シンドラー社エレベータ問題と 環境省随意契約問題 〜競争入札は事故の遠因ではない〜 鷹取 敦 掲載日:2006年6月13日 |
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本コラムの読者から、次のようなご意見をいただいた。大変、貴重なご意見なので要約による誤解が生じないよう全文を(お名前を伏せて)公表させていただきたい。(送信者はいわゆるフリーメールを使われているので、署名が実名かどうかは不明だが。)
この問題では、競争入札により価格競争力のあるシンドラー社のエレベータが公的部門を中心に導入されてきたことが報道されている。そのため、上記に紹介したようなご意見がもたれる方が多いだろうということは想像に難くない。 痛ましいことに犠牲者が出てしまったことからも、心情的には筆者も大いに同調したいところではある。しかし本当に「競争入札」が事故の遠因なのであろうか。「競争入札」でなく「随意契約」であれば、もしくは「談合」によって落札社が事前に調整されていれば事故は防げたのであろうか。ここはひとつ冷静に考えてみたい。 一般論として、随意契約、談合を正当化する主張として「質を確保すること」がある。例えば、道路、建物等の工事で言えば、大手の実績のある会社と随意契約なり談合で契約できれば、安心して仕事を任せられる。実績のない新参者、よそ者では手抜きをされるかもしれない、という類の主張である。(実際はもっと穏当な表現で主張されるが。)また、エレベータ問題で言えば、随意契約であれば、シンドラー社ではなく国内の実績ある大手メーカーと契約していただろう、ということになろう。 確かに、実際に必要なコストを大きく下回る額で落札された場合には、手抜き工事が行われる心配をするのは当然であろう。しかし考えてみれば、随意契約、談合であれば手抜き工事が行われないという保証は全くない。マンションの耐震偽造問題を例に挙げるまでもなく、競争入札によらない工事で問題のある設計・施工が行われている例には事欠かない。 また、以前のコラム「疑わしい自主調査」で指摘したように、『記憶に新しいところでは、三井物産のディーゼル車の排気微粒子除去装置(DPF)データねつ造事件や、クボタが岩手県北上市内につくった産業廃棄物処理施設のダイオキシン濃度の測定値を改ざんし、子会社に引き渡していた事件などがある。また、排ガス中のダイオキシンの測定(年1回、4時間採取が義務づけ)の時だけ活性炭を噴霧して濃度を低下させている実態が報道されたこともある。』など、また三菱自動車の例にみられるように、実績ある大手の日本のメーカーが問題を起こしている例は少なくない。 そもそもシンドラー社はエレベータにおいて世界で2番目のシェアがあり(事故も多発していたことが問題なのだが)、実績だけみれば、これが日本のメーカーであれば、「実績がある」という理由で随意契約が行われていても不思議はないのだ。もちろんこの程度の理由は随意契約の理由として正当ではない。しかし、霞が関で行われている随意契約に付された理由はこれと大差ないものである。 つまり、事故や不良設計・施工を防ぐこと、すなわち質を確保することとは、フェアな競争を行うこと、そして無駄な税金の支出を回避することとは別問題ということである。 本コラムにおいて筆者が随意契約の問題を取り上げるのは、上記のうちフェアな競争、税金の適切な支出について官公庁の発注に問題が多いため、この部分について指摘しているものであって、「質を確保すること」軽んじているわけではない。当然のことながら、ご意見にあるような「ヒールを作って叩く」という意図があるわけもない。 不当な随意契約(当然、正当な随意契約はあり得る)の問題、談合(こちらは正当な談合というものはないだろう)の問題と、質を確保する問題は分けて対応をしなければならない。シンドラー社の問題で明らかになったことは、競争入札の弊害ではなく、発注者の質の確保への取り組み、情報収集が不十分だった、ということではないだろうか。 |