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不可解な「印刷できない」公表情報
〜政治資金報告書を事例として〜

鷹取 敦

掲載日:2007年7月23日


 政治資金の不透明な使途、不十分な説明が相次いで発覚したことを契機として、政治活動とお金の関係をどこまで公表すべきか、その内訳、根拠をどこまで示すべきかについて、昨今、ふたたび活発に議論されている。もちろん、公表の目的は納税者、有権者である私達がそれを入手、チェックして監視することによって、政治の透明性を高めることにある。

 そのために私達はこれらの情報を入手しなければならないが、どこに行ってどのような手続きを経れば入手できるかご存じだろうか。情報公開法のように官庁の窓口に行って(もしくは郵送で)、請求手続きの用紙に記入し、手数料を払って、最大1〜2カ月待たなければならないのだろうか。

 実はそんな手間をかける必要は無い。政治団体の寄付等による収入、使い途を記録した報告書である「政治資金収支報告書」、税金から政党に交付されたお金の使い途を記録した報告書である「政党交付金使途等報告書」は、総務省が以下のウェブサイトで公表しているので、簡単に誰でも「閲覧」することが出来るのである。
政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書(総務省)
http://www.seijishikin.soumu.go.jp/
 使い方は、
ご利用ガイド(操作マニュアル)
http://www.seijishikin.soumu.go.jp/S0500.html
に簡単に書いてあるが、ここに「プラグイン」のインストールが必要であると書いてある。「プラグイン」とは、アプリケーションソフトに追加機能を提供するための小さなプログラムのことで、ここではインターネットエクスプローラなどにインストールする報告書閲覧専用ビューワ(表示ソフト)のことを差す。このビューワは、
閲覧用ビューワのダウンロード
http://www.seijishikin.soumu.go.jp/S0530.html
からインストール出来る。たかが紙で報告された報告書を見るだけで、随分と大仰なことを求められるものだが、とりあえずインストールしてみよう。

 インストールできたら、
政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書(総務省)
http://www.seijishikin.soumu.go.jp/
に戻って、クリックして見たい情報(政治資金収支報告書と政党交付金使途等報告書の別、公表時期、定期公表分か追加分、解散分か、政党名、政治団体名等)を順次、選択する。(ちなみに平成19年7月23日現在で公表されている定期公表分は平成17年分までである。最終更新日には「平成19年5月29日」と表示されているから、もう平成18年分が掲載されてもいいのではないかと思うが。)

 お目当ての団体を選択すると、画面上に小さなウィンドウが表示され、その画面をクリックすると、画面上に紙の収支報告書をイメージスキャナで読み込んだものが表示される。字が小さくて読みにくい場合にはウィンドウを大きくして、「倍率」ボタンで表示の大きさを指定するか「+」ボタン等を押せば大きくしたりウィンドウの大きさに合わせて表示することができる。

 報告書は複数ページに渡るので、右三角ボタン、左三角ボタンを押して、他のページを順次表示させてみよう。横向きに表示されている場合には、回転させて表示するボタンもある。

 なんと便利なんだろうと感心しつつ、とりあえず印刷してみようと思って見回しても印刷ボタンがどこにも見あたらない。それでは保存しておこうかと思っても、保存ボタンも無い。要するに画面で1頁ずつ「閲覧」することしか出来ないのである。これは驚きである。

 政治資金収支報告書は、例えば自由民主党の平成17年度分は20に分割されて掲載されている。1つが50頁もあるから全体で1000頁近くに登る膨大なものだ。これを1頁ずつ眺めることしか出来ないとは、どういうことだろうか。必要であれば手書きで全て書き取りなさいということなのだろうか。これだけの膨大な情報を書き取ろうという人はいないだろうし、仮に頑張って書き写したとしても全く間違いなく書き取ることは不可能に近いだろう。(昨今の年金情報デジタル化において生じた問題をみればよく分かる。)

 保存する手段が全く無いわけではない。ウィンドウズであれば、[ALT]キーを押しながら[Print Screen]キーを押せば、画像としてクリップボードに取り込むことが出来るので、これを画像ソフトにでも、ワードにでも貼り付ければ、印刷できないことはない。ただし、自民党の平成17年度分を印刷するだけでもこれを1000回近く繰り返さなければならない。

 先に「たかが紙で報告された報告書を見るだけで、随分と大仰なことを求められるものだ」と書いた。何のために紙のデータを表示するためだけに、こんな特殊なソフトをインストールしなければならないのか、と思ったのだが、要するに「仕方がないので公開はする」が「出来るだけ見せたくない」。そのためには膨大な報告書を1頁ずつ表示するだけにとどめ、印刷できないようにしておこうということではないだろうか。

 また、手元に保存することが出来ないから、総務省がサーバ上のデータを順次、消してしまえば、入手することは困難になる。いつでも公開はやめられますよ、という意味にも取れる。

 ウラワザとして
印刷できない(はずの)政治資金収支報告書が印刷できてしまう
http://futuremix.org/2004/03/seijishikin
という方法も紹介されている(政治資金収支報告書が印刷できないことは一部では既によく知られているらしい)。このウラワザは一般に誰にでも簡単に出来る方法でもないし手間がかかるので、単に印刷したいだけなら、先に紹介したように画像として取り込むのが簡単だ。

 紙の情報をウェブに掲載する方法として、最も簡単かつ一般的に使われている形式はPDFである。これであれば誰でも簡単に入手でき、印刷も可能である(PDF作成時に印刷できないように指定することも出来てしまうが)。この方法は一般に行政情報の公開にも用いられているが、政治資金については、なぜわざわざ、システム開発やデータ変換の手間(すなわち費用=税金)をかけてまで使い勝手の極めて悪い方法を採用したのだろうか。

 政治資金の報告書は小説のように1頁ずつ読んだり、写真集のように1ページずつ眺めるのが目的ではない。政治と金の透明性を本当に高めようとする気があるのなら、簡単に一般的に用いられているファイル形式でダウンロードでき、保存、印字は当然のこと、検索や集計まで簡単に出来るようにしてこそだろう。検索、集計まではいかなくともPDFにすればよいだけの話である。PDF形式にするのに余計な費用は要らない。むしろ特殊なソフトウェアを開発したり変換したりするのに必要な手間と費用が不要となり節約になるのである。