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外郭団体に積み上がった土壌汚染対策基金と放置される土壌汚染

鷹取 敦
掲載日:2009年10月15日


 10月14日、会計検査院は平成20年6月の参議院決算委員会における検査要請に応じて行った「各府省所管の公益法人に関する会計検査の結果について」報告を行った。会計検査院の「過去の検査要請に対する検査結果の報告」
http://www.jbaudit.go.jp/effort/zuiji/demand/21.html
に「各府省所管の公益法人について」に、要旨、全文、別表がPDFで掲載されている。

 国および独立行政法人(以下、独法)は84の公益法人に、のべ145の基金を設置し税金等を拠出している。国が所管している基金は110、平成20年度末の保有額が約9120億円、独法が所管している基金は35、平成20年度末の保有額が1750億円、合計で145基金、約1兆円に上る。

 これらの基金のうちかなりの割合が休眠状態であったり、実際の活用額に比べて、過剰に基金を保有している問題を会計検査院が指摘したことが、新聞、テレビでも報道された。

 事業実績額の50倍以上を保有しその金額が上位の10基金が、毎日新聞に掲載されているので、本稿の末尾に引用した。このうち環境政策に関わるものとして、「土壌汚染対策基金」が9番目に記載されている。

 会計検査院の報告書別表25ページをみると、この基金は平成14年に設置され、平成20年度末に約14億円保有しており、「基金保有倍率」は135.8倍とされている。なお、参考として記載されている平成17年度の基金保有倍率は238.0倍である。

 基金保有倍率とは、「直近の基金保有額を直近3年間の平均事業実績額で除して得た数値」(会計検査院報告書の説明)である。つまり実際に1年間に使われた額の何倍の基金を保有しているか、を表しており、「土壌汚染対策基金」の場合にはこれが135.8倍もあったということである。1年間平均でたった1000万円しか必要としていないので、今のペースで事業を行った場合136年分も基金があり、無駄に税金を眠らせているということになる。「埋蔵金」と言われ、一般会計に返納すべしと指摘されても仕方がないだろう。

 ところで「土壌汚染対策基金」とは何だろうか。この基金の受け皿である「財団法人 日本環境協会」のウェブに説明がある。
http://www.jeas.or.jp/dojo/kikin_gaiyo.html

 ひらたく言えば、個人が所有する、住宅・マンション等の土地で、ザル法である土壌汚染対策法においてすら指定区域となるほど著しい土壌汚染が見つかった場合、汚染原因者が不明・不存在等で対策が出来ない時、自治体を通じて対策費用の半分を助成するという制度である。他に都道府県等が四分の一助成するので、本人の負担は四分の一となる。なお、土壌汚染対策には大きな費用を要するので、四分の一の負担であっても極めて大きい。

 土壌汚染対策法の問題点はこれまで、本コラムで何度も指摘してきたが、まず汚染が相当程度あっても見つからない方法で調べるという問題点があるので、そもそも汚染があっても「指定区域」に指定されるケースが少ない。

 さらに言えば、これまでの土壌汚染対策法では、調査が行われるのは原則として工場が廃止される時なので、汚染があれば汚染者は工場の操業者であると考えるのが当然であり、「汚染原因者が不明」で「土地の所有者が個人」というケースはまず存在しない。

 つまり「土壌汚染対策基金」は、現行法ではまず存在しないケースを想定しているのだから使われなくて当然である。その結果として14億円もの基金を積み上げてきたのである。

 一方で、個人所有の土地から土壌汚染が見つかるケースは少なくない。廃棄物処分場の後を愛知県が土地造成し、現在のURが住宅開発した小牧の土壌汚染のケースは何度も報道されているので全国的に知られているが、これなどまさに、個人所有の土地が汚染されているケースである。この問題は本コラムでも、調査を池田こみち環境総合研究所副所長が紹介している。
■産廃処分所跡地の住宅開発〜住民は終の住処を守れるか〜
(池田こみち)
http://eritokyo.jp/independent/ikeda-col0591.html
 岡山市の小鳥が丘団地でも、住宅地として両備グループが宅地造成・販売した土地の土壌汚染(旭油化による)が深刻な問題となっている。

