鷹取 敦 |
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板橋区の住宅地のど真ん中で、周辺住民の反対、区の指導を振り切ってペットの火葬場が建設され操業を開始した。焼却を始めてすぐに排煙が火葬場の建物より低くたなびき、周辺には喉の痛み等、体調の不調を訴える方もいたという。 この火葬場が計画された時から、周辺住民は排ガスによる健康影響を心配して、建設差し止め(後に操業差し止めに切り替え)の仮処分を裁判所に提起した。一方で住民の指摘を受け、板橋区長も「区民と区政を裏切る背信行為」と区議会で答弁した。 http://blog.goo.ne.jp/k-hantai/e/ c8fd7b9e6fda42abbc2d473e58d0b666 東京地方裁判所は本日(2009年10月26日)火葬炉の使用を差し止める仮処分決定を下した。
この火葬場は地形が一段低くなっている場所に建設されている。高さ10mの建物には、屋根から直接排ガスが出ているかのような低い煙突がついている。火葬場のすぐ隣の敷地には、なんと介護老人保健施設がある。この保健施設の建物は火葬場煙突より低いので風向き次第では煙が施設を直撃する。また地盤面の高い北側には煙突より高い位置に、密集住宅地が広がっている。 ところでペット火葬場の立地を規制する法律はあるのだろうか。人の火葬場には墓地・埋葬等に関する法律が、家畜の焼却処理施設には産廃・一廃としての廃棄物処理法が適用される。モノを燃やせば有害物質が発生するので、健康影響等が生じないよう管理する法律があるのが当たり前である。 しかし、ペットを廃棄物とするのは忍びないと、ペット火葬場は廃棄物処理法の対象外とされ、規制する法律があるかどうかあいまいなままトラブルのタネとなっていた。この事態を心配した民主党の泉衆議院議員の平成16年の質問趣意書に対して、小泉内閣は所管する部局も法律も存在しないと答弁し、ペットの火葬場の野放図な立地にお墨付きを与えることとなった。 板橋区ではこの問題に対応するために、住宅地にはペット火葬場を新たに建設できない(施設の建て替えも出来ない)という条例を独自に制定したが、既に着手された計画に遡及して適用されることはないため、問題の火葬場の建設を止めることは出来なかった。 今年4月に住民が提訴した仮処分で、住民側は、焼却炉の専門家である三好教授(広島県立大学)の支援を得て、焼却炉の構造的な問題を指摘し、実証炉の検証も行っていた。また、建物から0mという非常識な煙突から排出される排ガスの周辺住宅地域への影響については筆者が専門家としての意見を求められ、シミュレーションによる検討を行い、極めて重大な問題でる旨を指摘した意見書を裁判所に提出した。 今回は差し止めの仮処分決定が出て、とりあえず焼却炉は稼働出来ないこととなった。しかし記事にもあるように、事業者は本裁判で争う意向を示している。 そもそもは、ペットは廃棄物ではないとする一方で、死亡時の死体の処分に際して生活環境を守るために必要な法整備を怠った国に根本的な責任があるのではないだろうか。ペット以外でも「これは廃棄物ではない、有価物だから廃棄物処理法の規制対象にならない」との主張が見受けられ問題になることが多いが、「廃棄物かどうか」で区別するのではなく、有害なものが出る可能性があるかどうか、環境、健康を守るためには何が必要かという視点から制度を組み立て直す必要がある。土地利用上の規制が有効に機能していない点も環境保全の観点からは大きな課題といえるだろう。 ペットを大切な家族と考えるからこそ、「ペットは廃棄物ではない」だけではなくて、安らかにかつ安全に送り出してあげられるようにするための制度整備が求められる。 今回の問題については、住民の方がブログに詳しい経緯を常にアップデートされているのでご覧いただきたい。 http://blog.goo.ne.jp/k-hantai |