去る7月30日から8月5日まで、ゼロ・ウェイストの世界的な先進地域の1つであるカナダ・ノバスコシア州の現場を視察した。
ノバスコシアのゼロウェイスト政策については、すでに武蔵工業大学環境情報学部 青山教授、環境総合研究所 池田副所長が視察団を何度も現場に送り、多くの機会を通じて紹介しているので、ここでは筆者が現場を訪問して印象に残ったことを中心に視察記としてまとめておきたい。
2006年10月にノバスコシア州 Bob Kenney氏とコンサルタントのRay Halsey氏を日本にお招きして全国縦断講演会がごみ弁連主催で行われた。その時に多少なりともお手伝いさせていただいた縁で、同年代のBob Kenney氏よりご自宅にお招きいただいたので、ご厚意に甘えごみ問題に感心のある自治体議員、政治学の研究者等の知人と共に視察に行く機会を得た。
武蔵工業大学環境情報学部青山研究室、環境総合研究所共催で行われた前回の視察(2005年9月頃)の際は、カナダドルが90円を超える程度だったのが、現在は原油高騰の影響もあり110円を超えている。しかし今回はそれを上回るものを学ぶことが出来たと思う。
スケジュールの概要および視察先は以下の通り。
7/30
・日本からノバスコシア州ハリファックスに到着
7/31
・ノバスコシア州環境労働庁の会議室にてノバスコシアのゼロウェイスト政策全般についてのBob Kenney氏よりプレゼンテーション。
・グリーカートから有機物をパッカー車で回収している現場を見学。
・裏庭コンポストの行っている個人のお宅を見学。
・自治体と契約しているミラー社の堆肥化施設を見学。
・環境デポ(リサイクル、リユースする飲料容器、電気製品の回収拠点、ただし電気製品は来年2月から)を見学。
・自治体と契約しているミラー社のリサイクル施設を見学。
・Pegy's Cove 観光
8/1
・環境デポを見学(金属類等も品質別に分けて受け入れ)。
・リユースショップの見学。
・建設廃材のリサイクル施設を見学。
・オッターレイク処分場(ハリファックス地域)の前処理施設、安定化施設と最終処分場を見学。
・Lunenburg 観光
8/2
・コルチェスター地域の自治体所有の堆肥化施設、リサイクル施設、処分場を見学。
・民間の最終処分場を確認。
・CBCラジオからのインタビュー対応
・みみずコンポスト施設(家畜の糞・蟹殻等)を見学。
蟹殻の搬入
・鉄鋼関連工場跡地の汚染土壌地域の見学。
8/3
・ノバスコシア州北端のケープブレトン地域のリサイクル施設を見学。
・地元自治体議員と議論。
・リサイクル施設の見学。
・HHW(家庭ごみのうち危険なもの、油の使い残し、洗剤など)の回収拠点の見学。
・最新鋭の堆肥化施設の見学。
・廃止された焼却炉の見学。
8/4
・ケープブレトンからハリファックスへ移動中ケープブレトンを観光
8/5
・日本へ帰国(8/6着)
上記のスケジュールをみると施設見学が中心であるように見える。しかし、ノバスコシアのゼロウェイスト政策の本当に重要で日本において学ぶべき部分は、現場の「施設」(ハードウェア)を見ただけでは理解することは出来ない。ここに至った経緯、住民参加(主体)による合意形成、政策立案のあり方、そして廃棄物政策全体に貫かれている原理原則を理解することが重要である。
その点においては、視察に先立つ事前の学習、そしてスケジュールにもある Bob Kenny氏のレクチャー、各現場における背景・合意形成等を含む経緯・政策としてのシステムの説明等についての理解、現場の人たちとの議論・交流が非常に重要であることを改めて実感した。
ノバスコシアのゼロウェイスト政策を簡単に紹介すると、資源化・堆肥化可能なものは焼却も埋め立ても禁止し、飲料容器はデポジットで拠点(環境デポ)回収(半額返金され残りはゼロウェイスト政策の主要財源。税金は極力使わない。)、ペンキも環境デポで回収、有害ごみは別途拠点回収、資源化・堆肥化可能物(有機物)、その他のごみは路端収集(堆肥化可能物は庭で堆肥化も)、焼却炉は全部廃止、処分場は丁寧な合意形成を経て最小限設置、処分場に埋める廃棄物は直前にも出来るだけ資源化可能物を取り出す、有機物は堆肥化技術で安定化、運営中も住民による監視・住民への説明、企業の率先取り組み・一般の環境学習等も支援、取り組みの進んだ自治体ほど財政的な負担が少なくなる仕組み、建設廃材の資源化(分別して持ち込んだ方が特になるようなコスト面での誘導)、E−ウェイスト(電気製品)のEPR(拡大生産者責任)原則による拠点(環境デポ)収集・資源化の開始、等々となる。
