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リサイクル燃料備蓄センター(RFS)

使用済核燃料貯蔵の

安全性に関する一考察(後半)

  斉藤真実
環境総合研究所(東京都目黒区)

掲載日:2014年6月7日
独立系メディア E-wave Tokyo
無断転載禁


速報1(5月17日)   速報2(5月18日)   速報3(5月19日)



●日本とドイツとの違い

 同じ法改正でも、ドイツは再処理を禁止し、使用済み核燃料の原発敷地外への搬出を禁止したのに対し、日本は原発敷地外の(再処理前提の)中間貯蔵を許可した。これは対照的だ。 

 この違いの原点は、ドイツが脱原発へ舵をきったことが大きいのではないか。ドイツは2022年までに段階的な脱原発を予定している。終わる時期が決まっているため、最終的に発生する使用済み核燃料の量も予め検討がつき、中間貯蔵施設の設計がしやすい。

 一方日本では、今でこそ原発は全基止まっているが、原発を「重要なベースロード電源」とした新エネルギー基本計画のもとでは、再稼働ありきの政策が推し進められるだろう。そうなると、最終的に使用済み核燃料をどうするのかについてのビジョンが描けないため、結局場当たり的に対応していくしか方法がない。原発を稼働させるということは、使用済み核燃料を貯蔵施設に移動させるといったほんの一過程においてもリスクが発生するのだ。

●防災対策について

 使用済み核燃料貯蔵を原発敷地内か、あるいは敷地外に置くのかについての議論でもうひとつ重要な点は、防災体制の有無である。日本では、原発から約3?5km圏内、約5?30km圏内の自治体において、原発事故時の防災計画策定を義務付けている。リサイクル燃料備蓄センター(以下「センター」とする)のあるむつ市は広域であり、東通原発から30km圏内の部分を有するため、原発に対する防災計画はある。


図4:リサイクル燃料備蓄センターと東通原発の位置、
出典:朝日新聞DIGITALの図を筆者加筆

 しかし中間貯蔵施設が発生源となった場合の防災計画策定は義務付けられてはいないので、むつ市としてはそのような想定をしていない。

 原発が順次再稼働していくようなことがあれば、中間貯蔵施設の建設は各地で検討されるだろう。実際、幾つかは検討されていた。となれば、今後原発敷地外に中間貯蔵施設が建設された場合は、その自治体は防災の問題まで抱えることになる。

リサイクル燃料備蓄センターでの貯蔵の安全性は?

 有事にどうするか、ということもさることながら、どうすれば有事を防げるのか更に重要である。

 センターは地震・津波をはじめとする自然災害や、核テロなどに対して十分安全だと保障できるのか。使用済み核燃料を50年間無事に貯蔵できる設備は整っているのだろうか。空冷(外気を取り込む)のため、塩害はどうなのか。また、放射性物質漏れがあった場合にいち早く検知できるモニタリングシステムは万全なのか。素人が思いつくだけでも、安全性についての疑問は多々ある。

 2014年5月現在、原子力規制庁(以下「規制庁」とする)による新規制基準適合性に係る審査が続行中である。月に4?5回審査は行われ、規制庁が予め受け取っているセンターの申請書を見ながら、質問・指示し、RFSが回答する。審査ヒアリング概要・資料は原子力規制委員会のサイトで見ることができる。

原子力規制委員会 リサイクル燃料貯蔵審査状況
http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/nuclear_facilities/STO/sto_01.html

 第15回5月14日までに、279もの質問・指示がなされており、そのどれに対していつRFSが回答しているかも一覧になっている。その質問・指示内容を見てみると、RFSが提出した説明資料に関して、より明確な説明や根拠を要求する指示が圧倒的に多い。被規制者の意思を尊重しながら「より詳しい資料の作り方指導」に終始している感が否めない。最大限の安全確保のための抜本的見直しという観点からの指示は見られなかった。

 事故や自然災害への対応が最も懸念されると思うので、関心が高いと思われる項目をピックアップしその概略を以下に示す。現在審査中のため、今後変更される可能性がある。
事故選定―火災・爆発; 「建築基準法」「消防法」に基づく対策をし、施設内では可能な限り不燃材・難燃剤を使用している。考えうる火災の原因としてはウエスや塗料であるため、火災規模は小さく金属キャスクへの損傷は考えられない。よって火災・爆発は事故事象として選定不要。

