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不明年金と役人仕事

佐藤清文

Seibun Satow

2007年5月27日


無断転載禁
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すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。


「実行が最上の答え」。

ジョージ・ハーバート『知恵の投網』

 

 古代文明の遺跡から文字の記された出土品が発掘されることがあります。それを解読してみると、役人による行政の記録が数多く含まれているのです。役人の仕事は、古代国家の頃から、行政における記録を作成し、管理することが主でした。

 数千年の時を越えた公文書があるというのに、日本では、10年前の年金一本化をきっかけとして、5000万件以上もの年金記録が宙に浮いたり、消えたりしているのです。

 これまでも年金をめぐる問題は顕在化してきました。少子高齢化に伴う制度設計の見直しや使い道などです。しかし、今回の不祥事はそれらと質が違います。書類の作成・管理という役人仕事の基本ができていなかったのです。はっきり言って、役人の仕事として体をなしていません。

 強制的に金を徴収しておきながら、その記録があやふやだというのでは、暴力団のみかじめ料の管理よりずさんだと言わざるを得ないでしょう。

 この事態は極めて深刻です。官僚制度の弊害という制度上の課題ではなく、役人の仕事が何たるかという前提にかかわっているからです。役人が役人の仕事ができていないとしたら、その国家は体をなしていないと言って過言ではありません。

 にもかかわらず、政府の態度は居丈高です。2007522日、民主党の蓮舫参議院議員の不明年金についての質問に対して、安倍晋三内閣総理大臣は「年金に関して、いたずらに国民の不安を煽ってはいけない」と答弁しました。制度が破綻する危険性を彼女は尋ねているのではありません。けれども、彼は体をなしていない役人の仕事を追及されて、平身低頭になるどころか、居直り、逆ギレする有様です。ハリー・S・トルーマン大統領は執務室のデスクに「責任のたらい回しはここで終わり(The buck stops here)」と記したプレートを掲げていました。それと比べるまでもなく、安部首相はこの発言だけでも政治的トップとして失格です。盗人猛々しいとはこのことでしょう。

〈了〉

参考文献

President Truman - Harry S. Truman Presidential Museum and Library

http://www.trumanlibrary.org/