これによってノバスコシア州では1995年から2000年までの5年間で、それまで埋め立て・焼却していた(現在は焼却はゼロ)ごみを半分に減らすこと(分別の容易な金属類はこれに含まない。これを含めればリサイクル・堆肥化率はもっと高くなる。)に成功し、さらに取り組みを広げ、進めようとしている。
ここに共通している原則とは、資源化(堆肥化)できるものは焼却、埋め立てを禁止し、徹底して資源化(堆肥化)すること、技術依存・ハコモノ依存ではなく、低コストで安全性の高くかつ雇用を確保できるソフトウェア重視によること、税金・自治体主体ではなく、デポジット金・NGO(RRFB)が中心となっていること、がんばればがんばるほど自治体の税負担が増えてしまう日本の容器包装リサイクル法と違い、がんばるほど税金負担・事業者負担が少なくなる仕組み・配慮が全体に行き渡っていること、拡大生産者責任の原則に基づいていること、徹底的な住民参加・住民主体となっていることなどである。
堆肥化施設、リサイクル施設、処分場とその前処理施設などの現場をみると、そこで使われている技術は特に高度なものではなく、一見して目を見張るようなすごい装置があったり、とても物珍しいことが行われているということでは必ずしもない。一部は日本で行われていることと似ているように見えるかもしれない。しかし全体を通じて上記の原則が一貫しており、日本で行われていることとは全く本質的に違うものであると感じた。
主要な施策・施設について上記の点から現場をみた経験をふまえて考察したい。
まずは収集、特に分別のあり方から。
日本はごみの分別数が多いことで知られている。海外から来た人はまずそれに驚き、日本はとてもリサイクルが進んでいると「誤解」しがちである。ノバスコシア州は自治体によって分別の内容は若干異なるものの(地域性・独自性を尊重しているため)、原則としてたったの4分別である。
一見、日本の方が積極的なように見えるかもしれない。しかし日本の実態は「燃えるごみ」「燃えないごみ」が主であって、資源化される沢山の分別は従である。そのため資源化率は20%に達していない。
一方、ノバスコシアは「資源化物」「有機物(堆肥化物)」が中心で、残りは「しかたなく廃棄物にする物」と「有害物」である。飲料容器はこれとは別に環境デポに持ち込まれ資源化される。「資源化」「堆肥化」できるものは埋め立てない、燃やさない(焼却炉はいずれにしても全廃されているが)のが原則なのである。これが日本とは大きく異なる。
環境デポ(飲料容器等の回収拠点)と飲料容器のデポジット、デポジット金による(税金に大きく依存しない)ゼロウェイスト政策の推進もノバスコシアの大きな特徴だが、日本に対応するものがないため対比はできない。
環境デポにはデポジット対象容器だけでなく、金属類も持ち込まれる。あるデポでは金属の品質によって買い取り価格に差がつけられている。事前にできるだけ余計なものを取り除き、きれいな状態にして持ち込んだ方がリサイクルもしやすいし、持ち込む人にとっても得になる仕組みである。電線の被覆などもていねいに取り除いた方がよい。熱で溶かしてしまうと有害物質が発生して危険なだけでなく金属に付着して質が下がるので評価されない。
環境デポ
以前紹介したように、来年2月からは指定された電気製品(日本より幅広い)も、一定の基準を満たした環境デポに持ち込まれ、メーカー負担で(大きなものは一部消費者負担)収集、リサイクルされる。
有機物を対象とした堆肥化施設は、自治体が運営しているものと、自治体と契約して民間が運営しているものがある。日本でも一部の自治体では食品残渣、剪定枝の堆肥化を試みているところがあるが、ノバスコシアでは食品や庭ゴミ(枝、草など)だけでなく、よごれた紙など有機物全般を堆肥化しているのが特徴である。