・自然災害―地震; 耐震設計上の重要度を3段階に分類し、それぞれの重要度に応じた地震力に十分耐えるよう設計する。

・自然災害―津波; 敷地は、標高約20m?約30mの台地にあり、造成高は標高16mのため基準津波の遡上波は到達・流入せず。よって津波は考慮不要。

・自然災害―火山活動; 火山事象の発生実績・規模、敷地付近の地形的特徴から判断して施設運用期間中に影響を及ぼす可能性は十分に低い。

・自然災害―地すべり;
 安全性に影響を及ぼすような地すべり等は生じない。

・外部人為事象―航空機落下など
 センターへの航空機落下の確率は0.0000001回/施設・年以下のため、航空機に係る事故の発生の可能性は極めて低い。(出典:別添6添付書類八「変更後における使用済燃料貯蔵施設の操作上の過失、機械又は装置の故障、浸水、地震、火災、爆発等があった場合に発生すると想定される使用済燃料貯蔵施設の事故の種類、程度、影響等に関する説明書」)
 
 これらを見ると、ほとんど考慮に入れていない。考慮に入れていたとしても十分な対策がされているかが疑問である。福島原発事故で我々が得た教訓である「想定外を想定すべし」とはつくづく難しい。

●「最長50年」で済むのか?

 安全性で最も懸念されるのは、「最長50年間の管理」という前提で安全対策がとられていることだ。

 保管期間は最長50年と定められてはいるが、使用済み核燃料の搬出については事業開始後40年目までに地元と協議することになっている。再処理工場が稼働していないので現段階では搬出の具体的な見通しがたたないことが理由であろう。

 再処理工場の稼働の見通しがたたないのであれば、施設を作り搬入すべきではないと思うのだが、再処理工場は稼働する「はず」であり、使用済み核燃料も再処理工場へ搬出さ
「はず」なのである。

 しかし前述のとおり再処理工場は竣工が延びに延びて、当初の計画より既に17年も過ぎ
てしまった。再処理工場も現在新規制基準適合性に係る審査中であり、この審査に更なる時間がかかることも考えられる。

 また、ドイツの例もあるように、再処理が行われなくなることもあり得るのだ。もしそうなれば、当初の約束である最長50年を過ぎても、搬出先も決まらずここへ据え置かれることも、無いことではない。そういった場合に、50年を過ぎても、安全性が継続されるかが懸念される。

 たとえば、金属キャスクは50年を過ぎても問題はないのであろうか。金属キャスクの長期間の密封性については、金属ガスケットの長期密封性能試験が行われている(出典:「核燃料サイクル」日本原子力学会再処理・リサイクル部会)。その結果を見ると、初期温度によって密封寿命が変わってくることがわかる。総じて初期温度が高ければ高いほど、密封寿命は減る。つまり、50年用の安全は、70年や100年といったそれ以上の年数用の安
全を保証しないのだ。

 100年を超える金属キャスク全体の長期貯蔵における健全性については、IAEAの指針もまだ作成中である。120?300年の長期貯蔵においては、米国電力研究所で2010年に研究が始まったばかりだ。

 このような状況と、再処理工場稼働が危ぶまれている状況とを重ね合わせると、最長50年という保証はなく、貯蔵の安全性についても不安にならざるを得ない。

 以上、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の安全性について考察してみた。中間貯蔵施設は、原発の稼働状況、使用済み核燃料の状況、再処理の状況などの関連の中で存在している施設である。よって、その安全性を論じる時には一連で考察すべきではある。しかし、単独の施設として考えてみても、原発敷地外に使用済み核燃料を長期間保管すること自体安全とは言い切れず、その施設に対してなされている新規制基準の適合性検査の質についても、十分とは言い切れない。

 新エネルギー基本計画では再処理を推進しているため、今後も六ヶ所再処理工場の稼働を待ちながら、日本は行き場のない「資源」という名の使用済み核燃料を抱えていく。現在、川内原発を筆頭に再稼働のための安全審査が行われている。もし再稼働をしようものなら、原発に貯蔵されている使用済み核燃料は溢れかえってしまうだろう。そうなれば、また原発敷地外に中間貯蔵施設の建設がなされるかもしれない。

 電気は原発でしか作れないものではない。再生可能エネルギーがある。それらは、ただ
置いておくしか処分方法がない使用済み核燃料や、その他の放射性廃棄物、二酸化炭素も排出しない。まだ日本国内での再生可能エネルギーの割合は低いが、それらを利用する方法は幾らでもあるし、そのための制度設計は可能だ。これ以上原発関連施設が林立しないで済むように、本格的なエネルギーシフトを実現してゆきたい。

(おわり)