PBDE(ポリ臭素化ジフェニルエーテル)とは、難燃剤として用いられている化学物質で複数の物質の総称である。PBDEはテレビなどの電気製品のプラスチックに添加され、昨年は全世界で5万6千トン以上使用されている。
3種類の難燃剤(Penta-BDE、Octa-BDE、Deca-BDE)のうちその有害性が明らかになった Penta-BDE, Octa-BDEは規制の対象となり、現在は使用されていないが、Deca-BDEについては有害性が立証されていないとして2005年10月13日のEUのRoHS指令の規制物質からも除外された。
依然、大量に使われ続けることになった Deca-BDEであるが、以下に紹介するようにその安全性について危惧が示されており、日本においてはさらに深刻な事態であると受けとめる必要がある。
まずは、
inside BayArea.com
"The surprising problem with flame retardants
One compound being targeted is 'Deca,' but scientists don't fully"
http://www.insidebayarea.com/dailyreview/ci_6056596
で取り上げられた研究の概要を一部紹介したい。
記事によると、カリフォルニア州の有害物質規制省(Department of Toxic Substances Control)と、バージニア海洋科学研究所(Virginia
Institute of Marine Science)の最新の報告によると、高濃度のDeca-BDEが野生生物に摂取・蓄積されていることが明らかとなった。特に1970年代のDDT汚染から回復したばかりの猛禽類に蓄積されていることが分かったと、記事では紹介されている。この調査は巣の中で孵化せずに腐敗してしまった猛禽類の卵中のDeca-BDE濃度を調べたものである。
Deca-BDEはこれまでは環境中で安定しており吸収されにくく、排出されやすいと考えられていたが、この想定が誤りだったと、バージニア研究所教授のRob
Hale氏は指摘している。長い間、製品のプラスチックから環境中にDeca-BDEが漏 れ出すことはないと考えられていたこと自体が誤りだったのではないかという指摘である。そして摂取された
Deca-BDEが分解され、有害性が明らかとなっている他のPBDE類に化学変化している可能性を示唆している。
一方、難燃剤業界の代表である John Kyte氏は、Deca-BDEが人間の体内に蓄積されている量は少なく、他の代替物質と比べて極めて少ない、難燃剤による防火効果と化学物質によるリスクのバランスが大切なのだと主張しているとされている。
デューク大学環境地球科学ニコラス校(Duke University's Nicholas School of the Environment
and Earth Sciences.)の助教授Heather Stapleton氏は、Deca-BDEが体内で分解し、Octa-BDEのようなより有害な物質に変化していることを示す根拠は沢山ある、と述べている。
メイン州では最近(記事によると「先週」)いち早くDeca-BDEの使用を禁止した法案が可決された。ワシントン州でも代替物質が見つかり次第Deca-BDEを禁止する法案が州知事によって提出されようとしていると報じられている。一方、カリフォルニア州では同様の法案が提出されているが可決される見込みは低い。
この記事で紹介されている報告で注目すべきは、安全と考えられ日本でも海外でも使用が続けられている Deca-BDE が、野生生物や人間の体内で分解されて、より有害な
Octa-BDE に変化している可能性が示唆されていることである。
環境総合研究所では、昨年度、松葉中PBDE濃度のパイロット自主研究調査を行った。その結果は今夏、東京で開催されるダイオキシン国際会議(http://www.dioxin2007.org/data/index.html)で報告する。詳しい内容はダイオキシン国際会議で報告するが、このパイロット調査で、使用が禁止されているはずの Penta-BDE、Octa-BDE
が環境大気中に多く存在していることが明らかとなった。
上記で紹介された記事では、生物の体内における分解によって Deca-BDE が、より有害な物質に分解、「化学変化」されている可能性が示唆されている。この化学変化に着目すると、日本ではもっと大きなリスク要因を考慮しなければならない。
それはプラスチックを含む廃棄物焼却である。
PBDE(Deca-BDE)は難燃剤としてプラスチックに添加されている。日本ではプラスチックは「燃えるごみ」として分別されて焼却されている地域と、「燃えないごみ」として分別されて埋め立てられている地域がある。「燃えないごみ」に分別されている場合でも、100%完全な分別は有り得ないので、一部は「燃えるごみ」に混入し焼却されているのが実態である。
近年、ごみ焼却炉ではダイオキシン対策として焼却炉内の温度を高く保つことが義務づけられており、最低でも800度、通常は1000度以上の高温である。この中はありとあらゆる化学反応が生じ、無数の化学物質が生成されていると言われている。
Deca-BDE がこのような焼却炉の中に投入された場合、分解されて Penta-BDEやOcta-BDE などの有害性の高い PBDE が大気中に放出されていても何ら不思議はない。
東京23区では、プラスチックを「燃えないごみ」から「燃えるごみ」に分別を変更し、廃プラ焼却・発電を始めようとしている。廃プラ焼却・発電には多くの問題点があり、23区一部事務組合が行っている「実証実験」なるものは科学的検証の体をなしていないことは既に以下で指摘してきたが、
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col131.htm
23区廃プラ焼却「実証確認」のまやかし
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col133.htm
環境省、廃プラ焼却「問題なし」の非科学性
PBDE汚染の観点からも廃プラ焼却は、きわめて問題があると言わざるを得ないし、Deca-BDE についてもその使用禁止を検討しなければならないだろう。
しかし日本では、国でも自治体でもこれらのリスクについて一切、検討されている形跡はない。
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