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行政の主張のコピーペースト
圏央道建設差し止め裁判
東京地裁判決


鷹取 敦

掲載日:2007年6月15日


 平成19年6月15日、東京地裁八王子支部は住民が首都圏中央連絡自動車道(圏央道)建設差し止めを求めていた民事訴訟について住民らの請求を棄却した。

 その判決要旨の中で、事業者が行った環境影響評価(環境アセスメント)、環境影響照査における大気汚染、騒音予測の問題点を指摘し、より望ましい方法で行った原告側の予測調査(筆者が第三者的な立場として原告から依頼されて調査を担当)について言及した部分がある。

 判決要旨では、事業者の環境影響評価、環境影響照査(以下「事業者アセス等」と表記する)については、それに対する原告からの科学的な批判についてなんら言及することなく、「環境基準と同程度又は同基準を下回り、十分環境保全が図られるとされた。」としている。

 実際には、事業者アセス等で用いられている大気汚染の予測モデルは、原理的に圏央道八王子ジャンクション周辺のような山間部における予測が行えるものではない。これは大気汚染の予測に関わるものにとっていわば「常識」とも言えることである。原告側はこの点について、わざわざ実際の予測モデルを用いて立証したが、これについては一切言及がない。

 一方で、原告側の調査についての被告からの批判については、裁判の過程ですでに反論しており客観的に被告の指摘が誤っていることを明らかとなっている部分についても、何ら斟酌することなく、漫然と被告の主張を引用している。判決による引用の中には明らかな事実関係の誤りが含まれている。誤った引用をもって「看過しがたい誤り」などと表現していることから、裁判所がまじめに双方の主張を検討したものとは到底考えられない。

 また、判決要旨では、およそ本質的な部分には影響のない部分、影響がないことを原告が立証した部分をさして「正確性が実証されたとはいえない。」としている。

 本来は、事業に伴って生ずる環境影響を環境アセスメントの手続きにおいて科学的に立証する責任は事業者である被告にある。しかし被告である事業者は山間部に適用できないモデルを適用した事業者アセスの「看過しがたい誤り」について「正確性の立証」は全く行わずに、ひたすら原告側の行った調査の揚げ足取りに終始したのが、今回の裁判の実態である。そして判決では、被告、原告双方の予測を引き合いに出しているにも関わらず、本来、アセスの手続きにおいて立証する責任のある被告の調査については全く無批判である。


 なお、騒音の予測については、原告と被告と予測結果そのものはほぼ一致しており、単に予測範囲が異なるだけである。それにも関わらず、判決では何ら根拠を示さずに単に「科学的な根拠が存在しないに等しく」と切り捨てている。しかし実際には根拠はほとんど示していないのは被告の環境影響照査(原告の予測と同じモデルを使った予測)の方であって、原告の調査は必要にして十分なだけの根拠を示している。


 今回の判決要旨を読む限りにおいて、裁判所は被告の提出した書証だけしか読んでいないとしか思えない。昨今、日本の裁判所が刑事事件においても検察追認、機能不全が指摘されているが、公共事業に関わる裁判でも同様に行政の主張を漫然と追認しているだけなのである。