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司法事故を考える

池田正行
 長崎大学大学院
医歯薬学総合研究科 教授


 いわゆる仙台筋弛緩剤中毒事件は、医師が病気を殺人と誤認したための冤罪でした。それは筋弛緩剤中毒でも、事件でもなかったのです。

◆はじめに(2010年12月8日) 

 2000年に仙台市のクリニック(2002年廃院)で筋弛緩剤ベクロニウム(商品名マスキュラックス)を患者の点滴などに混入したとして、1件の殺人と4件の殺人未遂の罪に問われた元同クリニック勤務の准看護師 守(もり)大助氏は、2008年2月、上告棄却により無期懲役の刑が確定し、現在千葉刑務所に入っています。しかし、実は、そのような事件はありませんでした。医師が病気を殺人と誤って認定してしまったために、あたかも事件があったように見えただけでした。


 通常、冤罪と言えば、真犯人が別にいるはずですが、この冤罪では、そもそも犯罪が存在しなかったので、真犯人なるものも存在しません。ベクロニウム中毒とは全く異なる病気を、すべてベクロニウム中毒と誤診したのが、この冤罪の本質です。守氏の逮捕から10年経った今日まで、このような冤罪とそれを生んだ誤診がなぜ放置されているのかを、このページで説明していきます。

司法事故について

 かつて医師は神であると信じていた人達が医療事故を認めなかったように、警察官、検察官、裁判官を神として信仰する人々には司法事故が見えません。警察官、検察官、裁判官に対する無謬性信仰、情報の非対称性、専門性の壁、閉鎖性といった問題点が放置されている点で、司法界は五十年以上前の医療界とそっくりです。

 「To err is human過つは人の常」という金言は、司法界では未だ通用しませんが、医療過誤・医療事故の何たるかをご存じの方ならば、司法過誤・司法事故という概念も、それらが生じる背景も、容易に理解していただけるでしょう。


参考:
海道 尊.「司法過誤」と「医療過誤」 
「司法事故調査」的事例研究への心理学的アプローチ(1) ― 足利事件における虚偽自白生成および発見失敗現象の検証を事例として ―法と心理学会 第11 回大会 ワークショップ 2010年10月16日


1.筋弛緩剤中毒でも事件でもなかった「筋弛緩剤中毒事件」:事件も犯人もいなかったのに、病気を殺人と医師が認定したために冤罪が生まれました。一応医師向けに書いていますが、一般市民の方にも、十分ご理解いただけます。

2.裁判関係者向けの誤診についての解説:医師にとっては明白な誤診でも、一般市民にはわかりにくいものです。

3.学術的な症例報告の形での誤診の解説:より詳しく知りたい医師のために。

4.ケアネット症例検討会 
(無料登録で閲覧可能。ただし医師のみ):何も専門医でなくても、医師ならば誰でも、「筋弛緩剤中毒などあり得ない」と判断できることがわかります。


 検察官や裁判官には医療のことはわかりません。ですから、医師が彼らに間違った判断を示せば、冤罪は簡単に成立してしまいます。病気と診断されていた5例を、全て殺人行為の対象と誤って認定したのは、私と同じ医師です。その過ちによって守氏が千葉刑務所に入っているという悲劇に終止符を打てるのも、やはり医師です。しかし、私一人が冤罪だと主張しても、世間は認めてくれません。ましてや裁判所は再審の道を堅く閉ざしたままです。もっともっとたくさんの方の御尽力をいただきたく存じます。