完成した堆肥は熟成度などの品質、重金属類などの安全性がチェックされた上で、グレード分けされて商品化される。商品化されたものは完売している。堆肥は必ずしも農業に使われるということではなく、庭の芝土から工事における土壌改良など広く「土」として使われる。日本では生ゴミを焼却している自治体が多いが、焼却してしまえば、せっかくの有機物も有害物質が多く含まれる灰の一部になってしまい安全に用いることは実質的に困難である。(別の施設で家畜の糞尿、ロブスターや蟹の殻をみみずで堆肥化する民間の施設も見学した。この堆肥は有機農業に使われるそうである。)
堆肥化施設は周辺への臭いの影響が懸念されることがあるが、今春、ケープブレトンに出来たばかりの施設では、バイオフィルタを使った脱臭装置がさらに改良されており、すぐ横にいてもほとんど臭いは感じられなかった。
最終処分場も日本とは大きく異なる。日本では焼却が中心なので埋め立てられているものは、灰か不燃物である。灰は有害物質が高濃度に含まれているので危険だし、不燃物にも有機物が混入されているのでメタンなどの有害なガスが発生し、浸出水にも灰や腐敗した有機物からの有害物質が高濃度に含まれる。
ノバスコシアでは埋め立てられるものには灰はそもそも含まれないし、有機物はハリファックスのオッターレイク処分場では堆肥化技術を使って「安定化」しているので、日本の処分場と比較するとはるかに安全である。「安定化」した有機物からは1年半ほどでメタンガスは出なくなる。およそ1年半の間はメタンガスを処理する必要があるがその後は安全になる。これを行わなかった場合、数十年にわたりガスが発生しつづけ、増え続けることになるという。浸出水はそもそも有機物が少ないので相対的に安全ではあるが、日本と同様の2重の遮水シートで集められたものが一旦タンクに貯められ、水処理場に運ばれて処理される。
安定化後の廃棄物
最終処分場の構造そのものは日本と似ているが、埋め立てられるものの内容は大きく違うのである。ちなみに大きな廃棄物は事前に取り除かれ、小さく砕かれるので、最終処分場に埋め立てられているものに目立って大きな物はなく、遮水シートを破るおそれのありようなものも見あたらない。処分場の中でも気になるほどの臭いは感じられなかった。
他にもリサイクル施設、建設廃材の資源化施設等を見学し、自治体議員と議論し、その背景・経緯等を含めて学んだが、ここでその全てを紹介することは出来ない。
そこで最後にケープブレトンの堆肥施設の風景について紹介しておきたい。ここでは数年前までごみ焼却炉が操業されていた。敷地の片隅には当時の焼却炉の建物が残っており、その周辺には関連の機械、そして分解された煙突が横たわっていた。建物の中はがらんどうになっていて、そこには有機物を回収するためのグリーンカートが積み上げられていた。いまやノバスコシア州でも最先端を行く堆肥化施設になっているのである。焼却から資源化・堆肥化へ大きな変遷を遂げたノバスコシアの取り組みの象徴的な風景であった。
1週間の視察の途中で、CBC Radio と Cape Breton Post のインタビューを受けた。CBCのインタビューはノバスコシア州の取り組みがカナダ全体からの注目されていることを意味する。CBCの記者とはオッターレイク処分場の視察の際にすれ違い、Bob
Kenney氏にその現場でそしてその後長時間の電話インタビューを行った際に日本からの視察者からも話を聞きたいということであった。CapeBreton
Post はケープブレトンの地元紙で、多くの家の路端のポストに同社のロゴがついていたことから広く読まれているものと思われる。ケープブレトンの施設は地元自治体議員・スタッフとともに視察したが、その際に取材した記者が紙面の半分にも及ぶ写真入りの大きな記事で日本からの視察を紹介したものであった。(CapeBreton Post紙面PDF)
日本で学ぶべきは個々の施設、技術などのハードウェアだけではない。それよりももっと大きな仕組み、考え方、プロセス等、すなわちソフトウェアについてこそ積極的に学ぶべきであり、また学ぶことが可能なものであると強く感じた視察であった。
最後にBob Kenney氏に大変なご尽力をいただいたこと、ノバスコシアの多くの方達が温かく歓迎してくださったことに心より感謝して、本稿は一旦、終わりとしたい。
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