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東京都豊洲新市場予定地の
土壌汚染問題


鷹取 敦

掲載日:2007年3月8日


 築地市場(東京都中央区築地)は、都内に11箇所ある東京都中央卸売市場の1つで、面積約23ヘクタール、野菜、果物、生鮮魚介類等を小売店に卸売りしている日本を代表する卸売市場であり、世界最大規模の魚市場でもある。

 東京都は、現在の市場が手狭になったことから豊洲(東京都江東区)の東京ガス工場跡地への2012年以降の移転を計画している。市場の事業者や築地市場を擁する中央区は、移転後の事業への影響、地域への影響、跡地利用等多くの課題を指摘し、移転計画に対して反対を表明している。
■築地市場移転について(7つの疑問.平成18年2月)
(中央区長)

http://www.city.chuo.lg.jp/kusei/kuseizyoho/
tukizisizyo/tsukijinanatunogimon/index.html
 反対の大きな理由の1つに移転先用地の深刻な土壌汚染問題がある。本日3月7日、この問題に関して築地市場の事業者らがデモを行った。
■築地市場の豊洲移転反対 業者「食の安全守れぬ」
(共同通信・東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007030701000399.html

 東京都中央区築地にある中央卸売市場の江東区・豊洲地区への移転について、同市場の水産仲卸業者が7日、「移転先の土壌や地下水は高濃度の有害物質で汚染されており、食の安全安心が確保できない」として、都内で移転反対を訴えるデモ行進をした。
 700を超える仲卸のうち約210業者でつくる「市場を考える会」(山崎治雄代表)が実施。参加者らは長靴姿で横断幕やプラカードを掲げ「移転断固反対」「都民の食と命、築地の食文化を守ろう」などとアピールした。その後、農水省と環境省を訪れ、各大臣あての請願書を提出した。
 移転先の東京ガス事業所跡地からは、環境基準を大きく超えるベンゼンやシアンなどが検出されており「汚染地に生鮮食品を扱う市場を造るべきでない。都の汚染除去計画も不十分」と、移転を進める都を批判。築地での再整備を求めている。
 東京都は、築地市場を2012年度に豊洲地区へ移転させる予定。
 筆者は移転先の豊洲の工場跡地土壌汚染問題について、TBS(イブニング・ファイブ)およびフジテレビ(スーパーニュース)から取材を受け、現地を視察した。

 次の東京都の資料に「8 豊洲新市場予定地の土壌≪主な経緯≫」が示されている。2001年1月に東京ガスが用地全域について土壌汚染の状況の調査を行った。これは、東京都の環境確保条例(2001年10月施行)、土壌汚染対策法(2003年2月施行)の施行以前であるため、東京ガスによる自主調査である。
■豊洲新市場の概要(東京都中央卸売市場)
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/new_market/01.html
 東京ガスは2001年2月には土壌汚染処理を開始、2002年10月には施行された環境確保条例に基づき「土壌汚染状況調査報告書」を東京都環境局に提出、同11月には「汚染拡散防止計画書」、2005年9月には同計画書(その2)を環境局に提出している。2006年3月には5街区における「汚染拡散防止措置完了届書」を環境局に提出して5街区については処理が完了した、と記されている。

 なお、豊洲新市場は上記資料に示されているように、5街区:約12.9ヘクタール、6街区:約14.3ヘクタール、7街区:約13.5ヘクタールの合計約40.7ヘクタールと広大である。

 汚染の状況は「土壌汚染状況調査報告書」(2002、東京ガス)に示されており、約2000地点(ベンゼンは約400地点)の土壌溶出試験分析試料のうち、最大値として例えば、ベンゼンは15mg/L(環境基準の1500倍)、シアンが49mg/L(490倍)、ヒ素が0.49mg/L(49倍)、水銀が0.012mg/L(24倍)、鉛が0.093mg/L(9.3倍)等、非常に高い濃度が検出されている。他にも含有量試験、地下水においても基準超等の高い濃度の検出が示されており、非常に高濃度に汚染されていたことが分かる。

 なお、前回のコラムで紹介した土壌汚染も同じく東京ガスの工場跡地(田町)であり、同じような有害物質がやはり高濃度で検出(シアン:環境基準の1900倍、ベンゼン:環境基準の620倍など)されていた。
■土壌汚染対策法の問題点が露呈東京ガス工場跡地(港区)の小学校建設計画
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col140.htm
 上記コラムにも示したように、そもそも調査方法に大きな問題があり、汚染が検出されにくい方法によっている。下記は土壌汚染対策法の課題について示したものだが、同法施行以前の豊洲の調査も以前より定められている同じ方法(公定法)によって行われているはずである。
■土壌汚染対策法のデタラメな分析方法
http://eritokyo.jp/independent/takatori-col121.html
 「土壌汚染リスク」、高杉晋吾、2004年、P.156の「東京ガス土壌汚染、公表用地一覧(2003年8月19日)」によると、この田町の土壌汚染は当初、2002年6月5日に公表され既に「対策工事終了」とされている。しかし、前項で指摘したように、その後土壌汚染対策法に基づいた調査を行ったところ、高濃度の汚染が多く検出されていることから「対策工事」の内容が根本的な汚染対策であったかどうか疑問である。

