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いぬ・ねこの殺処分の法的根拠について

坂本博之(弁護士)

掲載日:2009年2月23日


1 動物の愛護及び管理に関する法律

・ 平成11年法律第221号を以て、従来の「動物の保護及び管理に関する法律」を改正した。

・ 第5章「雑則」の中に第40条(動物を殺す場合の方法)が規定されている。なお、この条文は、旧法第10条に該当する。

 第40条第1項 動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならない。

 第2項 環境大臣は、関係行政機関の長と協議して、前項の方法に関して必要な事項を定めることができる。

・ 第4章「都道府県等の措置等」という章の中に、第35条(犬及びねこの引取り)という条文があり、その中に次の規定がある。なお、この条文は、旧法第7条に該当する。

 第35条第1項 都道府県等(都道府県及び指定都市、地方自治法第252条の22第1項の中核市(以下「中核市」という)その他政令で定める市(特別区を含む。以下同じ)は、犬又はねこの引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。この場合において、都道府県知事等(都道府県等の長をいう。以下同じ)は、その犬及びねこを引き取るべき場所を指定することができる。

 第2項 前項の規定は、都道府県等が所有者の判明しない犬又はねこの引取りをその拾得者その他の者から求められた場合に準用する。
・・・・・

 第4項 都道府県知事等は、動物の愛護を目的とする団体その他の者に犬及びねこの引取りを委託することができる。

 第5項 環境大臣は、関係行政機関の長と協議して、第1項の規定により引取りを求められた場合の措置に関し、必要な事項を定めることができる。

・ 第35条第5項は、旧法では、「内閣総理大臣は…」となっていた。

・ 動物愛護法施行令(政令)、動物愛護法施行規則(省令)はあるが、動物を殺す場合についてはの規定は全くない。

・ 動物愛護法は、動物を殺さなければならない場合に殺す方法についての規定(法律自体には定めがなく、環境大臣に委任されているが)はあるが、どのような場合に殺さなければならないかという規定を欠いている。

・ 逆に、動物愛護法第2条は、「動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、または苦しめることのないようにするのみでなく…」と規定されている。また、同法第44条は、愛護動物(これが何かについては、同法第4条第4項に規定がある)をみだりに殺すなどの行為に対して刑事罰を設けている。


2 犬及びねこの引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置(平成18年1月20日環境省告示第26号)

・ 動物愛護法第35条第1項、第2号の規定による犬又はねこの引取り等に関する措置を定めたもの。同法第35条第5項の規定に基づいて、環境大臣が決定したものである。

・ 昭和50年4月5日内閣総理大臣決定のよる「犬及びねこの引取り並びに負傷動物の収容に関する措置要領」を改正したものと見られる。

・ 第4に「処分」という項目があり、「保管動物の処分は、所有者への返還、飼養を希望する者又は動物を教育、試験研究用若しくは生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する者への譲渡し及び殺処分とする」とある。

・ この「措置」に定められた「処分」は、殺処分だけに限られない。従って、この措置では、処分=殺処分ではない。

・ この「措置」においても、どのような場合に殺処分とすべきかは規定されていない。

・ この「措置」の第3「保管、返還及び譲渡し」という項目では、動物についてできる限り生存の機会を与えるよう努めること、保管の期間はできる限り保管動物の所有者や飼養を希望する者等の便宜を考慮して定めるように努めること、などとされている。

・ 従って、この措置全体の趣旨は、簡単に動物を殺すことは想定されていないものといえる。


3 動物の処分に関する指針(平成7年7月4日総理府告示第40号)

・ 平成12年12月1日環境省告示第59号、平成19年11月12日環境省告示第105号により、現在は「動物の殺処分方法に関する指針」と名称が変更されている。

・ 内容も、従前は「動物を処分しなければならない場合にあっては…」というような言い方がなされていた。この「指針」の内容は、専ら殺処分の方法について規定するものであったため、処分=殺処分ということになっていた。しかし、改正により、この「指針」は飽くまでも殺処分を行う場合を規定するものであることが明確にされた。従って、この指針からも、処分=殺処分ではなく、殺処分は処分の一つの形態に過ぎないことが明らかである。

・ この「指針」においても、殺処分はどのような場合に行うことができるのかということについては全く規定がない。

・ この「指針」は、動物愛護法第40条第2項の規定に基づいて、環境大臣が定めたものである。


4 各都道府県等の条例

・ 動物愛護法第9条に「地方公共団体は、動物の健康及び安全を保持するとともに、動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため、条例で定めるところにより、動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導その他必要な措置を講ずることができる」、という規定がある。

・ 以下は、茨城県の例。「茨城県動物の愛護及び管理に関する条例」というのがある(昭和54年3月19日茨城県条例第8号、平成12年条例第80号によって改称したということである)。

・ まず、この条例には定義に関する条項は第2条に置かれているが、「処分」の定義がない。

・ 第11条に「措置命令」という規定があり、「知事は、動物……が人に危害を加えたとき、又は加えるおそれのあると認めるときは、その動物の所有者に対し、次に掲げる措置を命ずることができる」とし、その第1号に「殺処分すること」としている。この規定は、県が殺処分できる場合を明文で規定している。

・ 第12条に「飼犬の抑留等」という規定がある。この条文の第1項は、「知事は、第5条第1項の規定に違反して、繋留していない飼い犬があると認めるときは、当該職員をしてこれを捕獲し、抑留させることができる」とされている。そして、その第4項に、「知事は、飼い犬の所有者が前項の期間内にその犬を引き取らないとき、又は第2項に定める公示期間満了の日の翌日までにその犬が引き取られないときは、これを処分することができる。……」という規定がある。茨城県の公示期間は、この条例第12条第2項によって、抑留した後2日間とされている。

・ 上記12条には、殺処分を行うという明文がない。寧ろ、11条に「殺処分」とあることにもかんがみれば、この条例では殺処分と処分とを区別していることが明らかである。

・ また、12条において処分に関する規定が置かれているのは、放し飼いにされている飼い犬だけであり、飼い主が「飼えなくなった」と言って持参した犬等についての処分に関しては、何らの規定もない、ということになる。ねこの処分については全く規定がない。従って、茨城県が飼い主が持参した犬や、ねこについて殺処分を行うことについては、法令上の根拠がないという疑いがある。

・ 他の都道府県等の条例についても調査してみる必要がある。


5 まとめ

・ 国の法令等においては、処分と殺処分とは別なものと理解されており、殺処分は処分の中の一つとされている。茨城県の条例でもこのような理解でよいものと思われる。他の都道府県の条例は調査の必要があるが、同様ではないかと予想される。

・ 国の法令等においては、動物の殺処分をどのような場合に行ってもよいのかという規定が全くないようである。寧ろ、犬、ねこ等の愛護動物をみだりに殺すことは刑事罰を以て禁じられている。

・ 茨城県の条例においても、動物の殺処分をどのような場合に行ってもよいのかという規定は不十分である。ねこや、飼い主が飼養を放棄した犬については、殺処分ばかりか、処分を行うことについての明文の規定はないものと思われる。

・ 各都道府県等で行っている日常的に行われている殺処分は、明確な法的根拠が内容に思われる。各都道府県等に照会等を行なってみてもよいのではないかと思われる。