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政治家とコミュニケーション

佐藤清文
Seibun Satow

2006年12月7日


無断転載禁
本連載の著作者人格権及び著作権(財産権)は
すべて執筆者である佐藤清文氏にあります。


「言葉づかいで思慮深さが、使う言葉で知識が知れる」。

『集会書』424

 ここのところ、石原慎太郎東京都知事に対し、本人や四男の公費の使い道に関して疑問の声が上がり、そのことを記者から聞かれる姿が報道されています。

 石原知事は、この問題において、気に入らないもしくは都合の悪い質問が投げかけられると、以前からまばたきが多いことは知られていましたが、まともに答えず、質問し返す傾向が見られます。例えば、1124日、記者が東京ワンダーランドと四男のことを切り出すと、石原都知事は「そもそもあんたたち東京ワンダーランドに行ったことあるの?」と言っています。

 エスニック・ジョークに登場するオデッサ人ではあるまいし、質問に対して質問で答えるというのは、問題のすり替えです。自身や親族をめぐる公費の支出に関して、政治家として説明を求められているのです。記者が東京ワンダーランドに行ったことがあるか否かなど有権者には興味ありません。

 石原知事に限らず、日本の政治的リーダーのコミュニケーション能力の不備があまりにも目につきます。その場しのぎが目立つのです。田中康夫前長野県知事は、議会や会見、講演で質問されても、無関係な持論や自慢話を延々と話し、無駄に敵を増やしたのは周知のことです。

 2006126日付『朝日新聞』の政治・総合欄に、小泉純一郎前首相と安倍晋三現首相のぶら下がり取材に対する答えと文の切り方を比較した記事が載っていました。それによると、小泉前首相がワンフレーズなのに対し、安倍現首相はロングフレーズです。

 例えば、組閣の方針について尋ねられた小泉首相が「適材適所」とだけ繰り返していますが、「論功行賞」ではないのかと聞かれた安倍首相は次のように答えています。

 その点については、国民のみなさまに判断していただきたいと思います。先ほど申し上げましたように、政治は結果です。国民のみなさまの生活がよりよくなるように、今日より明日がもっとよい一日になっていく。そういう日本になっていけば、国民のみなさまからですね、評価していただけるのではないでしょうか。

 丁寧で、長い割には、紋切り節が多く、しかも、「論功行賞」であるか否かを尋ねられているのに、これでは答えになっていません。はっきり言って、無内容です。結婚式の挨拶は勘弁してもらいたいと思う人も少なくないでしょう。

 言葉の末尾の点では、小泉前首相の場合、「ね」・「よ」が全体の3分の1を占め、「思います」、「です」が続くのに対し、安倍現首相では、「思います」が3分の1、次いで「であります」・「いたします」・「ございます」、3番目が「です」という比率です。

 現代ドイツを代表する哲学者ユルゲン・ハーバーマス博士は公共性をコミュニケーションとして捉えました。政治のリーダーのコミュニケーションのあり方がその公共性への考えを示しているのです。公共性が不十分である彼らが公共性を人々に説くというのは説教強盗に近いと言わざるを得ません。

 NHK教育テレビで、『読み書きのツボ』という小学34年生と56年生向けの番組が放映されています。安倍首相を含め、トップ・リーダーはこの番組を見て、リテラシーを学び直すのをお勧めします。コミュニケーション能力が今よりも向上することはまず間違いありません。

 参考までに、34年生向けの第1回のタイトルは「『です』『ます』でございます」で、第20回は「いいたいことは何ですか?」です。

 けれども、もしかしたら、NHKに放送の中止命令が下されるかもしれません。と言うのも、56年生向けの19回目として「広告のウソを見ぬけ! 〜批判的に読む〜」、20回目として「 議論の穴を探せ! 〜反論を考える」が予定されているのですから。

参考文献

ユルゲン・ハーバーマス、『公共性の構造転換』第2版、細谷貞雄・山田正行訳、未来社、1994