 いずれも汚染の原因者・汚染の措置に責任のある者が不明ということではないから、基金の対象にならない。なったとしても、全く責任のない住民に対策費の4分の1もの巨額の負担はとても出来ないだろう。

 個人所有の土地でなくとも、住宅周辺に土壌汚染があるが、土壌汚染対策法の対象外で調査されない例は日本中に少なくない。

 活用されない巨額の基金が積み上げられている一方で、解決されない土壌汚染が積み上がっているという構図である。

 「土壌汚染対策基金」は、単に税金が使われずに無駄になっているという問題ではない。住民が切に解決を願っている問題は放置され、一方で国(環境省)の天下り先である公益法人・日本環境協会に税金を投入し、余剰金を積み上げているのである。

毎日新聞 2009年10月15日 東京朝刊
公益法人:「埋蔵」1兆円 145基金で補助金「貯蓄」−−検査院指摘

http://mainichi.jp/select/seiji/news/
20091015ddm001010041000c.html


 国や独立行政法人が補助金を出して公益法人に設置する145基金が、3月末で1兆872億円を保有していることが、会計検査院の検査で分かった。国所管基金については、使用見込みが低ければ国庫へ返納するよう閣議決定しているが、事業実績額の50倍以上の基金を積んだり、実績額がピーク時の30%未満に落ち込んでいる基金もあった。検査院は問題のある基金の早急な見直しと、事業実績を考慮した基金規模の検討を求めた。民主党は特別会計に次ぐ「第2の埋蔵金」として基金の一般会計への繰り入れを検討している。

 検査は08年6月に参院決算委に求められ、結果を14日に報告した。報告によると、国所管の110基金は9120億円、独立行政法人所管の35基金は1751億円を保有している。計1兆872億円のうち1兆191億円は国庫補助相当額、残り681億円は自治体補助分などだった。

 国所管基金のうち、直近3年間の平均事業実績額がピーク時の30%未満だったのは、算定可能な77基金のうち27基金で、保有額の合計は840億円。実績額の50倍以上を保有しているのは19基金で977億円に上った。

 検査院は国庫へ返納すべき全体額を明示していないが、8基金については個別の問題点に言及。経済産業省が補助金を出す「新エネルギー財団」は、事業上限額と見込まれる10億8489万円を超えて12億2478万円を保有しており、差額の1億3988万円を国庫返納すべきだとした。

 一方、収入・支出実績がある6579法人の08年3月末の内部留保額は4236億円。国は公益法人の事業費などに対する内部留保比率は30%以下が望ましいとの基準を設けているが、4割近い2518法人が基準を上回っていた。国から補助金などを受けているのは2018法人、内部留保額は2432億円。このうち約3分の1の659法人が基準を上回って利益などをため込んでいた。

 所管省庁からの天下りも調査。06〜07年度に国から補助金などを受けた1163法人には08年4月現在で省庁OB9900人が在籍し、再就職者が在籍する法人には在籍しない法人に比べ国からの支出額が約7倍になっていた。
【長谷川豊】

<事業実績額の50倍以上を保有しその金額が上位の10基金>
 法人名  基金名  保有額  倍率
 (1) こども未来財団  こども未来基金 313億8260万円 105.8
 (2) 民間都市開発推進機構 事業促進支援基金 200億円 256.0
 (3) 日本皮革産業連合会 皮革産業基盤強化特別振興事業基金 131億6313万円 60.2
 (4) 大日本水産会 国際漁業再編対策事業資金 126億1604万円 90.6
 (5) 国民健康保険中央会 国保特別対策基金 50億円 112.5
 (6) 不動産流通近代化センター 信用・指導基金 40億5200万円  111.6
 (7) 民間都市開発推進機構 まち再生参加業務円滑化基金 37億円 92.7
 (8) 全国信用保証協会連合会 特定中堅企業金融円滑化特別基金 19億2459万円 190.1
 (9) 日本環境協会 土壌汚染対策基金 14億1337万円 135.8
 (10) 利根川・荒川水源地域対策基金 水源地域対策事業  10億6万円 1000.1