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ノバスコシア・ゼロウェイスト
視察記2008

鷹取 敦

掲載日:2008年9月3日


 昨夏に引き続き、2008年夏のほぼ同時期にカナダ・ノバスコシア州のゼロウェイスト政策の視察を行った。

 今年は昨年参加希望されたものの日程が合わず参加できなかった自治体議員や弁護士などと5名のツアーであった。昨年同様、日本を月曜日に出発する日程としたかったが、東京地裁で調布保谷線の原告側専門家証人としての証人尋問の予定が月曜日に以前から入っていたため火曜日出発とせざるをえず、平日の日程が1日短くなった。そのため始めの2日間の案内をしていただいたノバスコシア州政府環境局の固形廃棄物資源分析担当官Bob Kenney氏に無理をお願いして早朝スタートの忙しい日程を組んでいただいた。

 平日の3日間で訪れた視察先は以下のとおりである。初めての参加者には必ず訪れていただきたいオッターレイク処分場の前処理施設や、現時点での最新の堆肥化施設のあるケープブレトンの堆肥化施設等の他は、出来るだけ昨年とは異なる施設、場所とした。

安定化された有機物(オッターレイク処分場前処理施設)

●ノバスコシア州政府(Bob Kenney氏によるノバスコシア州ゼロウェイスト政策についてのプレゼンテーション)
●路端回収現場(リサイクル物、堆肥化物、その他廃棄物の収集車による現場)
●New Era社堆肥化施設と、導入予定の新しい堆肥化技術パイロットプラント
●建設・解体廃棄物(C&D)の分別施設
●Sobeys(スーパー)店内外におけるリサイクル物、堆肥化物の取り扱い現場
●Valleyの積み替え施設、リサイクル施設(新設)、家庭系有害廃棄物回収施設、建設・解体廃棄物分別施設、家庭廃棄物持ち込み拠点
●オッターレイク前処理施設(安定化、分別等施設)、最終処分場
●グリーンアイランドリサイクル施設の視察および、施設スタッフ、自治体職員、自治体議、副市長との懇談・議論、地元紙(ケープブレトンポスト)による取材・インタビュー対応
●環境デポにおけるデポジット対象飲料容器、ペンキ等の回収、Eウェイスト(電気製品廃棄物)(今年度から開始)の回収拠点、CBCラジオ取材による取 材・インタビュー対応
●州内最新の堆肥化施設、元医療廃棄物焼却炉跡地、家庭廃棄物持ち込み拠点

 昨夏の視察から1年しか経っていないが、ノバスコシア州のゼロウェイスト政策は常に前進しているのだということを実感した視察だった。担当官のBob Kenney氏は常に現場に出て、現場の責任者、技術者、作業者と交流し、新しい試みをつなげる努力をし、それをフィードバックすることによって着実に新しい政策、制度の実現につなげようとしてることが分かった。「専門家」が事務局(行政)の作った資料を前に、会議室の中で「議論」して作られる日本とは本質的に大きな違いがあると感じた。

 本稿では、今回の視察で見聞した新しい試み等について紹介したい。

 まず昨年の視察の時点ですでに実施が決まっていたEウェイストのリサイクルである。制度の内容は以前に州政府のプレスリリースを紹介した。簡単に言えば電気製品をメーカー負担(実質的には前払いによる負担、ただし現時点で市場に出回っているものもメーカーが負担)によってリサイクルしようというものであり、その回収拠点に環境デポを利用しようというものである。今年はPC、プリンタ、モニタ、テレビから始め、来年はスキャナ、電話、ファックス、携帯電話、無線機器、音響機器全般が対象となる。ちなみに冷蔵庫等はすでにこれらとは別に回収され、フロンを抜いた上で、金属等がリサイクルされている。対象製品が幅広く、かつ段階的に増やしていくのも特徴である。


環境デポでのEウェイスト受け入れ

 Eウェイストは途上国等の海外に持ち出されるのではなく、州内で解体し資源化するための施設が建設され、もうすぐ運用開始となる。(それまではオンタリオ州の施設)

 Bob Kenney氏によると、今後、水銀を含む製品、除草剤やスプレー缶等も同じように(可能なものはデポジット制度で)回収する制度を検討しているという。メーカーの反対もあるが、実現に向けて頑張っているそうである。(ただし水銀を含む製品は近く州政府により原則禁止となるので、販売時に費用を徴収するデポジットは難しそうだとのこと。)