 豊洲の対策内容については「豊洲新市場の概要(東京都中央卸売市場)」に示されている、「土壌処理を行う対象範囲」(PDF)に示されている。これによると、現在の地盤面から地下2mまでは処理基準を超える土壌は処理し、それ以下について処理基準を10倍超過する土壌について処理する。さらに現地盤面より2.5mまで「健全土」を盛り土し、その上にアスファルト等によって舗装する。地盤面から地下2mまでは「処理」とあるが、汚染土壌を掘削・処理した上で運び出すか、埋め戻すかについては入手した資料には示されていない。

 このような問題を擁する現地について、TBSイブニング・ファイブからの依頼を受け、現地を空から次に現地への立ち入り許可を得て5街区について視察した。

 東京ヘリポートから飛び立った取材ヘリは豊洲の新市場予定地および築地の現市場の上空を周回した。実際の面積比以上に豊洲の予定地は広大に広がっているように感じる。

東京ヘリポート

 築地市場と豊洲新市場予定地は約2km離れており、晴海通りでほぼ直線上につながっている。現地は三方を海に囲まれている埋め立て地であり、ほぼ全域が既に更地になっている。大きな円筒形の建物がみえるがこれは変電所である。

豊洲新市場予定地

築地市場

 既に「措置」が完了されているとされる5街区でも、重機が1台稼働しており、ゆりかもめの新駅「新市場前」の前には大きなため池(水たまり?)が出来ている。汚染地域の中に貯まっている水であることから、水質汚染が懸念される。雨水がたまったものであるのか、地下から浸出してきた水なのかは確認できない。 大きな水たまりはもう1箇所あり、そちらでは複数の重機が活発に掘削を行っているように見える。

 周辺の海面水位と計画地地盤面の高さが近いことから、予定地の地下水位は比較的高い可能性がある。潮汐に伴い地下水位が上下すれば汚染は容易に移動しうるし、そうでなくても毛細管現象などで汚染が上方向に上がっていく可能性も否定できないだろう。また埋め立て地であることからも、地震によって地下の汚染土壌が露呈する可能性も考慮しなけばならないし、想定しない原因によって汚染が上がってこないかなど厳格な定期モニタリングも必要となるだろう。モニタリングを行ったとしても、万が一汚染が検出された時に出来る対策は対症療法でしかない。一旦市場を移転したら汚染が発見されたとしても運営しつづけなければならないからである。

 その後、東京ヘリポートに戻った後、築地市場でTBSが5街区の処理済み地域への立ち入りの許可を取り、豊洲の現場に自動車で向かった。処理済み地域のみ権利関係を整理し、東京都に所有権が移っているため、また安全上の理由からも立ち入りの許可を出せるそうである。午後に行ったフジテレビ(スーパーニュース)の取材でも同じように築地市場の事務所で立ち入り許可を取得後5街区に入った。

5街区予定地

 5街区に入ると広大な空き地であるが、足下をみると地面は柔らかい土で覆われており、土壌は新しく入れたもの(処理済みの土であるか新しい土であるかは不明)であると推察される。周辺を見渡すと、中央部はむき出し、周縁部にのみ草が生えている状況であった。昨年3月に「措置」が終了していることから、この周縁部の草がその後生えたものであるか、そもそも「措置」の対象となっていなかったのかは確認できない。

 地盤面の高さからみて、処理後の地盤面上への2.5mの覆土はまだ行われていないものと思われる。

 ゆりかもめの「市場前駅」の前にある、「ため池」は濁っており、藻のようなものが浮かんでおり、きれいな水ではないものの、これは重金属類の汚染の可能性とは別であると説明した。ただし、汚染土壌の上のたまった水であることから、有害物質汚染の可能性があると考えるべきであり、適切な調査および処理が必要となるだろう。

 前回のコラムでも指摘したように、ただちに影響が出るどうかだけをもって安全かどうか評価することは適切ではない。すぐに人がバタバタ倒れるのでなければ問題なしということでは、到底先進国とは言えない。長期的なリスク、汚染の蓄積、複合的な影響を回避することが大切である。その点から言えば、上記で指摘したような調査等の問題点が仮になかったとしても、生鮮食品を扱う市場をこの地へ移転することは厳に回避すべきではないだろうか。