年始に10匹以上あらたに引き取られた。子犬だけに引き取り手。まもなく殺処分をしなければならないかもしれない。