 飲料容器のデポジット制度もメーカーの反対、裁判を乗り越えて実現してきたノバスコシア州だから、おそらくなんとかして実現されるのだろう。ちょっと難しそうとか、課題があるとか、日本人には合わないだろうなどと漠然とした理由で実現に向けた努力も出来ない(しない)という話を頻繁に聞く日本の実態と比べるときわめて力強く頼もしい。

 個別の物品で言えば、ベッドマットの有効なリサイクルを実現すべく、技術の向上を助けており、将来的な制度化につなげたいそうである。地道な個別の研究開発等の取り組みを相互に繋げ、最終的には州政府として制度に組み込もうということである。また、建設・解体廃棄物(C&D)のうち壁材の一部についての堆肥化を研究されている大学の研究者もいるそうである。

 収集の方法にも改善が見られた。ハリファックス州では、リサイクルされるものはブルーバッグ(青い半透明の袋)に入れて出されるが、その他の廃棄物(最終処分場行きとなる廃棄物)はプライバシー等の問題もあり、黒い袋に入れて出してもよかった。一部の自治体でこれをクリアバッグ(透明の袋)に限定したところ、その他の廃棄物に混入するリサイクル可能物、有機物の割合が激減し、リサイクル、堆肥化の割合が大幅に向上したという。都市部のようにプライバシーの点から拒否感が大きい地域では、一定以下の大きさの黒い袋を認めることで、クリアバッグプログラムを開始しようと検討されているそうである。

 施設における改善の例としては、視察先リストにあるニューエラ社の堆肥化施設(ハリファックス広域自治体)では、ニュージーランドの技術を導入して設置された、新しい堆肥化技術の小規模なパイロットプラントを視察した。担当技術者によると、堆肥化にかかる日数は格段に短く(10分の1ほど?)、出来る堆肥の質(熟成度、pH等の数値でモニタリングされている)もこれまでのものより大きく向上するという。また従来の施設で問題となっている臭気も改善され、浸出水もごくわずかしかでないため、全体のコストも下がるという説明であった。


Hot Rot パイロットプラント

 見学したのは小規模プラントなので、フルスケールとした時に課題が出なければいいが、いずれにしても興味深い取り組みであった。設置面積が小さいそうだから、日本の首都圏のような「土地が無い」と言われる都市部でも、有機物(生ごみ、汚れた紙、木、草類等)の処理方法として、焼却炉だけでなく堆肥化施設も検討に値するのではないだろうか。


ケープブレトンのオフィス前にて視察団一行とケープブレトン広域自治体(CBRM)の教育担当Roschell Clarke氏

 このパイロットプラントを別とすれば、今のところケープブレトンの堆肥化施設がノバスコシア州最新の施設である。昨年の春に稼働開始したばかりだ。ここで出来た堆肥は年に数回決まった日に近隣の人たちに無料で配られる。自動車やトラック等で何トンも持って行くそうである。

 ただし、基本的にはこの施設で作られたほぼ全ての堆肥は「土壌汚染地」の修復に用いられている。ケープブレトンには古い鉄鋼所の跡地に深刻な土壌汚染があり、現在ではこの汚染の修復がこの地域で二番目に大きな事業であるという。この修復には税金が投入されているが、汚染地を修復するきれいな土として堆肥化施設でつくられた堆肥がほぼ全量用いられるという。

 日本でも土壌汚染地は多い。先に紹介したように、環境省自身が土壌汚染対策法ではほとんど土壌汚染地の調査すら出来ていないことからも明らかである。都内でいえば豊洲の東京ガス工場跡地が広大な汚染地である。ここでは2m汚染土壌を取り除いた後、さらに2m「きれいな土」を盛るという。このようなところにも質を管理された上質な堆肥であれば利用できるだろう。


土壌修復が行われている

 「新しい取り組み」とは別に印象的だったことに、廃油類および取り外しにくい金属類がある。これらはこれまでは「処理費」を支払って業者に引き取られていたものが少なくなかったが、資源、油の高騰に伴い「逆有償」、すなわち業者が買い取っていくようになったという。焼却を主としている日本では焼却炉で用いられる助燃剤の高騰、RDF(ごみ固形化燃料)の製造に投じられる燃料の高騰に自治体が悲鳴を上げているのとは対照的であった。


家庭有害廃棄物置き場の廃油タンク

 以上、本稿で紹介したのは、ノバスコシア州のゼロウェイストの取り組みのごく一部である。ゼロウェイスト政策の本質的な部分、全体の枠組み、制度、合意形成のあり方等ついては、すでに報告されているので今回はあえて言及しなかった。それにも関わらずここに紹介した内容だけ取り上げてみても、我が国でも大いに学ぶところの多い、収穫の大きな視察であった。